子どもが出す「腰痛サイン」と腰痛予防エクササイズ

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前回は東京経済大学全学共通教育センター特任講師の押川智貴先生に、野球と子どもの「腰」「腰痛」についてお話を聞きました。今回はさらに踏み込んで、子どもの腰痛の予防法と腰痛になってしまった時の注意点などにについて詳しくお話を聞きました。

【腰痛の予防とエクササイズ法】

そもそも、なぜ腰痛になるのでしょうか? それは腰を大きく反りすぎたり、大きく曲げすぎたり、あるいは大きくひねりすぎたり、腰の筋肉を使いすぎたり、といったことが原因で腰痛は引き起こされます。

ここまではイメージしやすい話だと思いますが、「腰痛には太ももの前・後の筋肉の柔軟性も深く関係しています」と押川先生は言います。

「腰を曲げたり、反ったりするときに骨盤も一緒に動けば問題はないのですが、太ももの筋肉の柔軟性が低下していると骨盤の動きを制限してしまいます。

どういうことかというと、前ももの筋肉(大腿直筋)が硬すぎると骨盤が前傾してしまうため、少し腰を反っただけで椎間関節への負担が大きくなり、腰椎分離症になりやすくなります。一方で太ももの裏(ハムストリングス)が硬すぎると、今度は骨盤が後傾してしまい、少し前屈みになっただけで椎間板への負担が大きくなります。つまり、太ももの筋肉(前・裏)の柔軟性が骨盤の動きを介して腰への負担に影響しているのです」

だからこそ、日頃から太ももの筋肉のストレッチや、腰への負担を軽減するエクササイズを行うことが、子どもの腰痛防止に繋がります。

腰痛を防止するために効果的な、代表的なストレッチ、エクササイズを押川先生に教えて頂きました。

≪大腿直筋のストレッチ≫

・横向きに寝て、つま先を手でつかむ

・その状態のまま、ゆっくりと股関節の前側を伸ばす

※お腹を凹ませて、お尻を締めながら実施するとストレッチ感が増える

・5秒伸ばしたら、緩める

*5〜10回繰り返す

(参考:https://ar-ex.jp/sakudaira/831490160727/%E8%82%89%E9%9B%A2%E3%82%8C%E4%BA%88%E9%98%B2%E3%81%AE%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%81)

≪ハムストリングスのストレッチ≫

・仰向けで片側の太ももを両手で抱えて、太ももの前側を胸へつける

・その状態のまま、膝を伸ばしていく(伸ばしきれなくても問題なし)

・5秒伸ばしたら、緩める

*5〜10回繰り返す

(参考:https://diamond.jp/articles/-/269249?page=2)

≪背中、胸椎、肋骨を回す動きを高めるエクササイズ≫

・四つ這いの姿勢から片手を後頭部につける

・骨盤が動かないように意識して、頭につけた手側の肩甲骨を背骨に寄せながら、肘を上げて目線を肘へ向ける

・肩甲骨を背骨に寄せつつ、肘を上げたまま5秒キープする

・上げた肘を、今度は反対の肘にくっつけるように体の内側に入れる

・両肘をくっつけるように保持したまま5秒キープする

*5〜10回繰り返す

これらのストレッチ、エクササイズはプロの選手もやっているそうですが、高い筋力が必要なわけではないので、小学生のお子さんにもどんどんやってもらいたいそうです。

【子どもが出す腰痛サイン】

分離症(疲労骨折)は痛さの程度もそこまで強くない場合もあり、またその子が痛みに強い子であればプレーを継続できてしまうそうです。

「痛いけどプレーはできる」ということは、実はとても厄介なことだと押川先生は話します。

「骨にひびが入って、それが大きくなっている時期はそこに炎症が起こっているので痛みを感じます。それでもプレーを続けていると、やがて完全に分離してしまいますが、完全に分離すると痛みがなくなる場合が多いです。そうすると『痛みがなくなった!』『腰痛が治った!』と子どもは勘違いしてしまいます。

完全に分離すると痛みは減るものの、その後の人生で『椎間板ヘルニア』や『すべり症』を発症する可能性が高くなります。椎間板ヘルニアやすべり症になると慢性的な痺れや鈍痛、急に動いたときに刺すような痛みが出てきます」

痛みを我慢してプレーしてしまう(ひびが大きくなり、炎症が起きている状態)



痛みが減った・なくなった(完全に分離した)からプレーを続ける



分離症のままプレーを続けていると、中学、高校以降のどこかのタイミングで椎間板ヘルニアやすべり症(慢性的な痺れや鈍痛)を発症してしまう

つまり、小学生時代の腰痛を放置することが、将来的には重度な腰痛を引き起こすことに繋がりかねないのです。

「椎間板ヘルニアやすべり症になってしまうと、重度な場合は外科的な手術が完治のために必要になります。腰という大事な部位の手術は怖いものです」

【病院選びも慎重に】

高学年の子どもであれば、親御さんも腰痛を一時的な成長痛と見過ごしてしまう場合もあるかもしれません。押川先生は「腰椎分離症」を疑ってみるケースにつとして次のような例を挙げています。

・4週間以上、痛みが続く

・腰の痛みが左右のどちらか片側から始まった

・痛みが出て中長距離を走れない

・うつぶせの状態で背骨のボコボコした部分を押すと痛い

また、以下のような症状がある場合は「すぐに専門医に受診した方がいい」ケースになるそうです。

・下半身に痺れや痛みがある

・夜間や安静にしているときでも強い痛みがある(楽になる姿勢がない)

・痛みに伴う発熱や倦怠感がある

病院で受診してもらう場合も、整形外科であればどこでも良いというわけではないそうです。

「できればスポーツ選手を多く診察している整形外科で、腰を専門としている先生の受診を仰ぐことが望ましいです。腰椎分離症の一歩手前や分離が進行中の状態だと、レントゲンだけでは分からない場合もあります。完全に分離している状態であればレントゲンでも評価できますが、分離症一歩手前の初期段階で炎症を起こしている状態や、分離の進行段階はMRIによる評価が望ましいです。また、椎間板に関してはMRIによる評価でないと明確な状態が分かりません」

少しでも子どもが「腰が痛い」と訴えてきたら、慎重に見てあげることが大切です。

少年野球は野球の入口。決してゴールではないのですから、無理は禁物です。