GRファクトリー(画像: トヨタ自動車の発表資料より)

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 クルマ産業は奥が深く、ジャーナリズムも幅広い。クルマを文化と捉えるカーグラフィックの世界では、ともかく世界のクルマを出来るだけ多く時代をさかのぼって経験することが必要だ。クルマの性能特性が中心のテストドライバーの世界では、メカニズムのもたらす特性をテストや試乗などを通じて会得すること。さらに、クルマ産業として経済的視野からの自動車ジャーナリストも存在する。しかし、クルマ産業の要である「造り方」に通じたジャーナリストを見かけない。

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 「造り方」に関しては、かなりの誤解がまかり通っているのが現状だ。その誤解の多くは、個別の車種の人気度を論ずるジャーナリズムにある。確かにクルマは工業製品であり、売上げが立たなければ産業そのものが成り立たない。だから、商品力の中心的話題は、デザインであり、装備品であり、色である。商品力を支える性能を決める技術力は話題にする程度で、後は文化論になっている。それでも良いのだが、これほど変化の激しい時代にクルマの本質を論じるには不十分であろう。

 現在、世界は新型コロナウイルスによるパンデミックで、「クルマメーカーが生き残れるのか?」を心配しなければならない。産業そのものの打撃は大きいだろう。その中では、「造り方」が運命を分けると言っても良い状況なのだ。トヨタが、2020年10月現在のところでは断トツの強みを見せている。それはなぜか?

 WEB CARTOPの『レーシングドライバーでも目隠しされたらわからない製品精度! GRヤリス「生産の秘密」とは』との記事で、【GRヤリス「生産の秘密」とは】と題して生産技術について解説しているのかと思えば、ほとんど記されていない。

【レーシングドライバーでも目隠しされたらわからない製品精度!】を言いたかったようだ。トヨタ・GRヤリスを生産する「GRファクトリー」は、セル生産方式を採っていると紹介されている。「セル生産方式の変形」であろうと思われる。いやそれ以外は現在の生産方式としてはありえないであろう。

 「セル生産方式」とは、通称「屋台」と言われている。つまり、1人で組み立て作業を初めから終わりまで行う方式だ。ソニーが始めて、キヤノンが完成させたとも言われている。

 しかし製造業において、工夫していれば誰でも同じような生産方式を考え付くものでもあり、誰の方式とは言えないが「多種少量・混流生産方式」の「トヨタかんばん方式」が先行していたことは確かだ。この方式の効果は、「資金効率」が大幅に向上することだ。

 ベルトコンベアーで細分化された工程を多数の組立工により順次組み立てる方式と比べると、1人で全工程を1台分の生産を終わらせるため、ベルトコンベアーが横に流れているとしたら、「屋台」は縦に何本もの組み立て場所を置いたようなものだ。