【酔いにくさ追求とは?】新型ステップワゴン、初公開! 大胆すぎるほどシンプル…「AIR」と「SPADA」の2本立て

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ホンダは2022年春に正式発表・発売予定の新型ステップワゴンを2022年1月7日に初公開した。今回、公開されたのは車両のコンセプトと内外装のデザイン、パッケージングのみ。メカニズムやスペックなどは明らかにされていない。とはいえ、その概要は大まかに実車で確認できた。

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■デザインとシートアレンジが負けていた

今回で6代目となる新型。ターゲットユーザーは年齢30~40歳代、年収400~800万円台の家族で、小さいころからミニバンに慣れ親しんだ、いわゆる“ミニバンネイティブ世代”である。彼らにとって、ミニバンとはあらゆる用途に使え、生活を豊かにできるアイテム。安心・信頼や自由を求めるターゲット層の志向に合わせて、ミニバンの基本価値を進化させ、トヨタのノア/ヴォクシーや日産セレナといったライバル車との違いが出せる“存在感・ステータス”が感じられるクルマを目指した。グランドコンセプトの「#素敵な暮らし」は、ユーザーの生活を豊かにしてくれる新型ステップワゴンによって、素敵な暮らしを手に入れてほしいという願いが込められている。

ライバルたちの販売台数をみると、2021年1~11月では、ノア(4万594台)+ヴォクシー(6万4061台)+エスクァイア(1万1483台)=3兄弟が合計11万6138台、セレナは5万5940台。先代ステップワゴンは3万6008台…そのシェアは約17%だった。全車がモデル末期で同条件であることを考えれば、ステップワゴンはかなり苦戦を強いられたといえる数字である。

ホンダでは、ライバル車に圧された理由について、購入するにあたって重視するポイントの上位項目である外観デザイン、シートアレンジが負けており、つまりミニバンにとっての基本価値が若干劣っていたと分析。また、先代で特徴的な装備だった「わくわくゲート(縦開きに加え横開き可能なテールゲート)」など、ユニークな装備に注力してしまった結果、企業側の思いを優先させたプロダクトアウトの傾向が見られると判断した。

そんな反省を生かし、新型の開発責任者を務めるLPLシニアチーフエンジニアの蟻坂篤史氏は「デザインが他車に対して負けているという点では、お客様からの声として、(先代ステップワゴンは他車に比べて)小さく見えるというのがありました。そこで、大きく見えるようなデザインを目指しました。できる限り顔が大きく見えて、どこから見てもどっしりとした感じに見えるクルマにしようと」語っている。

また、反省点はデザインだけではない。蟻坂氏いわく、「あとはやはり、シートアレンジの種類が豊富ではなかったので、他車に流れたお客様がけっこういらっしゃるという話がありました。ですので、今回のロングスライド、いわゆる“なかよしロングスライド”を導入しました。このように先代で負けたところを改善しようということでやっています」とのこと。

また、わくわくゲートは新型で廃止された…その理由については、別の記事でご紹介しようと思う。



■エアーとスパーダの2つの世界観で展開

新型は「エアー(AIR)」と「スパーダ(SPADA)」の2系列の車種体系としたのが特徴。従来は標準系をベースに、前後バンパーやフロントグリル、ホイールなどを変更してスパーダを構築していたが、新型ではシンプル&クリーンなエアー、スタイリッシュ&クオリティのスパーダとそれぞれ異なる世界観を持つモデルとして展開。安価なグレードに装備を追加して付加価値を、という従来の考え方からの脱却を図ったわけだ。その販売比率は、50:50を目指すという。じつは先代ステップワゴン、9割がスパーダだった。

特に販売実績で1割だった標準系に代わるエアーが大幅な販売アップを担う…そんなことが可能なのか。ホンダの調査によれば、従来のエアロモデル領域(VIP/オラオラ/スタイリッシュ系)を好むユーザーが7割存在する一方で、クリーン・温かみ・シンプルをキーワードとしたナチュラル系を求めるユーザーが3割近く存在するという。こうした新しい価値を求める“兆し”を重視して、ユーザー層の拡大を狙うというホンダの新しい挑戦でもある。

