未熟児が生まれると医師は必要な処置を行うためにへその緒の切断を行うことが一般的です。しかし、新たな研究では、へその緒の切断を1分待つことで、生まれた子どもの2歳までの死亡リスクや障がいリスクが減少することが示されました。

Effects of delayed versus immediate umbilical cord clamping in reducing death or major disability at 2 years corrected age among very preterm infants (APTS): a multicentre, randomised clinical trial - The Lancet Child & Adolescent Health

https://www.thelancet.com/journals/lanchi/article/PIIS2352-4642(21)00373-4/fulltext

Waiting 60 Seconds Before Cutting The Umbilical Cord Can Save Lives, Study Finds

https://www.sciencealert.com/waiting-60-seconds-to-cut-umbilical-cords-is-a-life-saving-decision-for-premature-babies-study-finds

2017年に発表された調査結果で、「出産後すぐにへその緒を切るのではなく、60秒間待ってからへその緒を切ることは、生後1日目の乳幼児の生存率を上げ、病院で死亡する乳幼児を減らす」ことは示されており、新たな研究は2017年の研究をもとにさらにデータ分析を深めたもの。研究チームは予定日より10週間早く生まれた乳幼児1531人を、その後2年にわたり追跡調査し、別の研究結果から取得したデータもあわせて合計1637人の乳児について「へその緒を切るタイミングがその後の赤ちゃんの人生にどう影響するか」を調べました。なお、乳幼児の約4分の1は臨床上の懸念のため60秒以内にへその緒を切断されていたとのこと。

この結果、生まれてからへその緒を切るまでに30秒以上の時間があくと、2歳になるまでの死亡や障がいリスクが約20%減少することが示されました。中でもとりわけ減少率が高かったのは2歳までの死亡率で、その減少率は30%。脳性まひ・視力喪失・難聴・発話障がいなどの減少率はいずれも17%ほどだったとのこと。



未熟児は早急に医療措置を受けられるようにするため、出産後すぐにへその緒が切られるのが一般的です。しかし、乳幼児は胎盤からへその緒を通じて母親から血液を得ており、その血液に含まれる赤血球・免疫細胞・幹細胞などが病気への感染抑制や酸素レベルの上昇などに役立っていると考えられています。2017年の研究では、へその緒を切るタイミングを遅らせることで、出生後に輸血が必要な乳幼児が少なくなることも示されています。

今回の研究には関与していないバーネット研究所の助産専門家キャロライン・ホーム氏は、研究結果を受けて「へその緒を切るタイミングを遅らせることで、生理学的変化が確実に生じるようになり、特に未熟児の場合は非常に良い結果につながります」とコメント。一方で、臨床での介入が必要な現場にいる医師にとって「へその緒の切断を1分待つ」ということは、恐怖を伴うことだと医療統計学者のアナ・レネ・ザイドラー氏は述べています。



今回の研究を行ったシドニー大学の統計学者であるクリスティー・ロベルド氏は「緊急の蘇生を必要としない世界中の未熟児に『へその緒の切断を60秒待つ』という方法を適用させることで、その後10年にわたって5万人の子どもが死亡や障がいなく過ごせます」と述べました。また、同じくシドニー大学のジョナサン・モリス教授は「病気を抱える未熟児の治療を遅らせることは非常に難しいため、新しいプロトコルのためにスタッフをトレーニングすることは必須ですが、これが子どもたちにとって非常によい結果をもたらすとエビデンスは示しています」と述べています。