2月下旬まで期間限定販売している「misdo meets WITTAMER ヴィタメールコレクション」。2021年のピエール マルコリーニに続き、ベルギー王室御用達パティスリーブランドとのコラボだ(筆者撮影)

ミスタードーナツが2017年から行っている、他の企業との共同開発企画「misdo meets」。2021年はピエール マルコリーニやBAKEとのタッグが話題を集めた。そのほか祇園辻利、陳建一など、これまでに13社、120商品以上を数えるまでになっている。

そしてバレンタインデーを目前にして同チェーンが仕掛けるのは、ヴィタメール社とのコラボレーションだ。

ピエール マルコリーニと同様ベルギー王室御用達のパティスリーブランドであり、日本店は海外の拠点として初めて認められた店であるという。また、日本人の味覚に合わせた日本オリジナル商品を開発・販売しているのも、日本における同ブランドの特徴だ。

知名度の高いブランドだけあって、ミスドのコラボレーション商品もすでに話題が広がり、ネットでは「どこに行けば買えるの?」という記事も多く見られる。

今回は、このように毎回話題となるmisdo meetsの意図や売り上げ等への影響について、ミスタードーナツを運営するダスキンを取材した。

ワクワク感、選べる楽しさ、おいしさ

同社によると、misdo meetsを企画した理由は次の通り。
ミスタードーナツの使命とも言えるのが、ワクワク感や選べる楽しさ、おいしさといった価値をお客様に提供することです。misdo meetsは『いいことあるぞ ミスタードーナツ』のブランドスローガンのもと、最高水準の素材と技術をもったブランドといっしょに商品開発を行い、さまざまな企業や商品との出会いをお客様に提供していきたいと、2017年から開始した取り組みです」(広報部)

確かに、過去のコラボレーション例を見ても、普段はちょっと手が出にくい、高級ブランドの味を身近なミスドで楽しめるところに、人気の理由があったようだ。


同名のケーキをイメージした「ショコラ サンバ」。ドーナツショコラ生地にガナッシュクリームとガナッシュホイップをサンド。かわいらしい見た目で、今回のコレクション中で人気No.1とのこと(筆者撮影)

今回のヴィタメールコレクションでは、商品は4種類。ヴィタメールの日本限定商品であるケーキをイメージしたのが、「ショコラ サンバ」「ショコラ ノワゼット」。プラリネチョコレートをイメージしたのが「ショコラ キャラメル」「ショコラ ミルティーユ」(各税抜き200円)だ。

それぞれ試食してまず印象的だったのが、その軽い食感だ。今回、ケーキづくりに用いる手法を応用し、新しい生地を開発したのだという。さらにドーナツを上下にカットし、間にクリームやホイップを挟んでいるのも、軽やかさを強調している。

またケーキやチョコレートと言えば、宝石のような美しい見た目も楽しみの一つだが、ドーナツにおいても十分に表現されている。一つひとつ箱に入っているのもケーキのようなぜいたく感を演出するためだそうだ。

なお、このように手の込んだ商品のため、工程が多く、店舗での製作に時間がかかるのだそう。店舗での入手しにくさの一因でもあるそうだ。


1月28日にコレクションに加わったドーナツ。プラリネチョコレートの中でハート型が人気の「クール・レイ」を表現した。写真はベルギーワッフルをイメージしたドーナツ生地と2種類のショコラを味わえる「ルージュハート」税抜き240円(写真:ダスキン)

なお、1月28日にはバレンタインデー向けとして特別に企画されたハート型のドーナツ3種(各税抜き240円)もコレクションとして加わっている。先に発売されたドーナツとは生地が異なり、食べ比べる楽しみがさらに増した。

misdo meetsにおいて同社が大切にしているのが、コラボ先の素材や技術を取り入れながらも、ミスドらしさを発揮することだという。

「共同開発が決まってから、協力する企業の方といっしょに商品開発を始めます。企業さまごとにあるこだわりに、ミスタードーナツがいかに応えていくかというところに苦労しています」(広報部)

例えば2021年の夏に商品化した「misdo meets BAKE & ZAKUZAKU」では、オールドファッション生地をチーズケーキのタルト生地に見立てたドーナツで、「クロッカンシュー ザクザク」のクロッカンシューは、シュードーナツで表現した。

ドーナツショコラ生地を新開発

今回のヴィタメールでは、ケーキのようなドーナツとするために、ドーナツショコラ生地を新開発している。このように、“生地へのこだわり”がミスドのアイデンティティを構成する要素の一つとなっている。

