兄弟姉妹との関係や家族の中での役割が、仕事にどう反映されるのか?(写真:ちゃんこ/PIXTA)

人は親から多大な影響を受けると言われている。しかし、それ以上に大きいのが、兄弟姉妹との関係性だという。兄姉がいるか、弟妹がいるか。いくつ離れているか、きょうだいゲンカでの優劣は? これらの結果によって、性格が形成され、ビジネスの場やチームでの立ち回り方にも表れてくる。これまでに、のべ1万5000本以上のカウンセリングを行ってきた心理カウンセラーの根本裕幸氏の著書『兄弟姉妹の心理学 弟がいる姉はなぜ幸せになれないのか』より、一部抜粋・再構成してお伝えする。

突然ですが、質問です。

日常生活の中で、どうしてもうまくいかない人間関係があるとします。あなたは、その原因がどこにあると思いますか? いつもトラブルになってしまうあの人ですか? それともあなた自身?

もちろん、直接の原因はそうかもしれません。しかし、ある人の人間関係の特徴を読み解く場合、背後に3つの要素があり、それらが色濃く影を落とすことがあるのです。

職場の関係性は「思春期の人間関係」が影響する

その3要素とは、「親子関係」「思春期の頃の人間関係」、そして「兄弟姉妹関係」です。親子関係と思春期の頃の人間関係は「上下関係」のベースとなります。わかりやすく、会社の組織を例に説明してみましょう。上司との関係は、親との関係を投影しやすいものです。

たとえば「いつも上司(男性)と揉めてしまう」という悩みを持つ男性がカウンセリングにいらっしゃれば、私は間髪入れずに「お父さんとの関係はどうでした?」と質問するでしょう。

また、職場の先輩・後輩との関係は思春期の頃の人間関係が影響することが多く、うまく関係を築けないという人には、「中高生のときの上下関係はどうでしたか?」と問うことになります。

では、「兄弟姉妹」の関係はどんな影響を及ぼすのでしょうか。 

親子の関係が「上下関係」のベースなら、兄弟姉妹の関係は、いわば「横のつながり」のベースと言えます。中高生時代の友達を思い出してみてください。

クラス委員を務めたり、学校行事でリーダー役を買って出たりする「頼れる同級生」は第一子(兄・姉)が多かったと思いませんか? また、クラスの人気者でみんなに笑顔を提供していた同級生は、末っ子であることが多かったのではないでしょうか?

そして、その後の人生を追いかければ、よくリーダー役を務めていた兄や姉は仕事でも家庭でもリーダー役を担っていることが多いはず。みんなから可愛がられていた末っ子は、職場でも場の空気を和ませる「いじられ役」を続けているのではないでしょうか?

もちろん、すべてのケースに当てはまるわけではありませんが、兄姉はしっかり者になってリーダー役に、末っ子の弟妹は人懐っこい所作でみんなに可愛がられるタイプになることが少なくありません。それはまるで、子ども時代に家庭の中で担っていた役割が学校や社会の中でも引き継がれ、そこにうまく収まるようにしくまれているかのようです。

「兄弟姉妹の関係」はビジネスシーンにも影響する

「3歳までに人生の80%の価値観が決まる」と言われますが、人が幼い頃に家庭内で体験したことは、その後の人生の土台となります。それは人間関係に限らず、仕事、お金、恋愛、夫婦、子育てなど、さまざまな問題をつくり出すのです。

兄弟姉妹の関係はビジネスシーンにも影響を与えます。何かと衝突しがちな兄同士、弟妹ばかりのチームの中で暴走するリーダー役の姉、チームの中で孤立しやすいひとりっ子、部下ができるとどうしていいのかわからない末っ子など……。

もちろん、必ずそうなるわけではありませんが、もしかすると今のチームの問題が兄弟姉妹の心理を知ることで解決できるかもしれません。

カウンセリングでは、一般的に「上司との問題は親子関係、同僚との問題は兄弟姉妹の関係が色濃く表れる」として、この観点から相談者の心理を分析していきます。

たとえば、ある男性はいつも上司とぶつかっていましたが、彼は父親との関係が最悪で、思春期以降、父とは絶縁状態が続いていました。

また、チームで動くことが苦手でうまく組織にとけこめない問題を抱えていたある男性は、年の離れた兄2人を持つ3人兄弟の末っ子で、家族の中で常に疎外感を抱きながら育ってきたということでした。

仕事を抱えがちで、「自分の仕事は定時を過ぎてから。それまでの時間は先輩や後輩の仕事のサポートばかりしている」という女性は、弟妹の面倒をよく見てきた姉でした。

さらに、頭の回転がとても速く、話をすれば優秀であることが明らかな女性は、「兄は自分以上に成績が良く、母も兄ばかり褒めていたので、なかなか自分に自信が持てない」という悩みを抱えていました。彼女はやりたい仕事があっても「自分には無理」と遠慮してしまうことがよくありました。また、自分を低く見積もりすぎるので、上司から「君はもっと自己評価を上げないともったいないよ」と諭されていたのです。

兄弟姉妹の関係性は、このように組織の中での振る舞いにも少なからず影響を与えているのです。

「弟妹」はリーダーに向いていない?

