SKE48・荒井優希 撮影/松山勇樹

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東京女子プロレスに継続参戦しているSKE48の荒井優希がマット界で存在感を高めている。当初は「タレントの腰掛けでは?」と懐疑的な声もあったが、「プロレスの沼にハマった」と本人が語るように今や団体にとっても欠かせない存在に。その真摯な姿勢が評価され、プロレス大賞の新人賞にも選ばれた。12月18日の名古屋大会では師匠である山下実優とのシングルマッチを迎えるうえ、SKE48のメンバーとしてもライブパフォーマンスを予定。“リアル二刀流”の躍進劇から目が離せそうもない(前後編の前編)。

【写真】プロレス大賞新人賞受賞・SKE48荒井優希のコスチューム姿

──荒井さんは「豆腐プロレス」(※2017年のテレビ朝日系ドラマ。派生イベントとして実際のプロレス興行も行い、そこに荒井は出場した)きっかけでリングに上がることになりました。それまでプロレスに興味もなかったそうですが、ジャイアント馬場やアントニオ猪木くらいは知っていました?



荒井 猪木さんって赤いタオルのビンタする方ですよね? プロレスをやっていた人だと知ったのも最近です。それくらいプロレスには疎かったんです。そもそも豆腐プロレスをやること自体も「アイドルなのに殴る・蹴るって大丈夫なの?」と少し心配していたくらいですから。「アイドルは笑顔だけを見せるもの」という考えだったもので。

──でも、自分の意志で「やりたい」と立候補したわけですよね?



荒井 時間があったんです、単純に。当時は選抜とかにも入れていなかったですし、SKE48の中から何人か出てほしいという話になっていたので、私もとりあえず応募してみたんです。「これでひと花咲かせる」とか「アイドルとして個性を確立したい」みたいな野望は何ひとつなかったんですよね。

──やけにノリが軽いですね(笑)。



荒井 でも、本当に何も考えていなかったんです。それでオーディションに行ってみたら、めっちや運動神経がいいメンバーが20人くらい集まっていまして。私は倒立もできなかったしブリッジも全然できなくて、「あ〜あ、終わったな〜」みたいな感じ。ところがなぜか「受かりました」というメールが来て、やることになりまして。なんで受かったのかは、いまだに謎ですが。

──実際にプロレスの練習をやってみた感想は?



荒井 周りは「しんどい」と言っているメンバーが多かったです。だけど、私はそこまで苦しくもなくて。というのは時間があったから始めたプロレスではあったんですけど、そのあと急に忙しくなってきたんですよ。それで練習する時間が他のメンバーの3分の1くらいになっちゃったんですよね。

──急に売れっ子になった?



荒井 というほどでもないんですけど、その頃自動車学校にも通い始めたんです。そっちが意外と大変で(笑)。本業とプロレスと自動車学校、この3つを両立するのが難しくて、結局、自動車学校は再入校する羽目になりました。悔しいことに再入校は8万円もかかり……って、この話はどうでもいいですね(苦笑)。

──いや、最高です(笑)。荒井さんはバレエをやっていたから、身体能力には自信があったのでは?



荒井 とんでもない! 他の子に比べたら話にならないくらい動けなかったです。一番下手糞なくせに一番練習時間は短いから、すごく焦りがありましたね。ただ、コーチのミラノコレクションA.T.さんからは「躊躇しない攻撃がいいね」とは言われました。

──試合はどうでした?



荒井 最悪でした。私は他のメンバーに比べて何もできなかったけど、バックエルボーだけはめっちゃ練習したんですよ。ところが、これを肝心の試合で出し忘れまして(苦笑)。試合後、ミラノさんに「なんで一発も出さなかったの?」と聞かれたけど、何も答えられなかったです。せっかく一生懸命教えてくれたのに、申し訳なさすぎて……。

──実際、なぜ出さなかったんですか?



荒井 やっぱり練習と試合では全然雰囲気が違っていて、自分がどこに行けばいいのかもわからなかったんですよ。赤コーナーと青コーナーも知らなかったから、四角いリングの中で目印もなかったですし。あの試合は本当にへこみましたし、「技を出せなかったな」という心残りを抱えたまま、プロレスに別れを告げるはずだったんですけどね……。

──その後、DDTプロレスリングにゲスト参戦することもありましたが、東京女子プロレスに本格出場することになったのは2021年から。この参加もご自身の意思ですよね。



荒井 もちろんです。よく「やらされているんでしょ?」とか言われるけど、自分で決めてやり始めました。それから「生き残るために必死だね」とも言われるけど、全然そんなことはなくて。むしろ私、芸能界で生き残りたいという気持ちがあまりなくて。たぶんSKE48を辞めたら、速攻で芸能界を離れるんじゃないかと思います。じゃあなぜ私がプロレスをやることにしたかというと、コロナで時間があったから。

──またしても! 豆腐プロレスのときと同じパターンじゃないですか(笑)。



荒井 真面目な話をすると、「やりませんか?」って高木三四郎社長から声をかけていただいたんです。アイドルをやっていても新しい挑戦をさせてもらう機会ってなかなかないから、話をいただけたこと自体がうれしかったんです。

それに東京女子側としては私の他にも何人か候補がいたらしいんです。これはネットニュースで私も知ったことなんですけど、須田亜香里さんも声をかけていただいたそうですけど断ったらしいですし。「自分以外のアイドルが東京女子のリングで活躍している姿を見たら、きっと悔しく感じるはず。だったら後悔しないよう、全力で頑張ってみよう」と考えたんです。

──なるほど。それにしても、ここまで本格的に参戦するようになるとはファンも想像していなかったでしょう。「タレントの腰掛け」という見方も当初は多かったですし。



荒井 私としては最初から本気だったんです。プロレスを始めるきっかけこそすごく適当だったけど、やるからにはちゃんと真剣にやるって決めていましたから。勝手に世間の目が変わってきたんですよね。「あれ? こいつ本気なんじゃない?」って感じで。

──「プロレスをナメるな」という声は?



荒井 それがほとんどなかったんです。プロレスファンの方が温かく迎えてくれたことに私はすごくビックリしました。東京女子では大会終了後に物販をやっているんですけど、SKE48での私を知らないプロレスファンの方がわざわざポートレートを買って並んでくれて……その光景に感動しました。正直、最初はブーイングを飛ばされるような覚悟もしていましたから。

今までずっと練習してきた先輩レスラーの中に急にポツンと混ざったSKE48メンバー。そこに否定的な感情を持つ方もいるでしょうし。もし悪口を言われたとしても、私はむしろ燃えてくるタイプなんですけどね。

──おっ、そのへんは精神的にタフなんですね。



荒井 見返してやろうと思うし、そういう声があるから頑張れるところはありますね。アンチの人からすると、私って叩き甲斐がない人間だと思うんです。そういう人は何をしたいかというと、相手を傷つけてやりたいわけじゃないですか。だけど私は全然気にしないどころか、むしろそれで燃えてくるので。

【後編はこちら】プロレス大賞受賞・アイドルと“二刀流”のSKE48荒井優希が語る「プロレスの沼にハマっちゃった」