実験店として東京・日本橋小舟町に設けられたシェアデリ直営1号店(記者撮影)

ネットを通じた出前サービス「出前館」を運営している、夢の街創造委員会(ジャスダック上場)。同社がこの半年ほど、株式市場で熱い注目を集めている。

きっかけとなったのは2018年10月中旬に公表した今2019年8月期の業績見通しと、向こう3カ年の中期経営計画。2018年9月期の実績である売上高54億円、営業利益8.3億円を、2021年8月期に売上高188億円、営業利益50億円へ引き上げると公表したのだ。

ここ数年の利益は右肩上がり

夢の街創造委員会は、配達機能を持った飲食店と加盟店契約をし、Webサイトの出前館を通じて、出前を頼みたいユーザーとの橋渡しをしてきた。収益的にはユーザーが出前を頼んだ際に、飲食店から徴収するオーダー手数料が売上高の約半分を占めている。

近年の業績は好調だ。8.3億円という営業利益は過去最高の水準。会社側は出前館に加盟する飲食店数、ユーザーの年間のオーダー数、1年間に1度でも注文をしたアクティブユーザー数、そしてユーザーのリピート率といった指標を重視している。

これまでに、ユーザーのリピート率を向上させるため、ポイント付与などの特典、ネット決済の導入などを進めてきた。さらに注力するのが、宅配サービスの品質向上だ。ユーザーが注文をしてから配達されるまでの時間が短いこと、事前告知時間内に届ける配達時間の正確さ、料理をこぼさず運ぶこと、スタッフの受け答えが良いといったことが、リピート率向上につながる。

これまでも加盟時に飲食店に対して実施する研修で、宅配サービスの品質向上を図ってきた。配達機能を持たない飲食店を取り込むため、朝日新聞社と提携し、2017年3月からは新聞販売店のバイクを使って、配達機能を持たない飲食店の料理を配達するシェアリングデリバリーサービス(以下、シェアデリ)を始めた。

配達機能を持たない飲食店への加盟店拡大と、ユーザーのリピート率向上という2つの要素を組み合わせることが夢の街創造委員会の成長シナリオであり、2018年8月期はシナリオ通りの結果を出せた。

だが、会社側が公表している今2019年8月の業績見通しは売上高76億円(前期比41%増)ながら、営業利益は1億円(88%減)と大幅な減益になる見通しだ。


売上高については、出前館でのオーダー数を3382万件(前期比45%増)と見込む。シェアデリについては、拠点をフランチャイズで展開する方針を打ち出し、朝日新聞の販売店以外にも拡大している。

2018年8月末に60カ所まで増えた拠点を、今期は自社直営で50拠点、フランチャイズで100拠点を増やし、210拠点まで拡大することを見込んでいる。

利益50億円計画の現実味

出前館のオーダー数は2017年8月期は前期比27.8%増、シェアデリ拠点は同10カ所増だった。2018年8月期のオーダー数は前期比35%増、シェアデリ拠点は60か所まで増えた。

2018年8月期の加盟店舗数は前年並みの12%増、前期に22%伸びたアクティブユーザー数は14%増に留まった。それでもオーダー数が35%も伸びたのは、年間注文回数の多いユーザーが増えたためだ。

今期は計画通り150カ所のシェアデリ拠点が開設できれば、オーダー数前期比45%増はさほど高いハードルではないだろう。

会社側はシェアデリ拠点を今後3年間で500〜600カ所に増やす計画を打ち出している。今期の新規出店が150、次年度以降の計画数値は公表していないが、年間180〜200カ所ペースで出店すれば600カ所近い拠点数になる。

この出店計画を前提に、2020年8月期は129億円(前期比67.9%増)、2021年8月期は188億円(前期比45%増)の売上高計画をブチ上げた。一見、荒唐無稽に見える計画だが、2020年8月期については射程圏内と言っていい。

まず、売上高達成の可能性だが、目標のオーダー数については過去の実績からすれば、毎期4割増という計画はさほど過大な目標とはいえない。今下期からはHPでの広告販売を開始するなど、シェアデリ直営店が稼ぐ配達手数料と広告収入でそれぞれ13〜15億円ずつ稼げれば達成は可能だ。

市場環境という点では、消費増税が追い風になる可能性もある。テイクアウトや宅配には軽減税率が適用されるのに、店内飲食やケータリングには適用されないため、飲食店がテイクアウトや宅配を始めるインセンティブになりうるからだ。

営業利益はどうか。2019年8月期がわずか1億円に減ってしまうのは、シェアデリの新規出店コストを折り込み、販売管理費が倍増するためだ。2020年8月期は一気に17億円への回復を見込んでいる。この期も大量出店が続くが、売上高が伸びるため、2019年8月期並みの粗利率が確保できれば、販管費が倍増しても達成できる。


問題は2021年8月期だ。2020年8月期よりもさらに高い、営業利益50億円という見通しを掲げている。営業利益率でみれば前年度の13.2%から一気に26.6%に引き上げる計画だ。拠点開設ペースは前の期とさほど変わらないとすれば、既存拠点の収益力をどれだけ引き上げられるかが鍵になるが、具体的な施策は公表されていない。

とすれば、計画達成の可否を握るのは、結局のところシェアデリ拠点を計画通り開設できるかどうかという点に絞られる。

PERは700倍超

拠点新設に係る最大の課題は“人”だろう。社会全体で人手不足が深刻化する中、配達要員として出前館が積極的に採用しているのが拠点周辺在住のシニア層だ。

出前館はヤマハの電動アシスト付き自転車を導入しており、バイクの免許は不要。なおかつ人手不足が深刻化しているとは言っても、シニア層に限って言えば未だ買い手市場だ。地元の地理にも明るく、多少の個人差はあるにしても基本的に真面目で辞めないという。

こうして夢の街創造委員会は着々と施策を進めるが、株価は1500円を割り込んだ。昨年10月に付けた上場来最高値の3725円から半分以下に落ち込んでいる。

最大の理由は進捗が遅れ気味だからだろう。毎月上旬に公表している月次によれば、2018年9月〜12月までの累計実績オーダー数は、前年同期比25.7%増と、通期計画の45%増を大きく下回っている。

シェアデリ拠点も前期末から23しか増えておらず、通期目標の150からすると遅れぎみに見える。

シェアデリ拠点数については年度末の駆け込みで達成も可能だろうが、オーダー数は1月からの8カ月間で、前年比で53%伸ばさなければならない。

早くも期初計画達成に黄色信号が灯った感はあるが、予想PERは約700倍と、上場企業の上位10位前後に位置する高水準で、市場からの期待値は高い。その期待に同社は応えることができるのか。