スウェーデンの空気清浄機専業メーカー・ブルーエアが2022年1月に発売した「Blueair DustMagnet」(以下、DustMagnet)。まるで家具のような、空気清浄機としてはユニークなデザインで注目を集めている。

ブルーエアの空気清浄機「Blueair DustMagnet」(2022年1月発売)。物を乗せられる天面のテーブルトップや4本の脚など、インテリア性の高い製品を追求し続けてきたブルーエア史上において、最も家具を意識したデザインだ

今回はDustMagnetの開発経緯について、プロダクトデザインの観点から、ブルーエア・プロダクトマーケティングマネージャーのアムナ・カピック氏に語ってもらった。

○空清ユーザーの不安、機構の刷新で解決

DustMagnetは、フラッグシップシリーズの「Blueair Protect」(2020年12月発売)から機構を大幅に刷新。上下から空気を吸い込む構造を採用したのが大きな特徴だ。

カピック氏は、この方式を採用するに至った経緯と理由を次のように語る。

「私たちBlueairが25年前から成功裏に作り上げてきた他の製品と同様に、DustMagnetは消費者調査とニーズの特定に基づいて作られた製品です。その中で私たちは、空気清浄機が稼動しているにもかかわらず、消費者が床や表面のホコリを目にし、家族や自分が汚れた空気を吸っているのではないかと不安に思っていることを知りました」(カピック氏)

ホコリが蓄積するおもな要因のひとつとして、ブルーエアは「空気の流れ」に注目した。

「空気の流れがよければ、ホコリが溜まる可能性は低くなります。例えば自宅の場合、部屋のすみやテーブルの下、ケーブルの周りといった、空気の流れが悪い場所にホコリが溜まりやすいですよね」とカピック氏。

ブルーエアが挑んだのは、「強い空気の流れを作り出す」こと。空気の流れが滞るのは「空気が不足している」からだとして、カピック氏は「側面に大きな吹き出し口を設けることで、大量の空気を押し出し、部屋の隅々まで空気が行き渡るような循環を実現した」と話す。

垂直噴射(左)と水平噴射(右)のシミュレーション。水平のほうが平均体積速度(m/s)が65%高い結果となった

数値流体力学のシミュレーションソフトを用いた性能予測で高い評価が得られたため、DustMagnetの本体側面2カ所に吹出口を設ける機構を採用した。

さらに、吹き出し口が強力な気流を生み出すことを前提として、機器の両側からホコリをとらえるようにと、上下に2つの吸い込み口も設けられた。

本体の側面2カ所に設けた吹出口から渦上の気流を生み出し、有害物質をマイナス帯電する

上下2カ所に設けられた空気の吸込口

○シンボリックな脚に秘めた機能性

空気を下からも吸い込めるよう、DustMagnetには「レッグパーツ」という4本の脚がある。家具のような印象は、このパーツによるところも大きい。だが、本体の下に空間を設けるという機能性とデザイン性を同時に成り立たせるためには、思わぬ苦労があった。

「デザインと性能の両立で一番苦労したのは、フィルターでした。イメージ通りの美観を実現するためには、フィルターを設置するスペースが非常に限られていました。というのも、世の中の多くの製品は円筒形の巨大なフィルターを搭載しており、それが大きなスペースを占めているのです。DustMagnetの場合、使えるスペースがほとんどなく、サイズの制約がある中で最も効率的でパフォーマンスの高いフィルターを確保する必要がありました」(カピック氏)

レッグパーツを設けることで、上下2カ所から空気を吸い込むことが可能になった。限られたスペースの中に、2枚のフィルターを収めるのが難しかったという

高水準の性能を実現するため、フィルターやシステムの最適化に長い時間をかけて取り組んだ。ブルーエアの独自技術「HEPASilentテクノロジー」と、適切なフィルター素材や構造を複数組み合わせることで、最終的には見た目だけでなく、性能も優れた製品が誕生した。

