「“剛腕”ぶりは否定しない。しかし、小沢というのはうまくいっているときはいいが、一つ躓くとすぐ手法に対する陰口が出るし、人が離れていく。惻隠の情が足りないからだ。“情の人”でもあった角さん(田中角栄)とは、似て非なる人物像を見ざるを得ない」

 最後に、田中への内在的否定論者でもあった小沢の「角栄観」を記しておこう。
「田中という政治家は、他の実力者と比べて、一番、権力の何たるかを知らなかったのではなかったのかと思う。意外に思えるが権力には非常に淡泊であったし、物凄くうぶでまじめでもあった。権力を用いようとすれば、どんな内閣もつくれるし、たいがいのことはできた。それをなかなか使おうとせず、民主主義は数だなどと言う。数が多いということが、自分は正義なのだと立証されると、こだわっていた人だったと見ている」(『あの人 ひとつの小沢一郎論』渡辺乾介著)

 一大権力者であった田中をして、「権力の何たるかを知らなかったのでは」と指摘した「秘蔵っ子」小沢に、泉下の角さんは「一郎のヤロー」とニガ笑いをしているのかもしれない。
(文中敬称略/次号からは竹下登元首相)

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小林吉弥(こばやしきちや)
早大卒。永田町取材49年のベテラン政治評論家。抜群の政局・選挙分析で定評がある。著書に『愛蔵版 角栄一代』(セブン&アイ出版)、『高度経済成長に挑んだ男たち』(ビジネス社)、『21世紀リーダー候補の真贋』(読売新聞社)など多数。