四駆の王者「ランクル」と同じ時代を駆け抜け、そして消えたフレームシャシーのライバルたち

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トヨタ ランドクルーザーが14年ぶりのフルモデルチェンジで、“300系”に生まれ変わった。

トピックの一つが、新開発のラダーフレームを採用したGA-Fプラットフォーム。海外のオフローダーが一台また一台とモノコック化されるなか、最新技術によってまたも伝統のフレーム構造を守ったかたちだ。現在、国内の登録車でフレームシャシーを持つ日系SUVは、300系とプラドのランクルシリーズ、そしてフルモデルチェンジをはたしたレクサスLXのみ。

しかし、かつては同じように強靱なフレーム構造を誇り、ランクルと同じ時代を駆け抜けたライバルたちが存在したのだ。「四駆の王者」に挑んだ国産オフロード4WDを振り返ってみたい。

【画像】今はもう(日本には)いない…ランクルのライバルたち

■日産サファリ

ランクルとともに日系SUVの最高峰に君臨し続けたのは、日産サファリだ。

歴史は古く、初代が海外向けと同じパトロールの車名で誕生したのは1951年。ランクルと同じく、警察予備隊(現・自衛隊)の採用を目論んだ小型トラックとして開発された(採用されたのは三菱ジープ)。生い立ちからすれば、まさに宿命のライバルだった。

国内でサファリを名乗ったのは、1980年の3代目からだ。RV(レクリエーショナルビークル)を指向した現代的デザインに生まれ変わり、ショートは幌に代えてFRPのハードトップを装備した。ハイルーフも登場。エンジンは3.3L直6 OHVディーゼルでデビューし、ターボを追加した。4WDは副変速機付きのパートタイム方式だ。テレビドラマ「西武警察」の劇中車としても知られる。

1987年には4代目(サファリとしては2代目)にフルモデルチェンジ。フレームは新設計で、サスペンションもスプリングがリーフ式からコイル式に一新された。エンジンは新開発の4.2L直6ディーゼル(のちにターボ)。ボディは大型化され、ロング・ワイドフェンダーは全長5m・全幅1.9mを超えるビッグボディを誇った。1991年には4.2L直6 OHVガソリン搭載のワゴン(7人乗り)が登場。本革仕様のキングズロードも加え、SUVの王者を標榜した。そして主力は商用からしだいに乗用へと移った。

5代目(同3代目)のデビューは1997年で、10年ぶりのフルモデルチェンジ。ガソリンエンジンは4.5Lに拡大された。4.2Lディーゼルターボ、先代後半から継続のショート用2.8Lディーゼルターボも強化。後者は1999年のマイナーチェンジで新世代の3L直噴DOHCディーゼルターボに換装された。

2002年には国内販売をいったん休止し、ビッグマイナーチェンジを敢行。国内向けは新開発4.8L直6ガソリン+5速ATのグランロードリミテッド一本に絞られた。サファリは海外でランクルと人気を二分するほどだったが、国内では圧倒的な差をつけられており、これが最後の勝負になった。2007年に国内販売終了している。

一方、海外では2007年に6代目パトロールが登場し、現在も中東やオーストラリアで活躍中。北米版のアルマーダは2021年モデルで魅力的なフェイスリフトが行われた。



■三菱 パジェロ

初代パジェロは1982年に誕生。ジープをライセンス生産してきた三菱が、ピックアップ4WDのフォルテをベースに開発した新感覚のオフロード4WDだった。

クリーンで洗練されたスタイリングと頼もしい悪路走破性は、しだいにレジャー指向が高まっていた国内市場ですぐに人気を集める。4WDとディーゼルターボの組み合わせは日本初で、その2.3Lエンジンはサイレントシャフト付き。また、トランスファーにはサイレントチェーンを使うなど、三菱自慢の先進メカも魅力だった。2Lガソリンも搭載。

キャンバストップとメタルトップ(ともに商用4ナンバー)でスタートしたボディタイプは、翌年から乗用5ナンバーのメタルトップワゴン、ロング・ハイルーフのエステートワゴン/バン、ミッドルーフ、オーバーフェンダーのワイドシリーズと次々に拡大。エンジンも意欲的に強化され、1988年には3L V6ガソリンが投入された。商用バンから高級SUVまで揃える超ワイドバリエーションを築きあげ、初代パジェロは一代で日本を代表するオフロード4WDになったのだ。

1991年デビューの2代目は、フレームをキャリーオーバーしながら正常進化。ボディはロングにキックアップ、ショートにJトップがそれぞれ登場し、いっそうワイドかつ個性的な一大バリエーションを形成した。