弟妹は兄姉と比べられて育つので、何かと自分に自信が持てず、自己評価が低くなりがちなのです。だから、やってみればできることも、自分にはできないと思い込んでしまう。そんな弟妹ですから、チームの中でも「下っ端ポジション」を望みます。

まわりの人をサポートしたり、人から与えられた仕事を片付けたりするのは苦にならない。チームの和をつくり出す存在でもあります。でも、リーダーとなると、話は別です。必要以上に責任を重く受け止めて、自分の良さをまったく発揮できなくなってしまうのです。あるいは、逆に暴君のようなリーダーになって、チームを混乱させてしまうこともあります。

では、弟妹はリーダーにはなれないのでしょうか。

そんなことはありません。弟妹は人に甘えたり頼ったりすることが上手ですし、また、要領よく物事をこなす器用さもあります。そうした長所をリーダーとして活かせばいいのです。弟妹には「俺についてこい」というタイプのリーダーではなく、「みんなで一緒に頑張ろう!」というリーダーがふさわしいのです。

兄や姉のリーダーが良かれと思って暴走してしまうのと違って、ちゃんとみんなの意見を吸い上げ、それを活かすことのできる「風通しのいいチーム」をつくる能力を弟妹は持っています。また、強がることなく素直に自分を出せるので、みんながリーダーを支えてくれるというメリットもあります。

そのほうが結果的にチーム力がアップし、結果も残しやすいと思いませんか?

次に、よく「人間関係が複雑になりやすい」と言われる女性が多い職場について考えてみましょう。

女性が多い職場では「母と3人姉妹」のような人間関係が生まれやすくなります。しっかり者の長女、ちょっと斜に構えた次女、甘えん坊な三女、そして彼女たちを仕切る、お母さん的な役割(いわゆるお局さま)という図式です。

私のクライアントさんには女医さんが多いのですが、彼女たちは女性ばかりの看護師チームとうまくやっていかなければいけません。立場上は指示する側でも、経験は相手のほうがずっと上。そんな難しい状況でかじ取りをしなければならないので、よく相談にいらっしゃるのです。

また、アパレルや販売、化粧品メーカーなども女性が多い職場です。結婚、出産、夫の転勤などで人の入れ替わりが激しいこともあり、マネジメントに苦慮する方も多いですよね。このように、女性が多いチームをまとめ上げるリーダー(上司)にはどんなタイプがふさわしいのでしょうか。

適任なのは、「かっこよくて、仕事ができて、面白くて、賢くて、清潔感がある兄」ということになります。「まあ、そりゃそうでしょ……」と思いますよね。この条件では実現が難しいでしょうから、他にどんな属性が適しているのか考えてみましょう。

「女性が多い職場」で活躍する「きょうだい」

〇[兄妹]の兄 
上の立場になるわけですから、チームメンバーは「妹たち」になります。そうなると、妹の扱いに長けていて、かつ、その妹と仲良くしている兄、あるいは、妹から尊敬され、あこがれの対象となっている兄が適任でしょう。
   
ただし、上から目線で発言したり押し付けたりすると、強い反発を食らうので要注意です。

〇姉に支配されてきた弟
上司だからといって、第一子がいいとは限りません。複数の女性をマネジメントするには、姉のいる弟も悪くないでしょう。女性は職位の上下を男性ほど意識しません。ですから、「俺が上司だ」というタイプは、女性が多い職場では煙たがられます。 むしろ「上司は私たちの味方」という印象を与えることが大事なのです。
   
その点、姉に仕えてきた弟が上司に就くと、女性のメンバーたちは上司の「姉」になろうとして、しっかり仕事をしてくれます。「私たちがしっかりしなきゃ!」と思ってくれるんですね。したがって、弟も意外とチームをまとめ上げられるのではないでしょうか。

〇[姉弟/姉妹]の姉  
弟妹の面倒をよく見て「第2のお母さん」をやってきた姉は、女性ばかりのメンバーの話をちゃんと聞き、それぞれに配慮した対応ができます。そうした点で、「お母さん」のようにチームをまとめるリーダーになれます。

男性だけの環境で育ってきた兄弟や、姉妹の妹だった方が、女性ばかりのチームのマネジメントをするのは(兄弟姉妹の属性だけで考えると)難しいところがあるかもしれません。男性の中で揉まれてきた兄弟は、女性の気持ちに配慮できないところがあります。そうなると、部下である女性たちからはそっぽを向かれてしまうでしょう。

妹の場合は、部下から可愛がられ、いじられる存在であればうまくいきます。しかし、メンバーからの信頼を獲得するためには、きちんと彼女たちの話を聴いて、認められる存在にならなければいけません。

また、先ほど弟妹の面倒を見てきた姉は適していると書きましたが、逆に妹と戦ってきた姉の場合は難しいでしょう。なぜなら、無意識にチームメンバーを「敵」とみなしてしまうからです。

マネージャーは部下の「きょうだい」を把握


あなたが職場のマネージャーであれば、チームメンバーの兄弟姉妹を知ることで、円滑なチーム運営が可能になるでしょう。

「兄弟の次男であるA君は、頑張り屋だけど何でも自分でやろうとするくせがある。だから、姉妹の姉であるBさんにそれとなく見守ってもらうようにお願いすれば、良い関係性が築けるんじゃないだろうか」

こんな具合です。

兄弟姉妹の心理が人間関係のすべてを担うわけではありませんが、身近な人間関係をより良好な関係に育てていくための一助になることは間違いないでしょう。

(根本 裕幸 : 心理カウンセラー、講師、作家)