「生地の食感は開発担当者が大切にしているところです。メディアなどの人気ランキングで必ずトップ10に入っているのが、オールドファッションやフレンチクルーラーなど、創業当初からある基幹商品です。それぞれ生地の食感が異なっていることが、ロングセラーの理由なのではないかと考えています」(広報担当)

ちなみに、ランキング1位はポン・デ・リング。発売以来約20年が経過する今なお、売り上げ個数1位を維持し続けているという。理由を聞くと、もちもちした食感が日本人好みであることや、キャラクターの「ポン・デ・ライオン」と結びつけて印象に残るからでは、とのことだった。

なお、ポン・デ・リングについては期間限定商品「ポン・デ・ショコラ」シリーズが2月下旬頃まで発売中だ。

さて、こうした商品品質へのこだわりは、業績にも影響しているようだ。


2003年に発売されて以来、不動の1位を獲得しているポン・デ・リング。日本人好みのもちもち食感と、特徴ある見た目をキャラクター化した「ポン・デ・ライオン」が人気の理由だ(筆者撮影)

ダスキンが発表する決算短信によると、2017〜2019年はフードグループの売り上げが減少傾向にあったものの、2020年は増加に転じ、売上高は前年同期2.4%増加の362億6300万円となった。その背景には、misdo meetsのほか、季節の期間限定商品や人気キャラクターとのコラボ商品の好調も挙げられている。この期間にはオールドファッションなどの基幹商品の改良も行っており、ブランド再構築を進めてきたことが功を奏し始めていたと見える。

2021年はコロナの影響を受けながらもテイクアウト需要を取り込み、売上高は0.8%増加の365億6100万円となっている。

「感染拡大が始まった2020年年明けは一時的な休店、営業時間の短縮、イートインスペースの閉鎖等で影響を受けたものの、商品をしっかりと出し、テイクアウトに力を入れたことで結果的には増収となりました。また、2021年4月からはネットで注文して店舗で受け取れる、ミスドネットオーダーを開始しています。こちらもコロナ禍での売り上げアップに貢献していると考えられます」(広報部)

2022年第2四半期(2021年4月1日〜9月30日)の売上高は、前年同期比24.9%増加の199億1500万円となっている。

話をまとめると、商品の見直し等、以前から進めてきたブランド価値アップの取り組みが実を結びつつあったことに加え、さらにコロナ禍で高まったテイクアウト需要の波にうまくのれたことが、売り上げ伸長の理由と言えそうだ。

なお、2021年より開始したミスドネットオーダーは、当初当日販売分だけに限られていたものの、11月からは日時指定予約が可能となっている。misdo meetsをはじめ、すぐに売り切れてしまい、なかなか入手しにくい人気のドーナツは、この日時指定予約を利用するとスムーズに購入できるかもしれない。

1971年4月に日本1号店を開業

実は2020年、50周年を迎えていたミスタードーナツ。フランチャイズビジネスを学ぶために渡米していたダスキン創業者の鈴木清一氏が、ミスタードーナツ・オブ・アメリカの創始者ハリー・ウィノカー氏と出会い、そのおいしさに感動したことが、異業種参入のきっかけとなった。また、事業提携を決断する際には「多くの人々や仕事に携わる人々の活躍や成長のチャンスを」と考えたのも理由という。アメリカ・ミスタードーナツとの契約を結んだ翌年、1971年4月に、大阪の箕面に1号店を開業した。

長く続くブランドでは、保守と革新のバランスが難しい。同チェーンではドーナツ生地へのこだわりを核にしながら、他社とのコラボなどを通じて変化を取り入れようとしているように感じられる。

また店内調理を基本とするため、スペースが確保できる路面店を中心に展開してきたため、駅ナカなどは出店空白地域となっていた。これについても、品質へのこだわりは残しつつ、変化を取り入れている。


これまで展開してこなかった、駅ナカへの出店を進めているミスタードーナツ。写真はekimo梅田ショップ(写真:ダスキン)

駅ナカなどに対応した小さな店舗の出店で、空白商圏への展開を検証しているというのだ。これらにおいては、製造を一手に行う「マスターコントロールキッチン」を活用する。マスターコントロールキッチンは現在、大阪で試験運用されており、梅田や新大阪といった駅ナカの店舗へ商品の配送を行っているという。

50年という節目を通過した今、大きく変わろうとしているミスタードーナツ。挑戦は始まったばかりだ。