スコットランドはエジンバラ出身の3人組、ヤング・ファーザーズ(Young Fathers)はこの10年、ユニークな音楽を世に届けてきた。彼らは、アンチコンの影響下にあるヒップホップやヘヴィなロック、さらにエレクトロニック・ミュージックからアンビエント、ダブ、アフリカ音楽といった多様な要素を混ぜ合わせつつ、ホーリーでスピリチュアルなサウンドへと昇華。これまでリリースされた音源は高く評価され、2014年の1stアルバム『Dead』はマーキュリー・プライズを受賞している。

そんなヤング・ファーザーズが、4thアルバム『Heavy Heavy』をリリースした。タイトルから”重い”作品を想像してしまいそうだが、むしろ本作は前3作よりも軽やかで、ポジティブな高揚感に溢れている。メンバー全員によるボーカルの掛け合いもいつになくジョイフルで、サウンドも眩く温かい。オープナーの「Rice」を筆頭に、思わず曲に合わせて手を叩きながら踊りたくなるアルバムになっているのだ。

今回はヤング・ファーザーズに、みずからや新作に影響を与えたアルバム5枚を選んでもらい、それらの魅力について話してもらった。20世紀前半のアメリカ民俗音楽のコンピレーションから少し意外なニューウェイヴの名盤など、ユニークながらも”らしさ”を感じさせるチョイスに、彼らの音楽のおもしろさが詰まっていると思う。


左からケイアス・バンコール、グレアム”G”ヘイスティングス、アロイシャス・マサコイ(Photo by Fiona Garden)

―まずは新作『Heavy Heavy』のリリース、おめでとうございます! リリースして1カ月を経たところですが、感触はいかがですか?

ケイアス・バンコール:アルバム発売日近辺にいくつかのレコード店でプロモーションをして、盛り上がったね。いまはヨーロッパ・ツアー中で、自分達が好きな曲も変化し続けているし、それをライブセットにも反映させているところ。取材やライブ演奏で新たに見えてきたものもあるね。

グレアム”G”ヘイスティングス:ツアーで新曲を演奏していて、いい感じではある。でも、新作からの楽曲がオーディエンスに浸透するのには時間がかかるから、皆の反応がわかるのはもっと後だろうな。

―今回はインタビューにあたって5枚のアルバムを選んでもらいました。選出は3人で話し合ったのでしょうか?

グレアム:いや、5枚は俺がすべて選んだよ。俺は新作『Heavy Heavy』の制作前、制作期間中、そして完成後もこれらを聴いていた。でも、スタジオでほかのアーティストの音楽は一切聴いていないんだけどね。

ケイアス:そうだね。俺たちはいつもそう。俺のインスピレーション源は他人の音楽ではなく、両親や家族、友人もしくはほかの2人のメンバーたちと話す内容。スタジオでは自由にいろんなことを試しながらジャムって、自分たちの感情を自由に表現した。そうやって新作は誕生したんだ。

1. Alan Lomax & Georgia Sea Island Singers『Southern Journey Vol. 12』(1998年)

―では、一枚ずつ話してもらいますね。まずは民俗音楽の研究家/収集家として名高いアラン・ローマックスが監修したジョージア海諸島の霊歌集『Southern Journey Vol. 12』。このアルバムを知ったきっかけは?

グレアム:アラン・ローマックスは、世界中のサウンドの収集家として有名だよね。ケルトから、このアルバムにまとまっているディープ・サウス(=アメリカ最南部)の霊歌まで、世界中の音楽を網羅していて興味深い。このアルバムは1959年〜60年にかけて録音されたものだ。この霊歌は俺たち3人全員が好きなサウンドと繋がってもいるし、アカペラ曲や「Daniel In The Lion's Den」のようなボーカルのみの子守唄も美しい。俺は息子が寝つくときに歌っているよ。スピリチュアルな歌だけど、サウンドに空間があって、過剰に作り込んでないところがいい。シンプルにその瞬間を大事にしていて、ある意味、俺たちの音楽と似ている。さっきケイアスが言ったように、俺たちも事前に決め込んで歌うよりも、自発的に生まれるものを大切にしているから。

―このコンピレーションに収められた音楽と『Heavy Heavy』に共通点はありますか?

