リーズナブルな製品を提供するオーディオブランド「1MORE」から、空間オーディオの再生に対応した完全ワイヤレスイヤホン「Aero」が発売となった。リーズナブルな価格で空間オーディオが楽しめるという同機の実力はどうだろうか。

空間オーディオ対応の完全ワイヤレスANCイヤホン「1MORE Aero」

○空間オーディオとは?

FOXCONNの元スタッフが独立して設立された、中国のオーディオ専業ブランド「1MORE」。日本でもAmazonや楽天で販売を行っており、最近はハイレゾオーディオワイヤレス対応など、価格だけでなく機能面でも特徴のある製品を展開している。

現在はネット販売専門で、Amazon.co.jpおよび楽天に公式ショップがある

今回紹介する「1MORE Aero」は、10月25日に日本国内で発売されたばかりの、同社の完全ワイヤレスイヤホン製品だ。特徴としては、何よりも「空間オーディオ」に対応していることだろう。最近Apple MusicやAmazon Music Unlimitedなどの配信サービスが導入しているこの技術は、対応する音源が、ステレオの左右方向だけでなく、前後、上下からも聞こえてくるという立体的な音響体験を実現するものだ。

このほかとしては、直径10mmのダイヤモンドライクカーボンドライバーを採用。アクティブノイズキャンセル機能「QuietMax」を搭載し、充電ケースは無接点充電規格「Qi」に対応。IPX5防水、最大28時間のバッテリー動作時間といった基本機能を備えている。

正直なところ、スペック上は今時の完全ワイヤレスイヤホンとして飛び抜けたところは少ないが、何より目玉機能である空間オーディオ対応は気になるところ。早速その実力をチェックしてみよう。

○ハードウェア全般をチェック

まずはイヤホン本体から見ていこう。イヤホン本体はカナル型イヤホンで、イヤーチップはSS、S、M、Lの4サイズ。同社の「1MORE Evo」が足のない丸いタイプだったのに対し、こちらはバッテリー充電端子やタッチセンサーも搭載している「足」の部分が長めの、同社の「Comfobuds Pro」などと同様のスタイルとなっている。

イヤホンの「足」の先にはLEDが内蔵されており、接続待ちの状態でピカピカ光る

サイズはW20.33×H39.42×D24.36mm で、重さは片耳4.9g(Mサイズのイヤーチップ装着時)。イヤホンの足はタッチ操作部になっており、タップ、ダブルタップ、トリプルタップ、長押しで、音楽の再生・停止や電話の着信・切断、ノイズキャンセルのモード変更、音声アシスタントの呼び出しなどが行える。

充電器を兼ねたケースはコンパクトのように開く平たいタイプで、ケース寸法はW56.40×H25.5×D61.99mmで、重さは45.2g。イヤホン収納時は55.1gとなっている。バッテリー容量は、イヤホン本体が40mAh、ケースが450mAh。イヤホンの充電時間は1時間、ケースは2時間となっている。有線充電時のポートはUSB Type-Cで、USB Type A to Type-Cケーブルが付属する。

ケースは磁石内蔵で、イヤホン本体が簡単に落ちたりしないようになっている。形状もあるのだろうが、1MORE Evoよりケースから出しやすくなっているのは好印象。Qi、USB両方で充電可能だ

ノイズキャンセル機能は同社の「QuietMax」で、公称で42dBの静音能力があるという。数値的には過去にレビューした1MORE Evoと同等。実際に装着してみたが、1MORE Evoよりも若干ノイズキャンセルの効果が高いのでは?と感じられた。イヤーチップの素材や形状の影響かもしれないが、特にモードを「スマート」モードにしている時は、扇風機の風切り音や別のスマートフォンのゲームの音まで押さえ込んで、かなり静かにしてくれた。

無線接続はBluetooth 5.2に対応しており、特に表記はないが、サポートしているコーデックはSBCとAACのようだ。低遅延のゲームモードなどは搭載していない。実際、遅延はやや大きめだと感じられた。実験的機能として、スマートフォンとスマートウォッチなど、同時に2台の機器と接続できる「デュアルデバイス接続」もサポートしている。2台のスマートフォンに同時接続し、片方で音楽を聴いている時にもう片方に電話がかかってきたとき、自動で接続先が切り替わり、通話が終わればまた元の端末に接続される機能で、2台持ちの人にはなかなか便利そうな機能だ。

○アプリによるカスタマイズで音質を補正

1MOREの製品は、スマートフォンアプリ「1MORE Music」アプリで各種設定が行える。ノイズキャンセルのモード設定、空間オーディオ機能のオン/オフ、イコライザーの設定、ファームウェアのアップグレードなどが行える。

設定アプリの「空間オーディオ」の存在感が大きい

イコライザーは「スマートエコライザ」機能による動的な補正に加え、標準で12種類のイコライザーのプリセットが用意されているほか、ファームウェアを1.0.7以上にアップデートすると、カスタムイコライザーを設定できるようになった。SonoFlowをレビューした時、イコライザーのカスタマイズできないのが残念だと指摘していたが、きちんとファームウェアアップデートで対応してきたのは評価できる(なおSonoFlowもファームアップで対応済み)。

「スマートエコライザ」は動的な補正機能。基本的には「+」の方にするほどバランスをとりながら低音が強調されるようだ

イコライザーは12種のプリセットに加えてカスタム設定が利用できるようになった

○素直で聴きやすい万能タイプの音質

肝心の音質についてチェックしよう。まずは「標準」状態を確認するため、空間オーディオなしの状態で聞いてみる。本機はAACとSBCの両コーデックに対応しており、ハイレゾ対応ではない。音楽ソースにはApple Music(ロスレス)を使い、AirPods Proと聴き比べてみた。イコライザーはカスタム設定でフラットにしてある。

