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ランボルギーニで最も美しいエンジンだった

「ランボルギーニ350GTV プロトタイプのエンジンルームには、赤いセラミックタイルが入った箱が積まれていました。正しい車高へ調整されるようにね」。技術者だったオリビエロ・ペドラッツィ氏が笑う。

【画像】ランボルギーニのV12を振り返る ミウラ、カウンタック、アヴェンタドール LM002も 全177枚

「ランボルギーニさんはドアをロックし、鍵をポケットに隠していました。ボンネットの中を見たいと声がかけられると、クルマを運転した人が鍵を持っていってしまった、と説明していましたよ」


ブルーのランボルギーニ・アヴェンタドール・ウルティメと、ゴールドのランボルギーニ・ディアブロ

「念の為エンジンが収まるように、エアインテークを切断する必要もありました。量産版では、サイドドラフト・キャブレターを組んで解決しています」

ランボルギーニ・ミウラでは、背の高いダウンドラフト・キャブレターへ戻されている。シリンダーヘッドの間へ垂直方向に設計された、吸気ポートへ効果的に混合気を流し込むため。

ランボルギーニの歴代のエンジンで最も美しいものだったと、同席していた1人がつぶやく。賛同と感謝の声が、インタビューする部屋を満たした。

V型12気筒エンジンの排気量は、当初3465ccだったが、ミウラやエスパーダ、初期のカウンタックでは3929ccに拡大。その後も多くの改良が加えられつつ、1982年に全面的な変更が施された。

技術者だったジャンカルロ・バルビエリ氏が振り返る。「あれは、初めての本格的な再設計でした。ブロックとヘッドの間にスペーサーを挟んでストロークを長くし、ブロック自体の変更なしに4754ccへ拡大させたんです。非常に堅牢でパワフルでした」

クアトロバルボーレからインジェクションへ

1985年のカウンタックQV(クアトロバルボーレ)とオフローダーのLM002では、排気量は5.2Lへ拡大。シリンダー1本当りに4本のバルブを備えた、新しいヘッドを得た。バルビエリは、事実上は新エンジンだったと説明する。

「ブロックとヘッド、ピストンも、すべて新設計でした。中央にエアフィルターを載せた、ランボルギーニでは初のV12エンジンになりました」。吸気ポートが垂直ではなくなり、一般的なVバンク内へ配置されていた。


ランボルギーニ・ディアブロ(1990〜2001年/欧州仕様)

これは、マセラティの技術者、ジュリオ・アルフィエーリ氏が設計したレーシングユニットに影響を受けている。実は、その新しいクアトロバルボーレ・ユニットは、アルフィエーリ本人が設計したのだという。スーパーカーには、様々な人が関与しているのだ。

「5.2Lエンジンでは、当初ウェーバー・キャブレターを採用していましたが、後に燃料インジェクションへ変更されています」。バルビエリが続ける。

「ランボルギーニ・ウラッコのV8エンジンで使った、ソレックスが好きではなかったんですよ」。技術者だったティツィアーノ・ベネデッティ氏が話を引き継ぐ。

「ウラッコのエンジンの試作段階で、インテークの上に大きな火柱ができたんです。混合気の渦が上に伸びて」

ミラノの研究施設までLM002で飛ばした

エンジンの進化のたびに、バルビエリは試験を重ねた。「燃料インジェクションの開発初期の段階で、ドイツのクーゲルフィッシャー・システムを採用することになり、ウェーバーの工場で排気ガス試験は実施できなくなりました」

「ミラノの研究施設を利用することになり、毎日そこまでランボルギーニで通っていました。LM002がお気に入りで、150km/h、いや、160km/hくらいで飛ばしてね」


グリーンのランボルギーニ・アヴェンタドール SVJと、ブルーのランボルギーニ・アヴェンタドール・ウルティメ

「燃料インジェクション化は、1987年にランボルギーニを買収したクライスラーが強く後押ししたものでした。北米の規制を満たすために。最終的にはボッシュのKジェトロニック機械システムに落ち着き、1990年には独自設計のシステムへ更新しています」

1999年、フォルクスワーゲン・グループのアウディがランボルギーニを買収。その頃には、V12エンジンは5.7Lと6.0Lへ排気量が拡大されていた。さらに2001年のムルシエラゴでは6.2Lと6.5Lへ成長。四輪駆動のスーパーカーへ、不満ない動力性能を与えた。

「新エンジンの開発着手までに、12年から14年のブランクが空くことが一般的です」。と現職のマウリツィオ・レッジャーニ氏が話す。ビッツァリーニ由来のV12エンジンは、アップデートを迫られる。

クアトロバルボーレ・ユニットは、既に寿命を過ぎていた。アヴェンタドールの2011年発売へ向けた新V12エンジンの開発は、2008年にスタートした。

高回転域でのパワーが重視される新ユニット

レッジャーニが続ける。「仕様を変更せずに、すべての国の規制に合致できています。小さな会社にとって、異なる仕様のエンジンを製造することは難しい条件になります」

従来のエンジンとの関連性もゼロではない。「技術的に、60度のバンク角はV12エンジンにとってベスト。クランクシャフトとエンジン底部との距離を縮め、鋳造量を減らし軽量化しています。点火順序も変更して、サウンドもチューニングしました」


ホワイトのランボルギーニ・ムルシエラゴと、ゴールドのランボルギーニ・ディアブロ、2台のランボルギーニ・アヴェンタドール

そんな新ユニットも、終焉を迎えようとしている。ハイブリッド・システムが組まれるV型12気筒エンジンは、まったくの新設計だという。高回転域でのパワーが重視されているとか。低回転域は、駆動用モーターが補うためだ。

1番好きなランボルギーニのV12はどれか、レッジャーニへ尋ねる。「次のユニットです」。と、お手本のような答えが帰ってきた。だが、1998年のディアブロ GTも素晴らしかったと回想する。

ランボルギーニ初の燃料インジェクションで、シリンダー毎にスロットルボディを備えたユニットだ。「キャブレターのような質感で、洗練されていて、遺産のようなユニットでしたね」。少し寂しそうな表情を浮かべたように見えた。

寄稿:John Simister(ジョン・シミスター)