グレアム:アラン・ローマックスが監修した音楽は、何百年も前の古い曲なのに、ポップ・ミュージックの根源的な部分……例えば、何度聴いても飽きないようなサビを持っていたりする(ここで、ローマックス作品からのサビ部分を3人で歌い出す)。ローマックスの作品には魔法のような瞬間がある。俺たちは、今回の制作にあたって、ポップ・ミュージックによくある作り込み過ぎたサウンドをすべて取り除き、人間の魂や感情に訴えるものの根源をとらえた音楽を作りたいと考えた。俺たちは「いいサビ」が好きだし、頑強さに相反する甘美さを好む。完璧なものより不完全なものに惹かれるんだ。不完全な方が、より人間臭いから。

―先ほど3人で歌っておられましたけど、グレアム以外の2人もローマック作品はよく聴いているのでしょうか?

アロイシャス・マサコイ:好きなものもあるね。世界中を旅して収集したなんて凄いよなぁ。(ローマックス作品のいくつかは)俺には、アフリカ音楽のように聴こえるんだ(笑)。リベリア出身である自分が子供の頃によく聴いていた音楽に似ていて。

ケイアス: 俺はこのアルバムでは共同体的な部分に惹かれるね。例えば、コール&レスポンスやチャンティング、それから魂に突き刺さるような「繰り返し」(=リピート部分)。そこに心に残る生々しさがある。このコンピレーション盤の収録曲は、非常にキャッチーで、頭から離れないんだよね。

2. Rev. Louis Overstreet『With His Sons And The Congregation Of St. Luke's Powerhouse Church Of God In Christ』(1995年)

―続いてはルイジアナ州の福音伝道士、レヴァランド・ルイス・オーヴァーストリートが4人の少年コーラス隊と1962年にレコーディングした作品。アップリフティングでグルーヴィーな本作は、まさに『Heavy Heavy』とあわせて聴きたくなる音楽です。

グレアム:このアルバムの魅力は、彼の演奏のスピード感とテンポ感。基本的には4人の若い男の子が歌っているけど、彼は足でバスドラムを叩き、ギターを掻き鳴らしていて……まるでワンマン・バンドのようなんだ。一人で演奏しているなんて信じられないよ。この音楽は、ロックンロールやブルースのルーツがどんなものだったかを想像させてくれる。教会でクリスチャンとしてスピリチュアルなことを歌っている横で、彼はクレイジーなほどの速さで演奏しているんだ。あのスピード感は多幸感を誘うね。今回俺たちは、曲作りの際に人が踊っている映像を無音にして流していたよ。格好つけたダンスじゃなくて、本能的に踊る姿をインスピレーション源にしたんだ。

―レヴァランド・ルイス・オーヴァーストリートの歌唱は、あなたたち3人ともに影響を与えているように思いますが、特にケイアスの声に近いものを感じます。彼の歌声の魅力はどんなところにあるとお考えですか?

ケイアス:そうかな? 自分ではそう思わなかった(笑)。

アロイシャス:切迫感とか、パーカッシブな面じゃない?

ケイアス:なるほど。(ナイジェリア系スコットランド人の)俺は信仰深くないけど、うちの父さんはヨルバ族の宗教に深く関わっていて、毎週日曜日には家族でヨルバ族の教会に通っていた。月曜から金曜は毎朝ヨルバ語の宗教音楽を流しながら学校や仕事に行く準備をしたし、夜になると就寝前に家族で祈りを捧げたり、ヨルバ・ゴスペルを歌ったりしていたね。

3. The The 『Infected』(1984年)

―3枚目はポスト・パンク〜ニューウェイヴの時代に人気を博したバンド、ザ・ザの2ndアルバム『Infected』。彼らは、残念ながら日本の若いリスナーからはあまり振り返って聴かれることの少ない存在なんです。なので、まずあなたちからこのバンドの魅力を教えてもらえませんか?

