理学療法の一環として人間の体に電気を流す電気療法が行われているように、人体に電気を流すことがさまざまな健康効果や病状の治癒をもたらすことがわかっています。新たにスウェーデンとドイツの研究チームが、「皮膚に電気を流すことで傷が治る速度を3倍にすることができる」という研究結果を発表し、糖尿病による慢性的な創傷などの治療に役立つ可能性があると期待されています。

Bioelectronic microfluidic wound healing: a platform for investigating direct current stimulation of injured cell collectives - Lab on a Chip (RSC Publishing)

https://doi.org/10.1039/D2LC01045C



How electricity can heal wounds three times as fast | Chalmers

https://www.chalmers.se/en/current/news/mc2-how-electricity-can-heal-wounds-three-times-as-fast/

Electricity can heal even the worst kind of wounds three times faster, new study finds

https://interestingengineering.com/innovation/electricity-can-heal-chronic-wounds

大多数の人々は体に小さな傷ができてもそれほど問題になりませんが、糖尿病やがん、血行障害などを患っている人々は傷を治癒する能力が損なわれ、創傷が慢性的なものとなるケースがあります。特に糖尿病の患者は、高血糖が持続することでヘモグロビンが酸素を放出しにくくなり、傷の治癒が遅れてしまうことがわかっています。

傷の治りが遅いと感染症のリスクが高まるだけでなく、最終的にはその部位を切断せざるを得ないこともあるため、慢性的な創傷は深刻な問題です。スウェーデン・チャルマース工科大学の生体電子工学准教授であるMaria Asplund氏は、「慢性損傷はあまり有名ではないものの大きな社会問題です」と指摘しています。



そこでAsplund氏らの研究チームは、「人間の皮膚を電気で刺激することで傷の治りが速くなるかどうか」を確かめる実験を行いました。「電気刺激で傷を治す」という発想は一見すると奇妙ですが、「人間の皮膚細胞は帯電しており、電場(電界)にさらされると方向性を持って移動する」という仮説は以前からあったとのこと。つまり、傷のある皮膚を入れたシャーレを電場にさらせば、皮膚細胞が一方向に動き始めて傷が速く治る可能性があるというわけです。

研究チームは人間の皮膚細胞と同様の特性を持つ培養皮膚細胞を含む生体チップを作成し、2つのチップに傷を付けました。そして一方のチップは電気刺激を与えながら治癒させ、もう一方は電気刺激なしで治癒させて、それぞれの皮膚細胞がどれほどのスピードで治癒するのかを比較しました。

実験の結果、電気刺激を与えた方の皮膚はもう一方の皮膚と比較して、3倍ものスピードで治癒することが確認されました。Asplund氏は、「私たちは、電気刺激に関する古くからの仮説が傷の治りを著しく速くすることを示しました」と述べています。



さらに研究チームは、糖尿病で創傷の治癒が遅くなっている状態をモデル化した皮膚細胞でも、同様の実験を行いました。すると、糖尿病の影響を受けている皮膚細胞でも、通常の皮膚細胞と同様のスピードで治癒することが示唆されたとのことです。

Asplund氏は、「細胞内で糖尿病を模倣すると、チップ上の傷の治りが非常に遅くなることがわかりました。しかし、電気刺激を与えることで治癒速度を上げ、糖尿病の影響を受けた細胞を健康な皮膚細胞とほぼ同じように治癒させることができました」と述べています。

チャルマース工科大学の研究チームは、電気刺激で創傷の治癒をスピードアップする研究を継続し、将来的な消費者向け創傷治癒製品の開発につなげるための助成金を受け取っています。Asplund氏は、治癒が遅い創傷を持つ人々を効果的に支援するため、個々の傷をスキャンして適切な電気刺激を与えられるコンセプトを開発したいと考えているとのことです。