赤ちゃんとの生活で「快楽物質」が…？「赤ちゃんに転生した話」作者・茶々京色さんインタビュー
ブラック企業に勤めていた男性“和史くん”が、赤ちゃん“エミちゃん”に転生する、という独自の設定で描かれる漫画「赤ちゃんに転生した話」は、かわいらしい赤ちゃんの姿にハマる読者が続出。さらに、和史くんの心の声によって、赤ちゃん特有のしぐさや行動の理由が明かされ「勉強になる」「リアル」などの声が相次いでいる。
作者は、医療従事者でもある漫画家の茶々京色(ちゃちゃ・きにろ)さん。自身の育児体験をもとにした本作はSNSでバズり、医療監修をつけた新版として「毎日が発見ネット」で配信中。ダ・ヴィンチWebでは大好評に応え、茶々京色さんのインタビューとともに、5ページの描き下ろし原稿を掲載している。
■育児に携わる人の不安を少しでも軽くしたい
――「次にくるマンガ大賞」のノミネート、おめでとうございます。エントリー数およそ5000作品の中から選ばれましたが、今のお気持ちや今後の抱負をお聞かせください。
茶々京色(以下、茶々)：「こんな漫画が読みたい」とラフに描いてアップした漫画が、皆様と共に成長し、書籍化し、ついにはノミネートされたことを本当にうれしく思います。読者の皆様、周りのサポートしてくださる方々、たくさんの人に恵まれて光栄です。これからも皆様の想いに応えられるよう、皆様の人生において何かしらのプラスになるよう頑張っていきたいと思います！
――本作は、「赤ちゃんはなぜこんなに泣くの…？」など、育児で感じる「なぜ？」「どうして？」を解決してくれると評判です。どのような想いでこの漫画を描き始めたのでしょうか。
茶々：「育児に携わるすべての方々の、日々の不安を少しでも軽くする一助になりたい」。そんな思いから誕生しました。原始反射、身体発達、小児傷害事故など、赤ちゃん特有の発達や出来事を、漫画を通して楽しく学ぶことができれば、みなさんの赤ちゃんを慈しむ心がより深まるのではないか。自分自身もそういった漫画が読みたい、という気持ちがありました。
――本当に「そうだったのか！」という発見が多く、子供への理解と慈しむ気持ちが深まっています。読者のコメントの中で、とくにうれしかった、もしくは意外だった、と感じる言葉を教えてください。
茶々：「この行動って反射だったんだ！」や、「赤ちゃんが泣くのも無理ないな」など、誰に強制される訳でもなく、赤ちゃんに寄り添う気持ちが動いているようなコメントが多くて、とてもうれしいです！
意外だったのは、想像以上に細かい部分まで読み解いてくださっていることです。たとえば、主人公の和史くんが発熱をきっかけに実の母親のことを断片的に思い出すシーン。母親のセリフは意図的に効果音で隠していましたが、一語一句を完璧に解読した方がいて、思わずSNSをブックマークしました(笑)。今後紹介するであろう疾患や傷害事故を予測されることもあり、フォロワーの皆様にはいつも驚かされています。
→◆【漫画】本編を読む
■和史くんがおもしろく物語を進めてくれて助かっている
――とくに反響が大きかった回や、ご自身のお気に入り回を教えてください。
茶々：最近でいうと、エミちゃんの寝返り成功回です。寝返りという動作そのものに関する話や、反射の話を思う存分に入れることができ、私自身も描くのが楽しかったので、たくさんの反響をいただいてうれしかったです。それと、エミちゃんの成長とともにチカチカと星が舞うエフェクトを入れているシーンは、どれもお気に入りです！
――寝返り回では、和史くんが自らの動きを分析しながら練習する姿が真剣そのもので、まるでヒーローものの修行風景を見ているようでした！無邪気なエミちゃんが感じていることや目に見える風景が成人男性によって冷静に語られる…という構図に毎回笑わされます。このような設定にした理由とは？
茶々：赤ちゃんの物語を描くにあたって、主人公は何も知らない赤ちゃんではなく、ある程度の知識があって言語を使いこなせる大人である必要があったので、和史くんを主人公にしました。
