『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』は日本アニメの歴史を変えたのか。「ピクサー的“ポリゴンルックアニメ”には限界が見え始めている」と言われるワケ
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アニメーション制作にデジタル化がもたらした最大の恩恵。それは「撮影」であり、「3D」の導入だ。アニメへの3D導入の現在について、東映アニメーション林田師博さんに伺った。
世界が再び注目する「セルルック」の魅力は「キャラクターの強さ」
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――世界的には、ピクサーのような3Dらしさを全面に押し出した作品がアニメの基本となっているように感じます。それに対して、日本アニメ的な表現=セルルックを採用するメリットはどこにありますか?
最大のメリットは「キャラクターの強さ」ですね。ピクサーみたいなポリゴンルックではキャラクター造形にバラエティを欠くような気がします。というのも、どこのスタジオが作っても似たようなキャラクターが出てくるので、特長がなく感情移入がしづらい。有名な作品でも主人公の顔を思い出そうとしても、はっきり思い出せないんですよね。
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『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』のプロデューサーを務めた、東映アニメーションの林田師博さん。『ドラゴンボール』劇場版においては、2015年『ドラゴンボールZ 復活の「F」』以降の作品を手掛けている
――たしかに。言われてみれば、ポリゴンルックのアニメ作品はぼんやりとしか思い出せないキャラクターが多いですね。『トイ・ストーリー』のウッディや『カーズ』のライトニング、『ミニオンズ』などはインパクトありますが、どれもマスコット的なキャラクターです。
『スパイダーマン:スパイダーバース』には衝撃を受けましたが、あの作品もセルルックというかコミック的なルックですし、ペニー・パーカーは日本のアニメスタイルを意識したルックでしたよね。おそらく海外スタジオもポリゴンルックの弱点を感じているんじゃないかと思います。
――なるほど。たしかにペニー・パーカーは非常に印象的でした。
あとは3Dセルルックでのメリットは「カメラワーク」ですね。カメラをどこにでも置くことができるし、逆に言うと嘘がつけない。それによってセルルックならではのキャラクターの強さと、手描きアニメでは表現できなかった空間的な臨場感が両立できるんです。
「アニメ」であるために、あえて制約を残すことも重要
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――『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』では、キャラやカメラワークの他、アクションも素晴らしいと感じました。
例えばキャラクターが回し蹴りをするときにカメラも一緒に回ることなど、手描きでは難しいアクション表現ができるようになりました。とはいえ、キャラクターの動き自体は3D特有のぬるぬるとした動きではなく、手描きアニメ的な動きを徹底しているんですよ。
――映画は秒間24コマですが、あえて全コマで動かさないということですよね。
そうです。リミテッドアニメと呼ばれる日本アニメの伝統に則り、アクションシーン以外はあえて12コマで動かしたりしているシーンもあるんです。こうすると「アニメ」としての違和感がなくなるんですよ。
他にも、実際の人間やポリゴンルックのアニメキャラって、呼吸などで常に微妙に動いてますよね。でも、今作では手描きアニメっぽく止めるところはピタッと止まるようにしています。
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――より自然になったとしても、「アニメ」の文脈で観る以上は逆に違和感が出てしまうんですね。
同様に、モーションキャプチャーもあえて使いませんでした。モーションキャプチャーを使えば簡単に正確な動きがつけられるのですが、全編通して「アニメ」っぽい動きに統一するため、手作業によるアニメーションにしました。
――その一方、セリフを喋っているメインキャラの背景にいる人物は手描きアニメでは静止しがちですが、本作では後ろで芝居をし続けているのが印象的でした。
まさにそこは各所関係者の方々にも喜んでもらえたポイントでした。作画枚数が極端に増えてしまうので、手描きではなかなかできることではないんですよ。
『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』はアニメを変えるか?
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――これまでのお話を伺う限り、今回の『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』は完全手描きで制作するよりもかなりのコストがかかっていそうですが、その一方、今回作ったキャラクターや背景などのアセットをTVシリーズや新作映画の制作に活用することも可能なのでしょうか?
まさに今回作ったものは「アセット=資産」であり、今後にそのまま使えるものがたくさんあるので、制作コストを下げられるはずです。
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――制作したキャラクターの3Dモデルはフィギュア化などにも使えるのでしょうか?
今回はタイミング的に間に合わなかったということもあるのですが、将来的にはありだと思っています。フィギュアって金型を作るのに長期間かかるので、モデルデータを活用し対応できるようであれば、大きなメリットが得られると思います。
ちなみに『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』の関連商品を作る際の絵素材は、手描きではなく全部モデルデータを元に作られています。
――東映アニメーション社内にも、3Dのスタッフは増えているのでしょうか?
この10年くらいかけてものすごくスタッフが増え、国内でも有数の規模になってきています。元々ゲームを作っていた人もいれば、最近では専門学校を出てそのまま入ってくる人もいます。3Dの世界では「その人にしかこれは作れない」みたいなスーパープレイヤーがいるのですが、彼らを巡っては国内だけじゃなく世界中のスタジオと争奪戦が繰り広げられています。
――今後さらに3Dとそのクリエイターの需要は上がっていきそうですね。東映アニメーションは2Dアニメの老舗中の老舗ですが、やはり3Dには大きな可能性を感じているわけですね。
かなりの可能性を秘めている領域だと思いますよ。今回は時間もコストも結構かかってしまいましたが、コンピューターやソフトウェアの性能向上に応じてやれることは広がるし、スピードも上がり、コストも安くなるはずなので、そこにも大きな期待をしています。
今後も3Dを活用したセルルック作品をたくさん作っていけるかどうかは、『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』がどう判断されるか次第だと思っていましたが、世界中でかなり良い評価をいただいていており、各国主要映画評価サイトで『ドラゴンボール』史上最高ポイントを獲得しています。
この結果からも「『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』は、アニメの大きな転換点になる可能性を持ったエポックメイキングな作品になれたんじゃないか」と感じています。
取材・文・撮影/照沼健太