ブームとなった「シークレット花火」。コロナ禍の人びとを楽しませた(筆者撮影)

梅雨が明けたら、本格的に夏がやってくる。2023年は、新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行して最初の夏とあって、行楽やイベントなど久しぶりに盛り上がりそうだ。そして夏の風物詩である花火大会も、4年ぶりに開催する自治体が多い。

“ハナビスト”として全国の花火をウォッチし続け、その美しい写真を撮り続けてきた筆者が、「花火大会の最新トレンド」と「今年見ておきたい花火大会」について説明したい。

花火業界が見いだした「新たなビジネスの活路」

まずはコロナ禍で花火大会がどうなっていたのか、少し振り返ってみたい。

この3年は花火大会などのイベントが中止となり、花火業界は大打撃を受けていた。やむなく社員を半分以下に減らしたり、給料を大幅に減らさざるをえず、社員にアルバイトを推奨したりするなど、苦しい防衛策を余儀なくされた。厳しい3年間だった。

とはいえ、この未曾有の危機が与えたのは、苦しいことばかりではなかった。これまでとは違う“花火のトレンド”を生み出していたのだ。

花火大会といえば、もともと行政が主催する大規模なものが多かった。しかしコロナ禍で開催がなくなり、花火業者の売り上げも激減。そこで、花火業者の若手が少しでも業界を盛り上げようと「シークレット花火」や「サプライズ花火」などのプライベート花火を企画した。これに地元の青年会議所や花火愛好家などの一般の人、企業が呼応し、各所で開催されるようになった。

大規模な花火大会ではないとはいえ、もちろん警察や消防の許可は必要だ。その際、安全のため、人がたくさん集まる条件は禁止される。それゆえに時間や場所を告知しない「シークレット花火」や「サプライズ花火」といった形態が広がったのだ。

例えば、コロナ禍によく見られた「医療従事者への感謝を込めたサプライズ花火」もその一環だ。これ以外にも、個人的な誕生日のサプライズ、クリスマスやカウントダウンなどのイベントでも企画され、花火がより身近になった3年間だった。



上は兵庫県の姫路セントラルパークの観覧車をバックに、下は神奈川県の芦ノ湖で打ち上げられた花火(筆者撮影)。筆者(冴木一馬氏)が時代の“流れのままに”撮影した花火の写真展「As it flows」が2023年7月16日まで開催中。開場時間:10時〜16時休館日:月曜日・祝休日(土曜日・日曜日が重なる場合は開館。会期中の休館日は、6月26日、7月3日、10日)場所:尼信会館1F展示室(兵庫県尼崎市東桜木町3番地)入館料:無料

プライベート花火は、打ち上げ数にもよるが、5〜10分の打ち上げで30万〜50万円程度の費用になる。昨年までのコロナ禍では、筆者の知るところでは1カ月に全国で200カ所ほども打ち上げられていた。花火といえば夏の風物詩だったが、季節問わず1年中企画されるようになり、花火業者への依頼は急増。小規模な売り上げとはいえ、筆者の知る業者では、コロナ禍前の半分くらいの売り上げ水準に戻った、という会社もあった。

「夏じゃなくても花火」のブーム到来

この“夏以外での打ち上げ花火”について、実は2000年にブームの芽が出ていた。21世紀を迎えようとしていたこの年の大晦日、明石市でミレニアムカウントダウンのイベントが開催された。この時、花火が打ち上げられ、海外では一般的だった「夏じゃなくても花火」というトレンドが認知されていった。


西欧で使用されている花火玉(筆者撮影)

ちなみにだが、海外と日本の花火は見た目にも特徴が違う。海外では円筒型の玉を使用し、色味は蛍光色が強めで明るい。日本の花火はまん丸の玉を打ち上げるが、光の輪が丸く開くのが特徴だ。これは世界唯一のもので、パリ祭やアメリカの独立記念日でも日本の花火が採用されるなど、“世界一の芸術”として評価されている。


海外で打ち上げられる、蛍光色強めの花火(筆者)

