幸せな生活を送るためにはどうすればいいのか。作家のエリック・バーカー氏は「人間の幸福度が最も高いのは、友達と過ごす時間だという研究結果がある。たとえば、職場に親しい友人が3人いれば、人生に幸せを感じる可能性が96%高くなる」という――。

※本稿は、エリック・バーカー『残酷すぎる人間法則 9割まちがえる「対人関係のウソ」を科学する』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。

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■親しい友達の数は平均で2人

2009年のある調査によると、アメリカ人は平均4人と親しい間柄にあり、そのうち2人が友だちだという。イエール大学のニコラス・クリスタキス教授によれば、こうした統計は過去数十年にあまり変化せず、また、世界的にも同様の数字が見られるという。

そして、大多数の研究が、友だちの数より質のほうが重要だとしている一方で、やはり数も重要だ。幸福度で、「非常に幸せ」と答える可能性が60%高くなるのはどんな人びとか? それは、悩みごとを相談できる友だちが5人以上いる人だ。

当然のことながら、友だちの数が最も多いのは若いころで(10代の平均は約9人)、その後はだいたい歳とともに減っていく。これは悲しい。配偶者には申し訳ないが、友だちは、どの人間関係よりも人を幸福にしてくれるものだからだ。

ノーベル賞受賞者のダニエル・カーネマンは、人びとのその時どきの幸福度を調査すると、友だちと過ごしているときが最も高いことを発見した。この結果は、年齢に関係なく、また、世界じゅうのどこでも見られた。

■友達と遊ぶ幸福度は年収1300万円アップに匹敵

職場において友情がもたらす影響も負けず劣らず大きい。上司を「親しい友人」と見なす人は20%に満たないが、その人びとは、仕事を楽しめる確率が2.5倍高くなる。職場に親しい友人が3人いたら? 人生に幸せを感じる可能性が96%高くなる。つまり、「仕事に満足」するのみならず、「人生に満足」しているということだ。

また、誰しも昇給は大歓迎だろうが、『ジャーナル・オブ・ソシオエコノミックス』誌が2008年に行った調査によると、収入の変化は幸福度のわずかな増加をもたらすだけだが、友人と交流する時間が増えると、9万7000ドル(約1300万円)の年収増加に匹敵する満足が得られることがわかった。そして全体として、友人関係の変数は、あなたの幸福感の58%を占めている。

また、友だちを持つことは、健康でいるためにも欠かせない。心理学者のジュリアン・ホルト=ランスタッドの研究によると、孤独感が健康に及ぼす悪影響は、1日15本のタバコに匹敵するという。

なるほど、友だちはありがたいものだ。それは間違いない。では、どうやって人間関係を作ればいいんだろう?

■カーネギーの『人を動かす』は科学的にも正しい

人間関係のバイブルと言えば、デール・カーネギーの著作だろう。『人を動かす』は、1936年に出版されて以来、3000万部以上を売り上げ、刊行から1世紀近く経った今でも、毎年25万部以上が売れている。

では、カーネギーはどんなことを勧めているのだろうか?

まず人の話を聞くこと、相手に興味を持つこと、相手の立場に立って話すこと、心から褒めること、相手との類似性を探すこと、衝突を避けることなど、当たり前のようでいて、誰もが日常的に忘れていることを推奨している。

しかし、『人を動かす』が書かれたのは、この分野での正式な研究が始まる前であり、その内容のほとんどは逸話的なものだ。カーネギーの助言は、現代の社会科学とマッチするのだろうか?

じつは、驚くほど一致する。アイオワ州立大学教授で、友情について研究するダニエル・フルシュカが指摘するように、カーネギーの基本的テクニックの大半は、数多くの実験によって検証されてきた。

たとえば、相手との類似性を探すという方法は、「もう1人の自分」という感覚を促すことが明らかになっている。誰かが怪我するのを見て、わがことのように思わず身をすくめたことはないだろうか?

神経科学者のデイヴィッド・イーグルマンがMRIで調査を行なったところ、こうした同情苦痛は、被害者が自分と似ていると認識したとき(たとえその分類が独断的でも)に増幅することが証明された。社会心理学者のジョナサン・ハイトも、「私たちは、“他人”と見なしている者には、それほど共感を覚えない」と述べている。

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■カーネギーが間違えていた「たった1つのこと」

ただし、さすがのカーネギーも1つ間違っていた。『人を動かす』のなかの8番目の原則に、「相手の立場になって物ごとを見る」とある。心理学者のニコラス・エプリーはこの原則を検証し、歯に衣を着せずこう述べている。

「他者の身になり、その人の目を通して世界を想像する『視点取得』が、判断の正確さを高めるという証拠は、まだ1つも見つかっていない」。この方法は、効果がないだけでなく、意外と相手との関係を悪くしてしまうのだ。

カーネギーの本は、人間関係のごく初期の段階ではとてもためになり、また、ビジネス上の取引関係にも最適だ。しかしともすれば、詐欺師にとって格好の作戦帳にもなりうる。焦点が、相手と長期的かつ親密な関係を育むことではなく、戦術的に人から利益を得ることに置かれているからだ。