グレアム:もちろんザ・ザのことは以前から知っていたけど、新作「Heavy Heavy」に着手する前彼らの作品をいろいろ聴きはじめた。『Soul Mining』などほかのアルバムも大好きだけど『Infected』はアルバム収録曲すべてにビデオ・クリップを制作したのが凄い。当時このMVをすべて映画館で流したらしいけど、現在映像作品は入手不可能でYouTubeでも一部しか見れないんだよね。このアルバムはリズミックなサウンドとダークな歌詞とのバランスがいい。ハイテンポなビートに合わせて、荘厳な歌詞を歌っていてね。音楽的にほかのザ・ザの作品よりもオープンな感じがするし、とにかくヴィジュアル要素がいいんだ。

―ソングライターのマット・ジョンソンは架空のキャラクターの心情を描きつつ、そこに社会的な問題を映す名手です。あなたたちのリリックも彼の影響下にあるのでしょうか?

グレアム:いや、このアルバムが好きなのは俺だけだし、影響はされていないね。マット・ジョンソンの曲は歌詞とメロディの構造が非常に上手くデザインされている。でも、俺たちの歌詞はもっと混沌としていて、ディープかつダークで、同時に幸せな気分になる内容。3人とも飽きっぽいから、ありがちな展開はイヤなんだよね。以前からそれぞれリリック・ブックに歌詞を書き溜めているんだけど、新作はあまりリリック・ブックを使わなかった。スタジオ内でメロディを作っている過程で自然に出てきた言葉を大事にしたから。

4. Toots & Maytals『In The Dark』(1973年)

―ジャマイカを代表するグループ、トゥーツ・アンド・ザ・メイタルズはによるレゲエ時代の代表作。この前作の『Funky Kingston』も高く評価されていますが、こちらを選んだポイントは?

グレアム:これは信じられないほどの名作だね! フレデリック・”トゥーツ”・ヒバートは何でも歌えるシンガー。ソウルフルなガラガラ声で、どんな楽曲でもまるでポップ・ナンバーを口ずさむように完璧なバランスで歌う。これはうちの父さんが持っていたレコードなんだ。銀色に反射するジャケットが印象的だったのを覚えている。実は俺の息子が誕生したとき、最初に聴かせたアルバムがこれだった。情熱やそのほか人間の感情すべてにおいて、教育的なアルバムだと思ったから。トゥーツの楽曲は人間の感情を呼び起こす。聴いていて涙が流れたり、笑顔になったりする。『Funky Kingston』などほかのアルバムを選ぶこともできたけど、このアルバムは俺が子供の頃からずっと聴いてきて、今日までまったく飽きることがない。聴く度にこのアルバムの素晴らしさが増していく。それは俺たちがめざしていることでもあるね。

―ほかのふたりもレゲエやスカ、ダンスホールといった音楽はお好きなんですか?

アロイシャス:スカはあまり興味ないけど、レゲエとダンスホールは大好き。

ケイアス:俺も子供の頃から大のレゲエ・ファンで、特に1960-1965年に制作されたスタジオ・ワン制作の作品が大好き。この地球上でいちばん好きな曲は、子供の頃よく聴いていたジャスティン・ハインズの「Sinners」。歌詞、シンプルな演奏、手の込んだ終盤まで、すべてが別次元。とてもパワフルで、心に響くものがある。情熱的な気持ちを体現している曲だと思う。

5. Otis G Johnson『Everything - God Is Love』(1978年)

―最後の作品は、知られざるシンガーが1978年に自主リリースしたカルトな音源。リズムボックスを作った宅録ゴスペルというか、とてもユニークなサウンドです。このアルバムを知ったきっかけはやはり2013年のNumeroからのリイシューを通じてですか?

