栗山英樹監督インタビュー(後編)

インタビュー前編はこちら>>

インタビュー中編はこちら>>

 このオフ、北海道日本ハムファイターズは次々と選手を獲得した。まずドラフトで金足農の吉田輝星をはじめ、高校生を中心に8人の選手が入団(育成ドラフトも含む)。さらにオリックスを自由契約になった金子弌大(ちひろ)や、台湾の王柏融(ワン・ボーロン)も獲得。また、ヤクルトとのトレードで秋吉亮、谷内亮太も入団した。これまで以上に激しいポジション争いが予想されるなか、指揮官である栗山英樹監督は2019年シーズンをどう挑もうとしているのだろうか。


ドラフト1位で日本ハムに入団した吉田輝星

―― 今シーズン(2019年)のファイターズは、バファローズを自由契約になった金子弌大投手を獲得、台湾の”大王”こと、三冠王の王柏融選手の入団も決めました。さらにはスワローズとのトレードで右の中継ぎの秋吉亮投手に加え、内野のユーティリティプレーヤーとして谷内亮太選手を補強。大金を注ぎ込むというわけではない、ファイターズならではのチームづくりが着々と進んでいる感じがします。

「とにかくヨシ(吉村浩GM)が、いつ休んでいるんだろうと思うくらい、動いてくれているからね。(金子)弌大のときもヨシの動きは早かったし、王柏融にしても独占交渉権は入札で決まったんだけど、決め手は金額じゃなかったんじゃないかと思ってる。ウチのチームの誠意を受けて、彼が北海道でやりたいと言ってくれた。物事が動くときというのは、人のパワー、人の熱さでしかないと思うんだ」

―― 今年の開幕戦は札幌でのバファローズ戦、金子投手の古巣です。つい、劇的なドラマを期待してしまいますが……。

「そういう流れというものは大事にしたいと思っているし、開幕の相手がたまたまバファローズというのは、何かがあるのかもしれないとは思う。でも開幕投手に関しては去年(2018年)、潰しちゃったということがあったからね。去年は有原(航平)と決めていたのに、キャンプ中、右肩痛で開幕絶望となったでしょ。有原がダメだから、じゃあ、他の人に、というのがオレはイヤだった。だから外国人(ブライアン・ロドリゲス)に託したんだ。誰かの代わりの開幕投手なんてダメ。それくらい、開幕投手というのは大事なものだと思ってるから……」

―― ということは、今年の開幕投手は?

「普通に考えたら、直(上沢直之)に開幕を託すのが、成長を促す意味では一番いいのかもしれないね」

―― ドラフトでは金足農の吉田輝星投手を1位指名して、獲得しました。

「いやぁ、来たね。最高だよ。彼、明らかにウチっぽい選手でしょ」

―― でも、1位入札は根尾昂選手でした。

「投打の両方を高いレベルでこなせる選手がいかにプロ野球に、そしてチームに大きなものをもたらすかということは我々が一番、知ってるからね。そこを考えると、根尾くんに行きたくなる。でもオレは、吉田君がウチのカラーかなと思っていたら、ドラフトの前日、山田(正雄、スカウト顧問)さんが珍しく『吉田輝星が気になる』って言い出して……最後はどちらに行くか、大激論になったんだ。根尾くんか、吉田くんか……ウチは吉田くんを1位で入札する可能性も十分、あったんだよ。実際、オレ、ドラフトの当日、出掛けてから一回、戻ってネクタイ、(金足農のチームカラーである紫に)変えたしね」

―― 吉田投手に期待するところというのはどのあたりですか。

「とにかく夏の甲子園で出していたあの感じを、そのまま活かしたい。だから時間をかけちゃいけないなと思ってるんだ。早めに早めにと言っているのは、時間を置くことによって、彼のよさが消えてしまうリスクがあるからなのね。あの年齢は身体が変化していくでしょ。投げられるなら1イニングでも2イニングでもいいから早めに使ったほうがいいんじゃないかと……あの甲子園での躍動感を忘れないようにね」

―― それは吉田投手には伝えたんですか。

「そこまではハッキリとは話していないけど、ドラフトの次の日に秋田へ行って、本人に手紙を書いて渡したよ。まだ入団も決まっていない段階だったのに、もう秋のキャンプは始まってるから、緊張感を持ってやってほしいって」