成人男性かつポジティブ思考な和史くんが主人公になることで、赤ちゃんの身体の受容、周りの環境への適応、今後の方針など、彼自身が勝手におもしろく物語を進めてくれるので助かっています。
目立ったチートスキル(現実ではありえないような高い能力や技能)がないからこそ、転生者としての工夫や戦略、リスク管理能力が今後も活きてくるのではないかと思います。
――登場するキャラクターたちの個性も強烈です。おじいちゃんの小児科医は「痛みに鈍いのかな？」と和史くんの予防接種の接種部位をギュッと押さえて、「インフォームドコンセントが!!不足している!!赤ちゃんだからって！」と和史くんつっこまれたりして…。実際のモデルはいるのでしょうか？
茶々：ありがとうございます(笑)。モデルはいませんが、とある国の元大統領がデザインの元になっています。優しそうで、ユーモアがあって、優秀な、身内には厳しい、多分怖いお医者さんです。患者からの評判は良さそうです。
――「赤ちゃんに転生した話」がMVになったと聞きました。映画「おしりたんてい」の主題歌を手がけたはりーP(針原翼)さんが作曲、歌唱力日本一決定戦準優勝の実力を持つKK(上北健)さんが歌を担当したという豪華な組み合わせで、今後の展開が楽しみです。
茶々：良いご縁に恵まれ、素敵な楽曲とMVを作っていただきました。作成にあたり、「赤転」の深いところまで読み取っていただき、感謝しています。さまざまなアーティスト方の感性に触れられ、享受できたことを限りなくうれしく思います。本当にありがとうございます！
■赤ちゃんがいる生活で快楽物質が…
――育児をしながら医療従事者として働き、さらに漫画を描くという毎日は、とても大変だと思いますが…。
茶々：夫が休みの日に作業時間を作ってくれるので、助かっています。夫のサポートがなければ、ここまで連載を続けられませんでした。子供と一緒に早く寝て、朝早く起きて作業しています。iPadで描いているので、通勤電車の中などで隙あらばネームを進めるなどして、毎日少しずつでも描けるように工夫しています。
――赤ちゃんの頭を吸うなど、ママさんのエミちゃん大好きな言動はまさに“子育てあるある”。少子化が進む中、赤ちゃんがいる生活は、ご自身にとってどんなものだと感じますか？
茶々：仕事が終わって保育園に子供を迎えに行くとき、まるで片思い中のようなドキドキ感と、早く会いたい焦燥感があります。間違いなく、赤ちゃん(我が子)がいる生活は私にとって人生の活力になっています。何か快楽物質が出ているのではないか、と感じています。
――本作は他にはないまったく新しい観点で描かれていると感じますが、転生系の漫画は今や定番人気です。茶々京色さんも、転生系の漫画はお好きなのでしょうか。
茶々：転生系というよりは、馴染みのない環境に対し、持っている知識や情報をいかに工夫して物語を進めるか、という漫画が大好きです。とくに好きな漫画は、藤のようさんの「せんせいのお人形」です。あと、転生ものとは少々異なりますが、」悪役令嬢の中の人〜断罪された転生者のため嘘つきヒロインに復讐いたします〜」(漫画：白梅ナズナ／原作：まきぶろ)の、表情豊かなキャラクターたちの描写に目を惹かれます！いかなる場合も先手を打ち、愛する者のために戦う強く美しい主人公レミリアの物語は痛快でとてもおもしろいです！よくある悪役令嬢ものだと油断して読むと、この物語と世界に圧倒されると思います。
――今回の描き下ろしでは、新キャラとなるママさんの母親や妹が登場していますね。これからの展開でファンの方に楽しみにしてほしいことを教えてください。
茶々：よりコメディ色の強いお話や、赤ちゃんのさらなる発達、離乳期について描いていく予定です。第二部では、ブラック企業時代の灰萩先輩が絡んでくるので、現世のエミちゃんとどのように関わるのか、これからの展開をお楽しみに。
→◆【漫画】本編を読む
→◆【漫画】「赤ちゃんに転生した話」を読む
文＝吉田あき
