高校生の就職活動は選択肢が少なく、旧態依然とした制度のままとなっています(写真:metamorworks/PIXTA)

かつて進学や就職は生徒の可能性を伸ばし未来を切り開くものであった。しかし現在は格差を固定化したり拡大させたりするものになっている。教育ジャーナリストの朝比奈なを氏は、非現実的な「夢追い型」の大学・専門学校に進学して貧困スパイラルを断てない現実や、旧態依然とした慣例がまかり通り離職率が高まる一因となっている高校生の就活といった、進路選択の問題を提起している。著書『進路格差 <つまずく生徒>の困難と支援に向き合う』より、置き去りにされる高校生と支援者の声をお届けする。

時代錯誤な高校生の就活ルール

就職支援教員を5年間務めた元公立高校校長のYさん(仮名)から、生徒の活動の様子、彼が気づいた高卒生の就職活動の問題点を聞くことができた。

校長退職後に就く仕事にはいくつかの選択肢があるが、Yさんが選んだのは公立高校での就職支援教員として週2日半生徒と向き合って勤務することだった。彼は、「これまで生徒の就職活動にはほとんど関わってこなかった罪滅ぼしのような気持ちもあった」と言う。

高校教員として進学校、生徒指導困難校、特別支援学校、大規模中学校などさまざまな学校で課題に取り組んできたYさんは、就職支援教員という仕事にも多くの課題を見つけ、その解決に向けて熱心に取り組んだ。

彼の勤務する県では、先の就職支援教員の配置が始められた2002年から同職が置かれた。すでに20年の歴史があるのだが、彼は勤務のスタート時点で失望を覚えたという。

その年に何人が赴任し、どこに誰が配置されたかを知らされず、また仕事内容等の説明はいっさいなかったのだ。辞令を出して「あとはお任せ」という感じで、せっかくの制度を活かそうとしない県の姿勢に憤りを感じたと言う。

厚生労働省の「新規学卒就職者の離職状況」に関する調査によれば、2016年就職者の離職率は39.2%、2017年が39.5%、2018年が36.9%となっている。

この調査が行われた時期は新型コロナウイルスの感染が始まる前で、景気が回復していると言われていた時期である。とはいえ、3年以内の転職では、働いて身に付けたスキルも少なく、待遇面でより良い企業への転職は難しいだろう。早い時期の転職は、生活基盤の脆弱さに結びつきかねず、将来の生活に悪影響を大きく及ぼす。

高校生の求人票公開がこれほどまでに遅い問題点

Yさんは高い離職率の理由を考え、下記のいくつかの問題点に行きついた。

その1つが、企業選択に与えられた時間が短すぎるという点である。

現在のスケジュールでは7月1日に求人票公開となっている。この時期は、高校は期末試験の真っ最中で、生徒が求人票をじっくり見るのは試験終了後になる。そこから1週間から10日程度で、会社見学に参加する。この間があまりに短いと、生徒を指導する過程で彼は感じていた。

■高卒求人の事業所規模別割合


もちろん、学校では前年度の求人票を使って必要な情報を読み取る練習をさせる。しかし、真剣に考えるのは実際に受ける求人票を見てからになるのは当然だ。求人票はパスワードを共有している高校のパソコンからインターネットでも見られ、教員が必要に応じて印刷する。

また、求人票を直接持参する企業もある。それらを教員が複数部コピーしてファイルにまとめ、就職希望の生徒たちが短期間で回し読みする方法が多くの高校で取られている。

部数の少ない求人票を多数の生徒が短期間に見て志望企業を決めるのは極めて難しい。まして、就職を目指す生徒たちの多くは、自分で何かを決める体験に乏しく決断が苦手で実は、企業の求人票の受付は6月1日から始まっている。受付と並行して公開していけば求人票をゆっくりと見る時間ができるはずだとYさんは提案する。

大学生や専門学校生の求人票公開が卒業の前年度の3月なのに、なぜ高校生にはこれほど遅くしなければならないのかと、彼は不思議がる。そこには「生徒への負担と学業への影響を最小限に抑える」というもっともらしい理由が付けられてはいるのだが。

Yさんは、高卒での就職活動の特例である「一人一社制」も改善すべきだと主張する。

この提案の根拠には、P高校に届いた求人票や実際の就職試験実施日に関する詳細な調査がある。その概要をごく簡単に紹介する。

生徒が真剣に求人票を見始める7月10日頃までに揃う求人票は、例年、1年間に学校に届く求人票全体の5割強程度であり、会社見学が始まる7月中旬までに揃うものでも8割程度である。生徒は限られた求人票から「一人一社制」に従って志望企業を選び、9月に1回目の試験を経て内定を得れば、その後、より働きたいと思える企業の求人が来ても内定企業を辞退できない。

このところ、試験解禁日は9月16日とされているが、この日に試験を行う企業は決して多くない。求人票には「9月16日以降随時」と記載し、試験日を明記しない企業が多い。9月上旬に正式に応募してきた人数を見て、企業の都合で試験日を決めることが通例だ。

