1999年にイギリス南西部のシリー諸島で発見された紀元前1世紀の戦士の遺体は、副葬品に男性であることを示唆する「剣」があっただけでなく、女性であることを示唆する「手鏡」も含まれていたため、考古学者らは遺体の性別が男女どちらなのか特定できずにいました。遺体は損傷が激しくDNA分析ができませんでしたが、歯のエナメル質に含まれるタンパク質を分析した新たな研究により、遺体は女性のものだったことが判明しました。

Sex identification of a Late Iron Age sword and mirror cist burial from Hillside Farm, Bryher, Isles of Scilly, England - ScienceDirect

https://doi.org/10.1016/j.jasrep.2023.104099



New Scientific Study Solves Mystery of 2000-year-old Grave | Historic England

https://historicengland.org.uk/whats-new/news/new-scientific-study-solves-mystery-2000-year-old-grave/

Iron Age warrior woman was buried with a sword and a mirror | Live Science

https://www.livescience.com/archaeology/iron-age-warrior-woman-was-buried-with-a-sword-and-a-mirror

1999年、シリー諸島で最も小さな有人島であるブリーハー島で、紀元前100〜50年頃の墓が発見されました。埋葬されていた遺体の副葬品には、金属製のブローチや盾などに加え、同時代・同地域において一般的に男性の戦士と共に埋葬されていた「剣」と、女性と共に埋葬されていた「手鏡」の両方が含まれていたとのこと。

以下の写真に写っているのが、実際に遺体と共に埋葬されていた鉄製の剣と手鏡です。異なる性別と関連付けられる副葬品が同時に発見されたことから、この遺体は非常に珍しいものだと研究チームは指摘しています。



遺体は損傷が激しかったため、発見された骨と歯を集めてもわずか150g程度しか残っていませんでした。歯の摩耗から死亡時の年齢は20〜25歳程度だと推定できましたが、骨は経年劣化によってひどい侵食を受けており、研究者らはDNAを分析して性別を特定することができなかったとのこと。

そこで、イングランドの歴史的遺物を保護する公共機関であるヒストリック・イングランドやカリフォルニア大学デービス校などの研究チームは、歯のエナメル質に含まれるアメロゲニンを分析して性別を判定することにしました。アメロゲニンはエナメル質に含まれるタンパク質の90%を占めており、それがX染色体に由来するものなのか、それともY染色体に由来するものなのかを判別できるそうです。

分析の結果、遺体の歯に含まれるアメロゲニンはX染色体に由来するものと特定され、Y染色体に由来するものは発見されませんでした。一般的に男性は一対の性染色体が「X・Y」の組み合わせであり、女性は「X・X」の組み合わせであることから、研究チームは遺体の性別は96%の確率で女性だと結論付けました。



約2000年前の鉄器時代における戦争は奇襲が主流であり、鏡には味方間で通信したり攻撃タイミングを調整したりするといった実用性があったと考えられています。また、超自然的な世界と通信するツールとして、襲撃を成功させたり無事の帰還を祈願したりするなど、鏡には象徴的な意味合いもあったそうです。

ヒストリック・イングランドのサラ・スターク博士は、「剣と鏡の組み合わせは、この女性がコミュニティ内で高い地位にあり、地元の戦争で指揮を執り、ライバルグループへの襲撃を組織または主導した可能性があることを示唆しています」と述べ、鉄器時代のシリー諸島では戦争において女性が主導的な役割を担っていた可能性があると指摘。「このことは、鉄器時代の社会において襲撃やその他の暴力行為に女性が関与することが、これまで考えられていた以上に一般的であったことを示唆しているのかもしれません」とコメントしました。