それゆえに、その製造には高度な技術を要する。花火業者には、職人が花火玉を作って打ち上げまでを行う製造業者と、玉を日本に限らず海外からも仕入れ、打ち上げまでを手配する販売業者の2通りある。コロナ禍で大打撃を受けたとはいえ、世界に誇れる技術を守り続け、家内工業で持ちこたえた。そのため、ここ10年ほど花火業者の数は減っていない(公益社団法人 日本煙火協会に加盟する業者は320社ほど)。


まあるい円形が特徴の日本の花火玉。高度な職人技術を要する(筆者撮影)

また、昨今の特徴として、イベント会社が参入した「芸術花火」というものがある。花火と音楽をシンクロさせたプログラムが見どころで、有料席のチケット販売やスポンサー収益で利益をあげる花火大会だ。これまでに「茅ヶ崎サザン芸術花火」や「京都芸術花火」など多くの芸術花火大会が開催され、今年は5月20日に愛知県名古屋市の名古屋港ガーデンふ頭で「名港水上芸術花火2023」が盛況を見せた。



最近トレンドとなった「芸術花火」。有料席でゆったり鑑賞するのも大人の楽しみ方だ。写真は、2020年に宮崎県宮崎市で開催された「みやざきシーサイド芸術花火2020」(筆者撮影)

このように夏以外でも需要が高まり、加えて今年は花火大会が戻ってくる。花火業界の盛り上がりは想像にかたくないが、ここで問題なのが人手不足の深刻だ。コロナ禍で人員を減らしてしまった花火業者では職人の手が足りていない。

行政が主催する花火大会では、実施にあたり地元の花火業者に依頼することが多い。しかし、業者の人手不足が深刻な今年、それを1社で担うことが難しく、数社合同で請け負う花火大会が増えるだろう。しかしそれは悪いことではない。さまざまな業者が入り交じることで花火の種類にバリエーションが出て、見る人を楽しませるはずだ。

2023年夏、見ておきたい花火大会は

では、2023年に見どころとなる花火大会はどれだろうか。

まだ開催を発表していないものもあるが、ポイントは「地方の花火大会」だ。花火の打ち上げには、各都道府県で定められる「火薬類取締法」に基づく申請を行う必要があり、さらに消防へ「火災予防条例」に基づく届け出をしなくてはならない。

火薬類取締法は都道府県によって内容が違う。打ち上げの安全距離や花火玉の大きさ、許可される花火の種類などが決められており、一般的には建物や人が多い都心ほど厳しく、それらが少ない地方のほうが許される範囲が広い傾向にある。つまり、地方のほうが見られる花火の種類が多くなるということだ。

東京都でいうと、江戸時代から続く日本最古の花火大会と言われる「隅田川花火大会」は、打ち上げ数は全国でも有数の2万発だが、大都心のため玉の大きさや花火の種類は限られている。一方で、「いたばし花火大会」は打ち上げ数は隅田川に及ばないとはいえ、打ち上げ場所となる荒川の川幅が大きいため、都心では比較的大きな玉を使用できる花火大会といえるだろう。


東京都墨田区で開催される隅田川花火大会(筆者撮影)

また、花火の規模(花火の種類や打ち上げ数の多さ、玉の大きさなど)は、一般的には「火薬代」によって左右される。身も蓋もない話だが、予算があればあるほど、豪華な花火大会になるのだ。

それらの観点から、筆者が今年注目する花火大会は、8月19日に山形県鶴岡市で行われる「赤川花火記念大会」だ。コロナ禍で延期されていた第30回を記念する花火大会で、同大会での火薬代の予算は過去最高とも聞いている。全国の有名花火大会に匹敵する豪勢さと美しさを見せるはずだ。



スケールの大きな美しさを見せる山形県鶴岡市の赤川花火記念大会(筆者撮影)

とはいえ、都心のビル越しに眺める非日常感あふれる花火も、地方の豪華でド迫力な花火も、どれも記憶に残る素晴らしいものとなるだろう。待ち望んだ夏の風物詩を、今年は目一杯楽しんでいただきたい。

(冴木 一馬 : ハナビスト)