グレアム:Numeroは誰も知らなかったような音源を発掘してくる素晴らしいリイシュー・レーベルだよね。このアルバムは、デトロイトの音楽家がマイク1本、キーボード1台、ドラムマシン1台でテープに録音したもの。技術面では完璧じゃないけど、俺たちはいつもこういった音楽に魅了されるんだ。ヤング・ファーザーズの音楽は「度が過ぎるほど騒々しい」だとか「激しすぎる」、「サウンド的に変」だとか言われることがあって、そのことに俺たちはフラストレーションを感じている。でも、技術面や音の面で完璧でもヒドい音楽なんてたくさんあるだろ? そして、その逆のパターンもある。このアルバムがその良い例さ。

アロイシャス:俺はNumeroが再発する前にCDで持っていたんだ。ピアノの演奏面ではミスが多いけど、一人の人間がこういった強烈な音楽を演奏していることが驚きだった。彼の演奏は徐々に良いヴァイブスを生み出し、何からも邪魔されることなく、リスナーを音楽の旅にいざなう。まさにアーティストとして見習うべきものがこの作品には存在する。俺も大好きなアルバムの一枚だね。

ケイアス:演奏をしている人の、すぐ横にいるような気にさせる「ライブ感」があるよね。ヤング・ファーザーズのショーを観に来てくれるオーディエンスもこの「ライブ感」を求めていると思う。

アロイシャス:そうだね。俺たちが小さな部屋でレコーディングしているのも、そういった「ライブ感」を大切にしているからなんだ。

―近年のアンビエント再評価の側面からも、あらためて注目されてもいいアルバムだと感じました。

グレアム:注目されるべきだし、いろいろな音楽が再評価される流れはいいよね。音楽ファンのなかには「自分だけ知っているもの」として他人に教えない人もいるけど、俺たちは「素晴らしい音楽は、あらゆる人たちと共有するべき」だと考えている。だから、こういったアーティストたちがより知られていくといいよな。

―もし、あたなたちがNumeroのような知られざる音源をリリースしていくことを目的としたレーベルをやるとすれば、どのあたりの音楽を発掘していきたいですか?

グレアム:どんな音楽でも発掘していきたいとは思うけど、大変そうだからレーベルを立ち上げたりはしないと思うな(笑)。個人的には、Nyege Nyege Tapesがリリースしている東アフリカのアンダーグラウンドなダンス・ミュージックに注目している。ウガンダやタンザニアとかの若者たちの音楽でカッコいいんだ。俺たち3人は各自違う音楽を聴いているし、自分たちが好きな音楽は皆に伝えていきたい。ヤング・ファーザーズとして世界ツアーに出るようになって、土地と音楽の関連性が見えるようになった。例えば、全米ツアーで砂漠地帯へ行ったときにラジオでカントリー・ミュージックが流れていて、アメリカでのカントリー人気が理解できた。一方で、アフリカツアーでは、多岐に渡る音楽がラジオでかかっていて驚いた。

ケイアス:うん。自分達が発掘した音楽はプレイリストやDJセット、ラジオなどで紹介している。それらの音楽には多様性があるから、ヤング・ファーザーズのスタジオ・ワークの様子がどんなものかが伝わると思う。

Nyege Nyege Tapes関連楽曲をまとめたプレイリスト

―あなたたちは10代前半からの友人でもありますよね。ちなみに少年期にはどんな音楽を一緒に聴いていたんですか?

グレアム:14歳の頃の俺たちはベース音の効いたヒップホップやダンスホールものを(エジンバラの)クラブで聴いていたね。つまり「heavy heavy」な音楽が3人の結束感を強めたんだ(笑)。


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