車名のエアーは、誰でも知っている「空気」を意味する英語。水や空気はつねに自分たちのそばにあるが、あって当たり前、なければ困るというような存在。そんなふうに普通に存在するのが当たり前の“道具”として使ってほしいという思いが込められている。エアー以外にもかなりの数を検討したようだが、結果クルマの世界観に最も適した言葉として選ばれた。シンプル&クリーンな外観の仕立てに合うように、外観からは「AIR」というエンブレムをあえて廃し、外装の車名表記では単に「STEPWGN」としている。

ちなみに、スパーダには、上級の派生モデルとして「スパーダ プレミアムライン」を設定。狭山工場の閉鎖に伴い2021年12月で生産終了となったオデッセイの顧客層を意識した上級グレードとなる模様だ。

なお、プラットフォームは先代の改良版。後席の床まわりはロングスライド機構の導入に伴って新作。ガソリン車とハイブリッド車を設定することが明らかになっており、ハイブリッド車については2L直4ガソリン+2モーター式のハイブリッドシステム「e:HEV」、ガソリン車も1.5L直4ターボとそれぞれ継承されると予想。取材車両のタイヤはエアー/スパーダともに205/60R16サイズであった。



■エアーの外観デザイン

エアーのデザインコンセプトは「Life Expander BOX」。生活を広げて素敵な暮らしを実現するという意味である。外観デザインを担当した花岡久和氏は「お客様に提供したい価値である安心、自由を塊そのものから感じてもらおうとしました。いかにも物が積めそうな自由、そしてしっかりと頑丈で安心なキャビンを作り、スタンスがよくフットワークが秀逸、安全性能も高く、どこまでも走って行ける。それを塊で表現したいというのがこのシェイプのテーマです」と語る。最小限のシンプルでクリーンな塊のまま、そこに質感や上質感を追加していくという形で基本が出来上がったという。

エアーは今のミニバンでは珍しい、スッキリとしてクリーンな顔立ちが特徴。ベースがスッキリしているだけに細かい部分の手を抜くと、ともすれば商用車的な見え方になってしまう。そこでフロントグリルのディテールや、数少ない部品の配置で細かなチューニングを徹底的に行ったという。

真横から見ると、先代よりもAピラーが立っているのがわかる。じつはAピラーを70㎜キャビン側に引き、しっかりとしたボックスシェイプにしたのが特徴(視界のよさにも貢献)。デザイナーだけではなく、設計者も議論に加わり、視界や乗員の居心地という切り口から塊を作り出し、デザイナーはその塊をカッコよく仕上げた。結果的に長いノーズができ上がり、コンセプトの“安心”につながる乗員を守ってくれるようなシェイプに。極端に線が少ないサイドビューは、ともすると平板なボディになってしまうが、真上から車両を見たときの形が樽型に…つまりボックスシェイプでありながら面構成にこだわり、ふくよかさも意識している。

リヤビューでは、初代や2代目ステップワゴンのモチーフを全体的に取り入れている。縦長のリヤコンビランプは、一目見てステップワゴンだとわかるアイキャッチとしてアピールしている。



■スパーダの外観デザイン

スパーダのデザインコンセプトは「Prime Life BOX」。家族をしっかり守る存在にしたいという思いから、みんなが安心して自由にどこまでも上質な移動ができるようにすることをテーマにした。力強さ、伸びやかさ、品格をキーワードにデザインしたという。

ボディの基本骨格はエアーと共用。ボンネットやドアなどスチール部品は共通だが、フロントバンパーはエアーに対して20㎜延長、リヤバンパーは15㎜長くなり、力強さを表現。フロントマスクは各部品の配置に徹底的にこだわって、より精悍なデザインに。メッキパーツも効果的にレイアウトし、金属を削り出したような質感を持たせている。ボディ下部にはメッキモールをボディ1周まわすことで、品格のあるたたずまいとボディを大きく見せる効果を発揮。リヤにはテールゲートスポイラーを装着。サイドビューの伸びやかなシルエットの創出とともに、リヤビューをスクエアに見せることにも一役買っている。



