ヴイエムウェアは2021年、1月に新社長に山中直氏が就任し、グローバルでは5月にラグー・ラグラム氏がCEOに就任し、大きな転機を迎えた。経営体制の刷新によって、同社の何が変わるのだろうか。今回、山中氏にヴイエムウェアの2021年のビジネスの総括と2022年の抱負を聞いた。



第1章、第2章から継承し、第3章は抽象化のレイヤーを上げる

山中氏は2007年にヴイエムウェアに入社、要職を歴任した後、今回、上級執行役員 副社長から代表取締役社長に就任した。同氏は社長という立場でどのようなことを成し遂げようとしているのだろうか。この問いに対し、同氏は次のように語った。

「ヴイエムウェアは今、第3章を迎えています。第1章では、サーバの仮想化を実現し、お客さまにサーバの選択を提供しました。第2章では、Software-Defined Data Center(SDDC)によってデータセンターのコンポーネントをすべて仮想化して、ハードウェアの選択の自由を提供しました。第3章を迎えた今、オンプレミス、パブリッククラウド、エッジから構成されるマルチクラウドの世界を抽象化して、クラウドの選択の自由を提供します。また、さらに抽象化のレイヤーを上げて、Kubernetesのレイヤー、コンテナを実行するためのプラットフォームの選択の自由を提供します。第3章は、マルチクラウドとアプリケーションのモダナイゼーションに取り組みます。第1章、第2章から引き継いできたことを、次の時代に持っていかないといけないと考えています」

山中氏は「われわれは一貫して抽象化のレイヤーを上げてきました。こうした環境の中、パートナーエコシステムの構築、お客さまの課題解決に取り組んでいきます」と語る。

「正直なところ、お客さまと話している時が一番落ち着きます」と話す山中氏。同氏はこれまで営業を統括してきたことから、誰よりも顧客に近い立場にいたと言えるが、その持ち味はどのような形で生かせるのだろうか。山中氏は自身の顧客とのコミュニケーションについて、次のように話す。

「前職から引き続き、お客さまの課題をつかむためにも会話を続けています。DX(デジタルトランスフォーメーション)を考えるとき、妄想して構想して計画して実行することが大事です。お客さまとDXについてディスカッションする際は、アーキテクチャをベースに、全体としてどのように構えていくかという議論から始めています」



攻めのDXと守りのDXから成る「二刀流DX」の実現を

「DX」という言葉が出てきたが、他のITベンダーと同様、ヴイエムウェアも顧客のDXの推進をサポートしている。ヴイエムウェアが考えるDXとは、どのようなものなのだろうか。

山中氏は「DXはいまだにバズワードの状態ですが、ヴイエムウェアとしては、攻めのDXと守りのDXから成る二刀流のDXを打ち出すことで、物事を整理したいと考えています」と語った。

DXというと、新しいことばかり追いかけがちだが、山中氏はいろいろなCEOと話す中で、「レガシーシステムを何とかしないといけない」ということを聞くようになってきたという。その背景について、山中氏は「これまでレガシーシステムのモダナイゼーションは見て見ぬふりをしてきた企業も多かった。しかし、デジタルチャネルから基幹システムに連携しなければならなくなって、限界が出てきたのです」とひも解く。

ただし、山中氏は「すべてモダナイゼーションすればいいというわけではありません」と述べた。メインフレームのモダナイゼーションの手段としては、「プライベートクラウドに進化させる」「リフトシフトしてネイティブなクラウドと連携する」「一部をモダナイゼーションする」と複数ある。「DXにおいては、ソフトウェアでつないでいくという新たなアイデアがあります。どこまでモダナイゼーションするか、バランスを整理することが大切です」と、山中氏は話す。

加えて、山中氏は企業がDXを進める上でのポイントとして、ITベンダーとの付き合い方を挙げた。日本では、7割のITプロフェッショナルがITベンダーにいるという背景があり、パートナーであるITベンダーと共に変革していくことも重要というわけだ。

「DXは全体として、スケールしていく必要があります。日本の企業にとって、スケールは課題です。日本企業がDXをスケールしていくとき、戦略的なパートナーの存在がカギとなります」(山中氏)

そして、DXを支援する立場としてのヴイエムウェアの強みは、企業のデジタルジャーニーを一気通貫でリードできる点にあるという。「サーバの抽象化に始まり、マルチクラウドの抽象化まで、テクノロジーのコントロールとフリーダムの両方を実現するのがわれわれのコアです。これは、2000年初旬から何も変わっていません。われわれのテクノロジーの進化の歴史とそれを前に進めていくポートフォリオは面白いものだと思っています」と山中氏。サーバの仮想化から始まったヴイエムウェアのビジネスだが、今ではエッジ、セキュリティ、アプリケーションにまで広がっている。