このように、実際の試験日は分散しているので、高卒生でも大学生他の就職活動と同様に試験日の重複を避けてスケジュールを作って1回目から複数応募することが、実は可能なのだ。

「現行制度に問題なし」

現在、「一人一社制」を取っていない自治体もごく少数ながらある。2022年度段階で、秋田県と沖縄県、和歌山県、大阪府が、1回目の受験から複数応募を可能にしている。

しかし、これ以外の都道府県は依然として旧来の慣例を固守している。

この制度が、生徒と企業のミスマッチを生む大きな原因と考えたYさんは、県の就職問題検討会議開催前の2月に、県教育長宛てに問題提起と意見書を提出した。その回答は教育長が交代した翌年度に入った4月に届いたが、「現行制度に問題なし」とするものだった。

その根拠として、以前から行われている各学校へのアンケートの結果と、就職問題検討会議に毎年委ねている旨が挙げられていたという。

先に、国の高等学校就職問題検討会議の申し送りを受け、各自治体が作る同種の検討会議でスケジュールが決定されると書いた。どちらにも、高校側の代表として校長が参加するが、それは長い伝統があり、地元企業と強いつながりを持った商業や工業等の専門高校長が選ばれるのが暗黙の了解だ。

就職に強い専門高校は、関係が深い企業との間に、学校指定求人が存在し、企業の要望に沿った生徒を毎年送ることで、両者の利害が一致しており、現行制度に何ら問題を感じていない。むしろ、生徒が複数の内定を得て、学校が行ってほしいと思っている会社の内定を辞退されたら困ることになる。

この伝統校の慣例が、「一人一社制」を維持している都道府県の大きな壁として立ちはだかっているとYさんは考える。国や自治体の就職問題検討会議に、就職に強い伝統的な専門高校だけでなく、毎年、指導に苦しんでいる普通高校や定時制高校などの声が反映されない限り、「一人一社制」の壁は打ち破れないと彼は力説する。

もう1つの原因は、指導する教員の問題である。既述のように、就職指導は非常に大きな手間と時間がかかる。1回目の就職試験から複数受験が可能となれば、その分、必要とされる指導の量は増加する。多忙な教員がこれを避けたい気持ちはわかる。

しかしながら、働きやすい企業を生徒に選ばせることができたら、社会人へのスタートをもっと安定的かつ強固なものにできる可能性がある。そのために「一人一社制」の撤廃が必要とするYさんの提案は傾聴に値する。

大学等の進学には、多方面から志願者を評価し、志願者に受験機会を複数回用意するという名目で多彩な入試方法と日程を設けているのに、高卒の就職希望者にはその視点は全く考えられていない。職業選択の自由が保障されている中で、成人年齢を18歳に引き下げたにも拘わらず、彼らを全く大人扱いしていない。

就職活動の指導は特殊なだけに、一般教員が担うとなるとその負担感は大きい。大学等の高等教育機関にはキャリアサポートセンター等が置かれ、職員が常駐している。

高校でも、就職支援教員制度がもっと拡大し、就職希望者がいる高校全てに継続的に配置されることが望まれる。そうすることで、「一人多社制」に移行しても指導が可能となり、生徒にとっての確実な相談窓口ができるのではないだろうか。

18歳はもう成人…「在学中の研修NG」ルールの再考を

また、内定した生徒が高校在学中には企業は研修等を行えないという慣例への疑問も述べておきたい。

内定後も指導は続くと先述した。制服採寸や社内報の原稿依頼等が企業から来るからだが、現行のルールでは仕事の研修等を行うことは禁止されている。理由は、「生徒の負担と学業への影響を最小限に抑える」というものだが、これが生徒の働く意欲に悪影響を与えると、Yさんは感じている。

夏休み以降、就職活動を続けた生徒は内定をもらった時点で働く意欲はピークを迎えているが、その後、通常の学校生活が続くと、高まった意欲は低下してしまう。


むしろ、この間、学校公認のアルバイトとして、内定した企業で簡単な仕事を行う、あるいは必要な研修をするなどすれば、働く意欲を保ったまま4月からの社会人生活に入れるのではないだろうかというのが彼の意見だ。

働く意欲を保持するには、内定後の約半年間の無刺激状態は悪影響でしかなく、これが高卒就職者の早期離職の1つの原因との考え方には筆者も賛同する。

大学の一般入試準備のために、1月以降は高校を休む高校生もいる。私立高校では、1月以降を自宅研修と年間計画で定めている学校も少なくない。このような事実は、高校をあたかも「大学予備校」のように生徒も学校も捉えていることを示している。

高校が次の段階への過渡的な存在であるのなら、就職者が次の段階に進む準備として、研修等を1月以降に実施してもおかしくないのではないか。

「生徒の負担と学業への影響を最小限に抑える」という高卒就職者限定の金科玉条が若者の離職率を上げ、進路格差を拡大する要因になっているのならば、改めてこの言葉の意味を再検討するべきである。

(朝比奈 なを : 教育ジャーナリスト)