■パッケージング

パッケージングはホンダ国内量産車で史上ナンバー1の空間を実現。どうやら全幅は3ナンバーサイズとなる模様で、室内空間の余裕につなげているようだ。家の中でリラックスした暮らしが途切れることなく、クルマにも続いていくようなイメージで空間を作り上げたという。2列目、3列目シートは後方に行くほど着座位置が高くなるレイアウトとすることで、視界が広く乗り物酔いしにくい室内としている。

新型ステップワゴンの開発では、乗り物酔いに着目。開発初期からホンダ社内の乗り物酔いを研究するチームと検討を重ねた結果、前が見えないと乗員は横を向くなどして姿勢が崩れ、頭部をしっかりと支えられなくなるため、酔いやすくなることが判明したという。そこで、シート配置を見直すとともに、水平基調のベルトライン、それと並行するウインドー上端のラインで視界をすっきりとさせた。また、薄型ヘッドレストの採用やシートバックの形状を見直して、視界を広げる工夫も。さらにインパネやドア、シート背面、ピラーやルーフライニングも水平基準となるよう徹底的に作り込んで、視野を安定させる効果を狙った。関連技術は特許出願済みであるとのことである。



■インテリアデザイン

歴代ステップワゴンで築き上げてきた「家族のための大空間」を進化。インパネは水平基調とし、上面をスッキリとさせた。また、新型シビックで初採用したパンチングメタルのエアコンアウトレットを採用。上下に送風角度が大きく、大空間に適合した仕組みを導入した。

シートは1列目にフィットやヴェゼルでも採用しているボディスタビライジングシートを採用。長時間の運転でも疲れにくい構造のシートとなっている。エアーとスパーダでは形状が異なるこだわりようで、エアーは全面ファブリックでソファーのようにゆったりとして厚みのある形状を採用。スパーダはメイン材に緻密な織物を使い、サイドと背裏には合成皮革のプライムスムースを採用してスポーティな形状に仕立てている。

2列目シートは今回、新作したもので、超ロングスライド機構を採用。最大のポイントはワンタッチレバーで前後左右自由に動かせる点。レバーは真ん中まで引き上げると前後に、一番上まで引き上げると360度自由に動かすことができる。内側に寄せたまま一番後ろまで動かすとロングスライドモード(865㎜、外スライドは610㎜)となり、3列目の床下収納を利用して、広い空間を作ることができる。2列目にはオットマン機構も採用されるが、これはタイプ別の設定となる模様。

3列目シートは、ステップワゴンの美点である床下収納を継承。シートの厚みを20㎜アップさせて、「薄くて硬い」という不満点を解消(先代モデルはわくわくゲートの特徴でもあったバックドア側からの乗降を考慮し、シートを薄くして開口高を下げていたのだった)。また、サイドパネルにソフトパッドを配し、さらにカップホルダーやUSBポートも採用して居心地のいい空間とした点も特徴である。



■ボディカラー

●エアーは明るく豊かな暮らしを想起させる優しいソリッドライクな色調をコンセプトカラーとして設定。
・フィヨルドミストパール
・プラチナホワイトパール
・スーパープラチナグレーメタリック
・クリスタルブラックパール
・シーグラスブルーパール
(内装色)
グレー/ブラック

●スパーダは自信を表現できるような力強さや気持ちが高揚するようなスタイリッシュな印象を与えるダークトーンカラーをラインアップ。
・トワイライトミストブラックパール
・プラチナホワイトパール
・スーパープラチナグレーメタリック
・クリスタルブラックパール
・ミッドナイトブルービームメタリック
(内装色)
ブラック



■純正アクセサリー

●エアー向け
トレンドである“ギア感”をエクステリアデザインに表現したSPORTS MIXがキーワード。
・フォグライトガーニッシュ
・ボディサイドモール
・テールゲートスポイラー
・リヤコーナーガーニッシュ
・16インチアルミホイール(マルチカラー塗装)

●スパーダ向け
上質感を演出するメタリック基調のカスタマイズが楽しめるEmotional Solidがキーワード。
・フロントグリル
・フォグライトガーニッシュ LEDビームライト付き
・16インチアルミホイール(高輝度塗装)

そのほか、ホンダ純正ナビゲーションシステム「Gathers」として最大サイズとなる新型11.4インチ ホンダコネクトナビや、新型15.6インチ リヤ席モニターもラインアップする。

〈文=ドライバーWeb編集部 写真=岡 拓〉