「仮想化によって“塩漬け”することが適したシステムもあるはずです。われわれは、企業システムのデジタル化のフェーズを分けて対応できます。一部は攻めのDX、一部は守りのDXということができるわけです。すべてのシステムをモダナイゼーションすべきとは考えていません」(山中氏)



ラグー氏のCEO就任で広がるマルチクラウドの世界

前述したように、2021年はグローバルのCEOが交代し、ヴイエムウェアにとって転機の年となった。経営トップが変わったことで、ヴイエムウェアにどのような変化がもたらされたのだろうか。

山中氏は、ラグー氏について、「ラグーは2003年に入社以来、当社のテクノロジー全般を見てきました。SDDCを世の中に発信した人間でもあります。だからこそ、マルチクラウドに向けてアグレッシブに舵を切ったのだと思います。われわれは、ラグーのことを『Our own Raghu』と呼んでいます。これから、ラグーの下で働くことを楽しみにしています」と語った。

山中氏は、「二刀流のDX」を「Power of And(ANDが求められる改革)」と定義している。これはITを活用する上で相反するものを両立させることを意味する。この「Power of And」という言葉は4年前にも使われたが、そこから「ベースのプラットフォームが変わってきているだけ」と山中氏は話す。「デジタルサイロを抽象化して、コントロールとフリーダムを提供しています。今は、アーキテクチャをどう構えるかというフェーズの議論になっています」(山中氏)



また、山中氏は「ITの世界の中立国になる」というラグー氏の言葉を引き合いに出し、「ラグーは、ヴイエムウェアが中立であるというメッセージを改めて出しました。ラグーの主張は一貫しています。日本のマーケットもマルチクラウドの世界がもっと進むでしょう」と語った。

現在、企業ではクラウド戦略の見直しが始まっている。IT部門はセキュリティを強化し、無駄をなくしたいと考えている。一方、LOBは新しいものに挑戦していかなければいけないと考えている。企業において、こうした動きが大きくなるほど、「われわれのやるべきことが増えてくる」と、山中氏は胸を張る。

2022年はアプリケーションのモダナイゼーションに挑戦

そして2022年、クラウドとアプリケーションの抽象化を掲げるヴイエムウェアはどのような戦略の下、ビジネスを進めていくのだろうか。

山中氏が真っ先に挙げたのが「アプリケーションの進化の支援」だ。「日本市場でも、アプリケーションを見直す動きが出てきています。そうした中、新たなアプリケーションプラットフォームをいかにしてリアルなものにしていくか。アプリケーションのレイヤーになると、パートナーの力も重要になってきます」と同氏。

アプリケーションの世界では、コンテナやマイクロサービスを活用して、アジャイルな開発をしようという機運が高まっており、DXを実現するために必要な要素として注目を集めている。ただし、米国に比べると、日本企業のアプリケーションのモダナイゼーションのスピードは遅いと言われている。

そうした状況について、山中氏は「アプリケーションも他のテクノロジーと同じと考えています。ストレージを仮想化するvSANも徐々に浸透してきました。今では、SDDCが標準になっており、物理ストレージが注目されることはありません。アプリケーションも同様だと思います」と分析している。



ちなみに、アプリケーションの進化は「モダンアプリケーション」と「アプリケーションのモダナイゼーション」に分けられる。山中氏は両者について次のように語った。

「モダンアプリケーションは、Amazon Web ServicesでもAzureでもオンプレでも、一貫性のあるプラットフォームで実装します。一方、アプリケーションのモダナイゼーションはチャレンジです。今年10月に、無料のKubernetes ディストリビューションとしてTanzu Community Editionをリリースしました。テクノロジーベンダーとして絶対にやるべきことは、テクノロジーを展開していくことです。これから、TanzuのコミュニティであるTUNA.jpも拡大していきます。加えて、パートナーのオファリングにわれわれのテクノロジーを組み込んでいくことも大切です」

最後に、山中氏は「テクノロジーを通じて日本の社会をどう変えていくかは重要なテーマ」と語った。ヴイエムウェアは古くから「Tech for Good」という精神を大事にしており、グローバルでさまざまな取り組みを行っている。

2021年、ヴイエムウェアはセキュリティ対策、デジタル化推進、デジタル人材育成の支援を強化するため、北海道庁と連携協定を締結した。北海道庁とは変革に向けて共同検証を行っており、こうした活動をもっと増やしていきたいという。

そして、山中氏は「お客さま、パートナー、社員含めて未来へつなぐ架け橋となっていきたいと考えています。日本の社会の架け橋となることは、ヴイエムウェアのアイデンティティとして重要です」と、ヴイエムウェアと日本社会に貢献する企業として発展させていくという意気込みを改めて語った。