「レッグパーツはDustMagnetのシンボルのひとつで、家具としての完成度を高めることに貢献しています」と語るカピック氏。

デザイン案の一例

スウェーデン本社での開発時の様子

空気清浄機の脚としては高さがあるが、その理由を「底面に備える吸込口と床との間に十分なスペースを確保する必要があるため、脚の高さは非常に重要なポイントでした」と説明。「同時に、製品の安定性を確保するためにも、適切な高さを確保する必要があり、振動試験や最大荷重試験も行って、脚の大きさや堅牢性を念入りに確認しました」とも明かした。

本体の上部にテーブルを設け、物を乗せられるのもDustMagnetのユニークなポイント。カピック氏は、テーブルを採用した理由と課題を次のように語った。

天面の吸込口の上には、小物を置けるテーブルトップがある

「ブルーエアでは、消費者インサイトに導かれるだけでなく、市場のトレンドにも目を配り、今日開発したものが明日にも通用するよう、数年先を見据えた積極的なアプローチをとっています。そんな中、私たちが注目し、世界的にもますます関心を集めているトレンドのひとつがコンパクトリビングです。以前と比べ生活空間が狭くなってきており、この傾向は今後も続くと思われます。

そのため、DustMagnetは床面積を占有するのではなく、床面積を開放するものでありたいと考えました。さらに、空気清浄機をいかにして隠したい目障りな存在ではなく、主張のあるものにするかという問題も解決しようとしました。

実は、この形を採り入れる上で最大のハードルは、『DustMagnetを家具にする』というアイディアを消費者が受け入れてくれるかどうかでした。家電はこうあるべき、家具はこうあるべきという先入観がある中で、スピーカーなど家電を家具にする試みは他の製品カテゴリーでも行われており、心強く感じていました」(カピック氏)

○インテリアになじむ色と質感を追求

DustMagnetの本体カラーは、ニュートラルカラーと呼ばれる白とグレーの2色展開。カラー選定の理由について次のように説明した。

「この2色は誰もが自分の家の中にある、見覚えがある色ではないでしょうか。発売前に実施したフィールドテストでは、93%が『部屋のインテリアによくなじむ』と回答しました。これは『デザイン性の高い空気清浄機でありながら、どんな家庭にも溶け込むニュートラルなカラーを実現する』という私たちの課題をクリアしたことを示す、非常に心強いデータでした」(カピック氏)

レッグパーツを設けるなど、そのたたずまいは家具そのもの。違和感なくインテリアに調和するデザイン性の高さだ

ロゴマークを配置したレザータグや、ファブリック素材の採用も目をひく。

カピック氏は「ファブリックやレザーのタグがあっても、ダストマグネットの性能に影響はありません」と前置きしつつ、「さまざまな家に対応するために、色や素材、仕上げを工夫する必要がありました。ニュートラルでありながら、美的な魅力もあるものをどう選ぶか。それが、家具を売る場合の難しいところです」と、デザイン的な魅力を生み出す苦労を語った。

ファブリック調モデル。前後のパネルにグレーのファブリック素材を採用し、レザータグによるブルーエアのロゴマークが施されている

操作部にもこだわりが。ボタンを「ON/OFF」と「FAN SPEED」の2つに集約し、主要な機能にすぐアクセスできるようにしている。上部のLEDのうち、1つはフィルターの交換時期を、もう1つはWi-Fiの接続状況を示す。

電源と風量設定のボタンのみに集約された、シンプルな操作部。LEDもノイズにならないよう極力控えめにデザインした

「DustMagnetが想定する消費者層は、クリエイティブかつ自由で、家庭内のあらゆるものが買いやすく、使いやすく、ただその役割を果たすだけでいいと考えている人々です。彼らはシンプルな機能とデザインをもつ、メンテナンスが簡単で使いやすい製品を好みます。だからこそ、私たちは可能な限りシンプルで分かりやすいユーザーインタフェースを選び、たった2つのボタンですべての主要な機能を起動できるようにしました」(カピック氏)

これまでも空気清浄機の専業メーカーとして、性能はもちろん機能やデザイン面で常に業界をリードしてきたブルーエア。クリエイティブで自由な人々に向けたDustMagnetは、ブルーエア史上でも類をみない構造とデザインを採用し、遊び心に満ちたモデルだった。

ブルーエア プロダクトマーケティングマネージャーのアムナ・カピック氏