沖縄県宮古島で撮影を行う総監督の奥山大史。
 - Photo:Masumi Ishida

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 俳優・池松壮亮、ミュージシャン・井口理(King Gnu)らクリエイター7人が職人に出会うショートムービー『HUMAN ODYSSEY − それは、創造を巡る旅。−』がフランスのファッションブランド「エルメス」の公式サイトで配信中だ。総監督は長編初監督作『僕はイエス様が嫌い』(2019)で第66回サンセバスチャン国際映画祭最優秀新人監督賞を受賞した奥山大史。12月10日には一日限定ながら全国31の映画館でも上映され、大きな反響を呼んでいる。

 本作はいわゆる“ブランデッドムービー”である。エルメスが大切にしている“手しごとの継承”と“伝統から生まれる現代性”を、ドキュメンタリーを通して伝えたいとする企画から生まれた。総監督を託されたのは25歳の奥山監督。現在は広告会社に勤務しており、乃木坂46「僕は僕を好きになる」のミュージックビデオの監督、星野源「創造」のミュージックビデオの撮影、さらに清野菜名・渡邊圭祐共演の資生堂のショートフィルム「Touching」の監督を手がけるなど多ジャンルで活躍している新鋭だ。

 当初は、若者がエルメスのアイテムにちなんだ日本の伝統文化に触れる旅をする内容だった。しかし奥山監督は「ドキュメンタリーなのにアイテムやメッセージが先に来ていいのか?」と疑問を抱いたという。議論を重ね、“旅人が本当に会いたい人の元へ行き、あらかじめ伝えたいメッセージを決めない”というルールに。さらに旅人は1点だけエルメスのアイテムを身に着けているものの、映像はもちろん広報資料にも商品説明ナシ。広告の常識とは一線を画する展開となった。

 ただし時はコロナ禍。本作の完成披露試写会に登壇したエルメスジャポンの有賀昌男社長によると、先の見えない今、未来の話ができないことが何より辛く、だからこそ希望を感じさせてくれる企画を立ち上げたという。問題はパリの本社から了承を得られるか。だが本社から返ってきたのは「わが社の180年の歴史において同様の事態は何回もあった。どんどん企画を進めてほしい」の言葉。奥山監督も「このご時世に旅をするなら、どんな向き合い方がいいのか」を熟考したという。

 旅人は、前述の2人のほか沖縄県宮古島出身の書道家・新城大地郎、帝国ホテル新本館の4代目建築家となる田根剛、「エボルタくん」で知られるロボットクリエイター・高橋智隆、映画『街の上で』などのスチールも手掛けている写真家・木村和平、ミシュラン一つ星レストラン「abysse」の料理人・目黒浩太郎の各界を代表する期待の星たち。真摯にモノづくりと向き合っている人たちを厳選したという。

 旅先は本人の希望先だが、一風変わった提案があったのが池松で「なるべく自分の仕事から遠い人に会いたい」。話し合いの結果、アートやクラフトを通して知的障がい者の支援活動を行っている鹿児島のしょうぶ学園へ。自由に創造の翼を広げながら活動している利用者を前に、われわれ視聴者も真のアートとは何か? を考えずにはいられない内容だ。

 一方、ミュージシャンの井口は「土地に根付いている音楽に触れたい」と北海道でアイヌ文化を継承している人たちと出会う。アイヌの口琴楽器ムックリ作りに挑んだり、ミュージシャンOKIとのコラボ演奏は、純粋に音楽を奏でる喜びにあふれている。何より7つのエピソードを通して各地で育まれた多様な文化へのリスペクトを抱かずにはいられないだろう。

 奥山監督は「企業から依頼された仕事に自分の価値基準を持ち込むのはどうだろう? と思いましたが、お願いされた以上、自分がちゃんと納得いくモノを作って、そこにストイックになることで、エルメスにとってもプラスになる映像をと考えました。自分が納得するためには、自分の好きな人に出てほしいし、その人は素晴らしいモノを作っているに違いない。その考えは間違っていなかったと思います」と確かな手応えを得たようだ。

 早速、本企画がきっかけで新たな創造が生まれている。書道家の新城はインド藍を用いた本藍染を行っている染織・織作家の砂川美恵子さんと出会い、「藍」を使った作品に挑んでいる。当初は思ったような色が出ず「旅は直線じゃない」と苦悩を漏らしていたが、ついに作品が完成し、12月から福岡で展示会「JINEN(ジネン)」を開催した。

 奥山監督自身もドキュメンタリーは初めてで「以前から興味があった。一歩を踏み出すきっかけをいただいた」という。「この旅で出会った皆さんと、一緒に映画が作れたらうれしいです」と語り、新たな旅への意欲を見せていた。(取材:文:中山治美)

『HUMAN ODYSSEY − それは、創造を巡る旅。−』は2022年1月末までエルメス公式サイトにて配信中