カーネギーは、「人間工学」や「人を喜ばせて、こちらの望むことをやってもらう」といった言葉を頻繁に使う。公平に言えば、たしかにカーネギーは、善意を持つべきだとくり返し言っている。だが空ろに響く。

社会学者のロバート・ベラは、「カーネギーにとって、友情は企業家の職業上のツールであり、本質的に競争の激しい社会で意思を通す手段だった」と述べている。もしあなたが血のつながった兄弟のように絆の深い友を探しているなら、『人を動かす』は役に立たないだろう。

■友達になるためには一緒に過ごす時間が欠かせない

では、「もう1人の自分」との深い友情を生むものは何なのか? それには、「シグナリング理論」と呼ばれる研究分野が参考になる。「コストのかかるシグナル」を発するほど、より強力なシグナルとして相手に作用するという考え方だ。

真の友人になるために有効な「コストのかかるシグナル」として、専門家のあいだではっきり意見が一致しているものが二つある。

1つ目は「時間」だ。なぜ時間は強力なシグナルなのか。それは、希少な資源だからにほかならない。

北アリゾナ大学のメリクシャ・デミルによると、それは親交、つまり、ただいっしょに時間を過ごすことだという。そして、研究結果によると、友人関係で最も一般的な対立の原因は何だと言われているだろう? 案にたがわず、またもや「時間」である。それを避けては通れない。時間はきわめて重要だ。

■友達になるには100時間、親友になるには200時間以上かかる

というわけで、大人になってから友人と過ごす時間を増やすには、どうすれば良いだろう? カギとなるのは「儀式」だ。交友関係を持続できている人のことを考えてみよう。意識的かどうかは別として、おそらく、儀式のようなものがつき合いの根底にあるはずだ。

「毎週日曜に話をする」とか、「いっしょにエクササイズをする」など。ほかの友人関係でも、それと同じことをしてみよう。きっとうまくいく。何か継続していっしょにできることを探してみよう。

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800万件以上の電話を分析したノートルダム大学の調査によると、2週間おきに何らかの形で連絡を取るのが、良い目標になるようだ。その最低限の頻度を保てば、友人関係が持続する可能性が高くなる。

しかし、新しい友人を作るには、さらに時間がかかる。カンサス大学のコミュニケーション論教授のジェフリー・ホールの調査によると、軽い友情を育むのに60時間、「本格的な友人」になるには100時間、そして自慢の「親友」になるには200時間以上かかったという。もちろん、ときにはそれ以上だったり、以下だったりするだろうが、いずれにしても膨大な時間だ。

■自分の弱みを見せることは信頼の源になる

2つ目の「コストのかかる」シグナルは、「脆弱性」だ。

皮肉なものだ――私たちは、とかく初対面の人にいいところを見せようとしがちだが、これがとんでもなく間違っている。研究者たちは、自分のステイタスの高さを示すことは新しい友情を築くのに役立つどころか、害を及ぼすことを発見した。

またも営業成績を上げたり、リーダーシップを匂わせるには効果があるかもしれないが、「もう1人の自分」を見つけることは、いっそう困難になってしまう。

人びとは、自己開示にリスクがあることを知っている。コロンビア大学の社会学者、マリオ・ルイス・スモールの大規模な研究によると、私たちには、親しい友人より赤の他人に個人的なことを詳しく話す傾向が少なからずあるのだという。

嫌な人に個人的なことを明かして、弱みにつけ込まれたくはない。しかし皮肉なことに、私たちの脆弱性こそが信頼の源なのだ。

■見知らぬもの同士がたった45分で親友になる方法

脆弱性を示すことは、自分たちがともに排他的なクラブのメンバーであることを伝える。あなたにとって、相手は特別な存在なのだ。心理学者のアーサー・アロンは、自己開示が「もう一人の自分」をつくり出すのに直接役立つことを発見した。アロンの研究では自己開示の結果、たった45分間で見知らぬ同士を親友にしたのだ。

エリック・バーカー『残酷すぎる人間法則 9割まちがえる「対人関係のウソ」を科学する』(飛鳥新社)

自分の弱みを見せることは効果的であるだけでなく、じつはあなたが考えるほど危険なことではない。

心理学では、「美しき混乱効果」なる現象が実証されている。私たちは、自分の落ち度がどれほどマイナスに受け取られるかについて、つねに過大評価している。マヌケだと思われ、追放の憂き目に遭うかのように思っているが、調査によると、多くの人は、誰かがたまに失敗することを肯定的に見ている。

自分が何かをしくじると、無能だと思われるのではないかと不安になるが、他の人が同じ失敗をしたときにその人を批判することはめったになく、むしろ温かく迎えることが多いのだ。

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エリック・バーカー(えりっく・ばーかー)
作家
大人気ブログ“Barking Up The Wrong Tree”の執筆者。脚本家としてウォルト・ディズニー・ピクチャーズ、20世紀フォックスなどハリウッドの映画会社の作品に関わった経歴を持ち、ニューヨーク・タイムズ紙、ウォール・ストリート・ジャーナル紙などに寄稿している。著書に日米ベストセラーとなった『残酷すぎる成功法則 9割まちがえる「その常識」を科学する』(飛鳥新社)などがある。
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(作家 エリック・バーカー)