1MORE Aeroの音は、一言で言えば素直。AirPods Proと比べると解像感が高く、音場感もあり、細かい音もしっかり拾ってくれるため、聴いていて物足りなさを感じることもない。高音から低音まで過不足なく、フラットな特性で、長時間聞いていても疲れにくい。これは1MORE製品全般に言えることなので、メーカーとしての音作りの方針なのだろう。ただし、人によっては低音が物足りないと感じるかもしれないが、その場合はイコライザーで調整するといいだろう。

また、これはSonoFlowのときもそうだったが、ノイズキャンセルをオンにするとかなり顕著に音質が変わる。イコライザーを設定していない場合でも低音が強調されるので、低音好きならノイズキャンセルを常時オンにして運用するというのも一つの手だ。

○空間オーディオの効果はいかに?

さて、いよいよ本命の「空間オーディオ」についてだ。空間オーディオは、現在「Dolby Atmos」と「360 Reality Audio」の2種類の技術が市場で実用化されている。前者は映画配信やApple Music、後者はAmazon Music Unlimitedで採用されている技術だ(AmazonはDolby Atmosにも対応)。

どちらも基本的には似たような技術で、左右方向だけでなく、前後、上下にも音源をバーチャルに設定し、2つのスピーカーだけで立体的な音響を感じられるというもの。ここに「ヘッドトラッキング」技術が加わると、「正面」に対して頭の向きを上下左右に振ることで、音源自体が「正面」にあるように聞こえてくる。

また、どちらの技術も、音源、再生ソフト、再生機器が対応している必要がある。例えばAndroid用Apple MusicはAndroid端末本体がDolby Atmosに対応している必要があり、非対応端末では再生できない。

筆者愛用の「moto g50 5g」はDolby Atmosに対応していないため、Apple Musicでは空間オーディオの設定が表示されない(対応なら「オーディオ」の下に出る)。後継機である「g52j 5g」は対応しているらしいのだが、こちらはg50が対応しているLDACに対応していない。痛し痒しだ

さらに言えば、iOS 16で導入された耳の形への最適化やヘッドトラッキングも含め、空間オーディオに「完全対応」しているとされるのはiPhone、Mac、iPad、Apple TV 4KとAirPods(およびBeats Fit Pro)の一部の組み合わせだけだ。

一方、Amazon Music Unlimitedの場合は再生アプリにデコーダを内蔵しているため、どんなスマートフォンでも再生できる。また、360 Reality Audioの場合はスピーカーなどの再生機器も問わない(一応、360 Reality Audio対応製品というものは存在するのだが)。

「moto g50 5g」とAmazon Music Unlimitedと1MORE Aeroの組み合わせでDolby Atmosのソースを再生できた

では、1MORE Aeroはどちらの技術に対応しているのか。パッケージなどにも対応技術については触れられていないのだが、1MOREが独自開発した「リアルタイム空間オーディオ」ということらしい。iPhoneのApple MusicでDolby Atmos対応の楽曲を流しつつ1MORE Musicアプリで「空間オーディオ」をオン・オフすると明らかに聞こえ方が変わるので、状況証拠的にDolby Atmosに対応していると思ったのだが、公式には「独自技術」ということらしい(前述のような理由でAmazon Music Unlimitedの360 Reality Audioは「対応」していなくても再生が可能)。どちらの技術でもきちんと効果が得られると言うことであれば問題はないだろう。

長々と技術的な話が続いたが、実際に空間オーディオ対応音源を再生してみると、ステレオと比べて立体感が非常に強くなる。空間オーディオは音源側の作り込みも重要なので、必ずしも強い立体感が感じられる曲ばかりではないが、比較的効果が低いものでも音源の位置の前後関係が感じられるようになる。Dolby Atmosも360 Reality Audioも、どちらもちゃんと効果が感じられる点はうれしい。

ちなみに、個人的に最も効果が高いと思ったのは、Apple Musicの「空間オーディオ」ジャンルで「おすすめビデオ」に並んでいる10本のビデオ。これはアーティストやサウンドエンジニアが空間オーディオを使ったレコーディングなどについて語っているものだが、その背景で流れている音も空間オーディオになっており、非常にわかりやすく「音に囲まれる」体験ができる。

AirPods Proも1MORE Aeroも同様に空間オーディオコンテンツを楽しめるが、1MORE Aeroのほうが音の解像感が高いこともあり、「音」を楽しむならAeroのほうが好ましかった。一方、AirPods ProはApple Musicでヘッドトラッキングに対応しており、首を左右に動かすと、音源の向きが変わる感じが(そこまで顕著ではないが)感じられる。

実は1MORE Aeroにもジャイロが搭載されており、ヘッドトラッキング対応を謳っているのだが、Apple MusicでもAmazon Music Unlimitedでも、その効果は体感できなかった。とはいえ、ハードウェア的な用意はあるわけで、このあたりは将来のアップデートなどで改善されるかもしれないので、期待したい。

最後に気になる価格だが、1万6,990円。さらに11月18日までは発売記念の特別セールとして3,000円の値引きクーポンが利用できる。空間オーディオ対応のANCワイヤレスイヤホンとして考えると、対抗馬は第3世代AirPods(2万7,800円)やBeats Fit Pro(2万8,800円)になるので、実質半額程度のAeroは驚くほどリーズナブルだ。

音自体は素直で聴きやすく、高性能なノイズキャンセルも備え、空間オーディオという新しい音楽体験を楽しめる。ワイヤレスイヤホンの入門用としてはもちろん、これまでとは違った音楽環境を用意したいといった人にもおすすめの1台だ。