他人の不倫に大騒ぎする日本人への冷めた目線

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日本でまたもや芸能人の不倫問題が取り上げられている。ハリウッドでは過去、ブラッド・ピットも不倫で話題になったが……(写真:Gregg DeGuire/Getty Images Entertainment)

日本が、またもや芸能人の不倫で忙しいようだ。俳優の東出昌大と女優の唐田えりかの不倫騒動では、両方の事務所が謝罪コメントを発表。唐田は連続ドラマの出演を自粛し、撮影済みの回からも登場シーンがカットされるという。4年前にも、タレントのベッキーが不倫発覚の結果、芸能活動の休止をやむなくされたことがあった。

このような展開は、かなり日本独特だと思う。ハリウッドでは、差別発言をして降板させられることはあっても、不倫で仕事を失うことは、まずない。そのことについて本人や彼らを代表する人がコメントすることも基本的にはないし、ましてや謝罪会見をするなどありえない。ゴシップ紙が騒ぎ立てても、それはそれ。仕事に関しては通常営業だ。「プライベートなことは絶対に聞かないように」というお達しが強くなるくらいで、映画の宣伝活動も予定どおり決行されることが多い。

不倫がバレても干されないハリウッド

ベッキーや唐田に関しては「好感度が売りだったから批判されるのだ」、東出についても「よき夫、優しいパパというイメージが崩壊してしまった」という記事を見たが、ハリウッドではそれも関係ない。


メグ・ライアン(写真:Steve Granitz/WireImage/Getty Images)

例えば、アメリカのスイートハートと呼ばれたメグ・ライアンは、デニス・クエイドと結婚していた2000年、『プルーフ・オブ・ライフ』で共演したラッセル・クロウとの不倫が発覚し、結果的にクエイドと離婚している。

だが、映画の公開時には、ライアンもクロウも堂々と映画のプロモーションに出てきた。筆者もふたりを個別にインタビューしたが、相手についても、あくまで共演者としてだが、きちんと話してくれている。その1年後、ライアンは『ニューヨークの恋人』でまたもやラブコメ女王ぶりを発揮し、変わらぬ人気を見せつけた。

ジュリア・ロバーツも、現在の夫ダニー・モダーとは、彼が既婚者だった『ザ・メキシカン』(2001)の撮影中に恋愛関係になっている。この新たな恋についての報道では、モダーには結婚して4年になるヴェラという名の妻がいる事実も書かれたが、「ジュリア・ロバーツ、不倫!」などという形でそこが強調されることはなかったし、ロバーツも悪びれなかった。

それどころか、彼女は、モダーの妻がなかなか離婚に応じないことにしびれを切らし、「Low Vera」(下劣なヴェラ)と書いたTシャツを着て街を歩いたりもしているのだ。そんな経緯のせいで、モダーの家族とロバーツの関係はギクシャクしていると言われるが、彼女は相変わらず取材でも夫との仲良しぶりについて語っている。

不倫ぐらいでニュースにはならない

相手は事実婚だったので正確には不倫の定義から外れるのかもしれないが、やはりアメリカのスイートハートであるジェニファー・アニストンも、2番目の夫ジャスティン・セローをほかの女性から略奪している。


ジェニファー・アニストン(写真:Axelle/Bauer-Griffin/FilmMagic/Getty Images)

このときもやはり、メディアは彼に長年同棲してきた女性がいることは報道したものの、あくまでさらりという感じで、そこがニュースのポイントになることはなかった。

そもそも、交通事故が発端で不倫が露呈していったタイガー・ウッズや、オスカー受賞直後に女性側の策略で夫の不倫が暴露されたサンドラ・ブロックのような特別な例を除けば、基本的に、一方が既婚者だったというだけでは、メジャーなニュースにはならないのである。

2年ほど前に、ユアン・マグレガーがテレビドラマ『ファーゴ』で共演したメアリー・エリザベス・ウィンステッドと不倫した末に離婚したことだって、知らない人のほうが多いだろう。

アンジェリーナ・ジョリーとブラッド・ピットの件についてはさすがに知らない人はいないが、そのときにだって、既婚者だったピットを「ひどい男だ」と責めるような風潮はなかった。彼らの出会いのきっかけとなった『Mr. & Mrs. スミス』が大ヒットしたところを見ると、ボイコットしてやろうという一般人が多かったとも思えない。

アメリカにおけるアニストンの人気は絶大なため、ジョリーを悪者として見た人も少なくなかったが、彼女はその後もどんどんキャリアを伸ばし、慈善活動も手伝って、むしろ女性として尊敬される存在になっていっている。

ピットも、嫌われることにはなっていない。それどころか、彼がジョリーと離婚した今、アメリカ人の多くは、アニストンが、一度は彼女を大きく傷つけたピットと復縁するよう願っているほどである。

そんなふうに、仕事に直接影響をもたらさないとわかっていても、彼らも人間である以上、書かれたくないことを書かれるのは、つらいものだ。その状況を乗り切るための1番の方法は、そういった記事を見ない、聞かないこと。それらについてのコメントもしない。

彼らが雇うパブリシストにも、不倫問題などが浮上したときにマスコミから問い合わせがあっても「プライベートはいっさい語りません」で通すか、あるいは完全に無視してもらう。しかし、本人が胸の内を明かしたい、傷つけた配偶者に対して公に謝罪したいというのならば、別だ。

2017年に奥さん以外の女性と関係をもったことが発覚したケビン・ハートは、まさにそうだった。報道が出た当初こそ認めなかったものの、それからまもなく彼は妻と息子に向けての謝罪文をインスタグラムに投稿。その後のラジオ出演でも「あれは本当に無責任で、自分は最高に愚かだった。それがどんな状況であったにしろ、悪いのは自分だ」と語っている(関係をもった女性はその様子を動画で撮影しており、ゆするつもりだったと言われている)。先月、Netflixで配信がスタートしたドキュメンタリーでも、彼はその出来事に触れた。

不倫は社会に影響与える問題ではない

アーノルド・シュワルツェネッガーやデミ・ムーアは、自伝本で過去の不倫を告白し、ざんげしている。人生を振り返る機会を得た彼らは、暗い部分についても向き合い、すっきりしようと思ったのかもしれない。それはあくまで彼らが自分で決めたこと。やらないならやらないでよかったことだ。聞く側にしても、本人が言いたいなら耳を傾けるし、言いたくないなら聞かないでいい。そもそも、社会的に影響を与える問題ではないのだ。

もちろん、視聴者には、不倫はけしからん、あいつの番組は見ないという権利がある。だが、そう言われるからと、本当はやりたい仕事をわざわざ「自粛」する必要はないのではないか。実際、不倫はけしからんことだ。しかし、謝るべき相手は視聴者ではない。プライベートで間違いを犯した当事者には、あくまでプライベートな形で反省してもらえばいいのではないかと、この手の報道を見るたびに、ふと考えてしまう。