パワートレーンには世界初のスーパーセレクト4WDを搭載。フルタイムとパートタイムの特徴を併せ持ち、センターデフ式ながら2WD(FR)の選択も可能にした。マルチモードABSも世界初の注目メカだ。エンジンは3L V6ガソリン、2.5Lディーゼルターボの性能をそれぞれ向上させ踏襲。バブル景気の余韻とクロカン4WDブームの大波に乗り、国内月販台数の首位まで獲得する大ヒットを飛ばした。

マイナーチェンジでは3.5L V6DOHCガソリンと2.8Lディーゼルターボに換装。SUV最強の座をランクルシリーズから奪い返した。ショート用には2.4Lガソリンも加え、水も洩らさぬ磐石のラインアップが完成した。1997年には3.5L V6にGDI(ガソリン直噴)を投入。エボリューションの登場や、ダカールラリーで篠塚建次郎が日本人初の総合優勝を果たしたのも、同じ1997年だ。2代目でパジェロは絶頂を極めた。

世界でも約170の国と地域で販売され、SUVのビッグネームへと成長したパジェロ。1999年に登場した3代目は、プラットフォームが大きく見直された。

ビルトインフレーム構造のモノコックボディに一新されたのだ。ボディサイズを拡大しながら、大幅な軽量化と高剛性化を実現。パジェロエボ譲りの4輪独立サスペンションも話題を集めた。これは悪路走破性への懸念から一部で物議を醸したが、操縦安定性と乗り心地はいちだんと向上。ほかにも新開発の3.2L直噴ディーゼルターボエンジン、電動切り換え式や前33:後67の駆動力配分を採用したスーパーセレクト4WD-Ⅱなど、進化のすべてはオフロードSUVの将来を先取りするものだったのだ。

しかし、国内のクロカンブームは終焉し、さらに三菱は度重なるリコール問題に端を発した販売不振で経営が悪化。暗いムードの中、4代目は忠実なキープコンセプトで2006年に登場したが、コストダウンの影響、アウトランダーなどモノコックボディを採用した新世代SUVの台頭もあり、かつてのSUVの主役は凋落の一途をたどった。

2019年8月、ついに国内向けの生産を終了。海外向けも21年7月に生産を終え、パジェロ製造はすべての生産活動に幕を降ろした。



■いすゞ ビッグホーン

いすゞのビッグホーンは、ランクルやサファリがまだ武骨な悪路走行車のイメージを残した時代、一般のアウトドアユースにもマッチするRVを具現化した先駆けだ。初代は1981年に誕生。当初の車名はロデオ ビッグホーンで、ピックアップ4WDのファスター ロデオをベースに開発された。

ボディは2ドアバンのショート&ロングでスタートし、ロングの5ナンバー乗用ワゴン、ロングの4ドア化とバリエーションを拡充。丸形2灯の外観は初代レンジローバーにそっくりとも言われたが、1987年のマイナーチェンジで角形2灯に一新、独自の存在感を獲得した。エンジンも2.2L OHVディーゼルに始まり、同ターボ、2Lガソリンとバリエーションを拡大。
 
ビッグホーンの商品性をさらに際立たせたのは、1985年からいすゞ車に展開された独英の名門チューナーモデルだ。一つは「イルムシャー」。ショート/ロング、乗用/商用、2.6Lガソリン(乗用)/2.8Lディーゼルターボと、最終的にはなんと全車にフルライン化された。1990年には「スペシャルエディション(SE)バイ ロータス」が登場。両車ともそれぞれのチューナーが手がけたスポーティな足まわり、洗練された内外装が魅力だった。

初代の後期で確立した商品コンセプトは、1991年デビューの2代目にも忠実に受け継がれた。サスはイルムシャーががっしりした剛性感、SE改め「ハンドリング バイ ロータス」は上質なしなやかさが持ち味だ。ボディは本格3ナンバーワイドに成長。

基本メカニズムは大幅な進化を遂げた。エンジンは新開発のガソリン3.2L V6 DOHCと、3.1Lディーゼルターボ。1995年にはパートタイム4WDにシフトオンザフライシステムを採用、走行中でも2WD⇔4WDの切り換えを可能にした。1998年にはディーゼルが新世代の3L DOHC直噴コモンレール式に換装された。

いすゞは1993年に小型乗用車の自社開発・製造を中止。経営資源を商用車やSUVに集中していた。しかし、2002年にはついに乗用車事業から完全撤退。ビッグホーンはいすゞユーザーやSUVファンに惜しまれながら絶版となった。

〈文=戸田治宏〉