鳥の脚に追跡装置を取り付けるという調査を実施したオーストラリアの研究チームが「取り付けた追跡装置が全て外された」と新たに報告しました。この追跡装置は自力では取り外せない設計でしたが、「仲間に外してもらう」という鳥類にはめったに見られない利他的行動によって除去されたことが分かりました。

Altruism in birds? Magpies have outwitted scientists by helping each other remove tracking devices

https://theconversation.com/altruism-in-birds-magpies-have-outwitted-scientists-by-helping-each-other-remove-tracking-devices-175246

新たに鳥の利他的行動に関する新発見を報告したのは、オーストラリアのサンシャインコースト大学で動物生態学や環境科学について教えるドミニク・ポトヴィン氏ら。ポトヴィン氏らは新型追跡装置の実証実験と現地に分布するカササギフエガラスの行動範囲・交友関係調査を兼ね、「カササギフエガラスの脚に追跡装置を取り付ける」という調査を行いました。

ポトヴィン氏らが用意した新型追跡装置は重量わずか1g未満で、餌場に設置された専用ステーションでバッテリーの充電や調査データのダウンロードを自動で行うというシステムを搭載。自力で外すことは不可能ですが調査完了時を見越した「マグネットを近づけると取り外せる」という仕掛けも備わっており「餌場に戻ってきたカササギフエガラスがマグネットに接近するだけで自動回収できる」という想定でした。



今回の研究対象に選ばれたカササギフエガラスは鳥類の中でも社会性に富んだ種で、2〜12匹で1つの群れを形成し、歌の合唱や急降下などの攻撃を通して群れの縄張りを維持することが知られています。また、子育てに際しても相互に協力する様子が確認されており、兄弟の中で年長の個体が子育てを手伝うこともあるとのこと。2羽で遊ぶカササギフエガラスの様子はこんな感じ。

Magpies Just Wanna Have Fun - Richard and Pip Playing - YouTube

このカササギフエガラス5羽に前述の新型追跡装置取り付けたところ、ポトヴィン氏らが予想もしていなかった「追跡装置を仲間に外してもらう」という行為が確認されました。報告によると、幼年の個体に取り付けた追跡装置に至っては設置後たった10分で年長のメスに取り外されただけでなく、ほとんどの追跡装置が除去されるまでにかかった時間はわずか数時間。群れのリーダーに取り付けた追跡装置が最も除去されるまでに時間がかかったそうですが、それでも3日目には除去されてしまったとのこと。

ポトヴィン氏らが「追跡装置が外される」という事態を想定してなかった理由は2点あります。1つ目は邪魔なだけで害自体は与えない追跡装置をある種の寄生虫と同等の「除去が必要なレベル」と見なすとは思わなかったという点。2つ目は今回カササギフエガラスで見られたような「利他的行動」は鳥類ではほとんど確認されてこなかったという点です。ポトヴィン氏らが文献で調べたところ、今回のような鳥類の利他的行動はセーシェル諸島の固有種であるセーシェルヤブセンニュウについて報告された「仲間の体からひっつき虫を外す」という行為しか前例がなかったとのこと。

カササギフエガラスは地球温暖化による熱波の影響を特に受けやすいため、今回予定されていた調査は保全活動の計画立案に特に有意義なものになるという見通しでしたが、前述したように失敗に終わりました。これについてポトヴィン氏は「学術科学者として、私たちは使用期限切れのモノや機器の故障、サンプルの汚染、突然の停電によって失敗する実験には慣れっこです。とりわけ動物の行動を研究する私たちにとっては、予測不可能な問題はもはや仕事の一部ですね」とコメント。今回の経験をもとに追跡装置を改良し、再度調査を行う予定だと語っています。