蚊が媒介する病気により年間100万人以上が死亡していることが研究により明らかになっており、このことから蚊は世界で最も致命的な生物であるとされています。そんな蚊に関する新しい研究が発表され、蚊の唾液に含まれる成分が人間の免疫系を抑制していることが明らかになりました。

The anti-immune dengue subgenomic flaviviral RNA is present in vesicles in mosquito saliva and is associated with increased infectivity | PLOS Pathogens

https://journals.plos.org/plospathogens/article?id=10.1371/journal.ppat.1011224



Mosquito Saliva Can Weaken Our Defenses  Against Deadly Dengue

https://newsroom.uvahealth.com/2023/04/03/mosquito-saliva-can-weaken-our-defenses-against-deadly-dengue/

Mosquito Saliva Can Actually Suppress Our Immune System, Study Finds : ScienceAlert

https://www.sciencealert.com/mosquito-saliva-can-actually-suppress-our-immune-system-study-finds

蚊の唾液を分析したのは、バージニア大学の生化学者であるタニア・ストリレッツ氏ら研究チーム。研究チームは3つの異なる分析方法を通じ、蚊の唾液に含まれる「sfRNA」と呼ばれる化学伝達物質を特定しました。このsfRNAには人体が感染症に対して備える免疫系を抑制する働きがあることが明らかになっています。



sfRNAはジカ熱(ジカウイルス感染症)や黄熱などの「昆虫が媒介するウイルス感染症」で以前から検出されていた化学物質です。

今回の研究では、sfRNAが細胞外小胞に注入されると、体内でウイルスが複製される際に生じる化学的伝達が邪魔されることが明らかになっています。研究グループは不死化細胞を用いた実験で、sfRNAが実際にウイルスの感染レベルを高めることを実証しました。

ストリレッツ氏は「ウイルスがsfRNAの分子をハイジャックし、蚊に刺された場所での共送達が感染の確立に有利に働くようになることは驚くべきことです」「これらの知見は『蚊に刺された最初の段階』からデングウイルス感染症(デング熱)に対抗する方法について考える新しい視点を提供するものです」と語っています。



デング熱は全世界で毎年約4億人が感染しており、再感染することもあり得る深刻な感染症です。症状としては、発熱・吐き気・皮膚の発疹などがあり、ごく少数ではあるものの、内出血や死に至ることもあります。

記事作成時点ではデング熱を治療する方法はなく、対症療法しかありません。そのため、デング熱とその感染経路をより深く理解することは、デング熱の対処にとって非常に重要です。

今回の発見により、デングウイルスに感染した瞬間からデング熱の発症を予防できるようになることが期待されますが、安全な生活を送るための最善の方法は、これまで同様に「蚊に刺されないこと」だそうです。



バージニア大学のウイルス学者であるマリアーノ・ガルシア=ブランコ氏は、「感染に関する基本的な生物学的な理解が深まれば、最終的に効果的な感染阻止策につながることは間違いありません」「今回の発見は、他のフラビウイルス感染症にも応用できる可能性があります」と語り、今回の研究結果が新しい感染症阻止策の立案につながる可能性を示唆しています。