―― ドラフトでは吉田選手のほかに、花咲徳栄の内野手、野村佑希選手、横浜の外野手、万波中正選手、大阪桐蔭の右ピッチャー、柿木蓮選手を指名して、入団と相成りました。これだけ甲子園で活躍した選手が並ぶと、チームとしてそこに何かしらのプラスアルファを期待しているのかなとも思うのですが……。

「そこは偶然だよ。全然、狙ってない。我々からすれば、『ウソっ、柿木がここまでなぜ残っているの?』って話だし、柿木くんに関しては2位の可能性もあるという評価をウチはしていたからね。その時点で残っている選手を評価順に指名したら、ああいう顔ぶれになったということ。

 甲子園に出る、出ないというのは、その選手によって意味があると思ってるんだ。なぜ彼はここでプレーをしなきゃいけないのかってことを野球の神様が判断している、その意味を考えなければならないんだよね。甲子園で活躍するということは、いい面もあるし、悪い面もある。野球の神様から『甲子園で活躍したこの選手、見た目、カッコよく見えるでしょ? さて、あなた方はどう評価しますか』って問われている感じさえするんだ。

 甲子園でプレーしなかった選手は、冬の時代を我慢する時間が長くないと伸びないということなのかもしれない。そのためにあえて、そういう時間を与えられていたとしたら、甲子園に出るばっかりがいいわけじゃないんだよね」

―― ただ、甲子園のスターの先輩として、清宮幸太郎選手にはいい刺激になるような気がします。

「幸太郎にとってはやりやすい環境になるだろうね。今年、幸太郎が爆発するためには、あの後輩たちが『よし、オレたち、先輩を超えて、いっちょ、やったろうぜ』ぐらいの意気込みを見せてくれた方がいい。そういう意味では、やっぱり幸太郎って何かを持っているんだなとあらためて感じたし、オレは勝手に、あの甲子園組は幸太郎が呼んだのかなって思ってるよ」

―― 清宮選手の1年目はどんなふうに評価していますか。

「まあまあ、思ったとおりかな。ただ、(右手親指のケガによる)キャンプの出遅れはともかく、3月に(限局性腹膜炎で)入院したのは想定外だったね。あれがなければもっと違う形の経験(開幕スタメン)をさせることができたかもしれないと思うし、入院してあれだけ長い間、野球ができないとなると開幕へ向けて作ってきた身体がゼロにリセットされちゃうからね。そこはもったいなかったなというのはあるかな」

―― あのときは手術という選択肢もあったと聞きました。

「それを思えば、去年、野球をやれてよかったなというふうにも考えられるんだよ。だから、CS(クライマックス・シリーズ)の最後も代打で使う手もあったんだけど(一発出たら同点という場面になるまで温存された結果、ネクストバッターズサークルで試合終了を見届けることになった)、でも悔しい思いをしながら自分自身で”取りにいく”というプロっぽいところも伝えたかったしね。ひとシーズンを通して、与える時期は過ぎたなと……だから、思ったよりは前へ進んだと思う。2年目は、さあ、行きますよ、という準備はできているよね」

―― 技術的な課題はどう考えていますか。

「そこは、ボール球を振らない形をつくるということに尽きる。今の構えは高めの、ホームランバッターが好きそうなところに手が出る形になっている。意識のなかから高めを消しちゃえば、低めもついていけるのに……だからオレのなかで答えはある。高めを振れない形にしなくちゃいけない。

 だって、そこを振る必要はないんだから。高めを打ったらホームランになりやすいと思ってるのかもしれないけど、ベルト付近の球でも十分、ホームランになるでしょ。だったら高めを意識することの方がマイナス面が大きくなる。ボール球を振ってしまうし、高めのボール球から低めのボール球まで振っていたら、プロのピッチャーを打ち崩すのはムリだよね」

―― 清宮選手のポジションについては、DHもあり得るんですか。

「幸太郎をDHの選手にはしたくない。レギュラーポジションを勝ち取らなきゃダメだよ。オレは稲葉(篤紀)監督に、幸太郎を東京オリンピックに送り出すと約束している以上、来年は結果を残してもらわないといけない。王柏融も入ってきて、(中田)翔もいて、そういうプレッシャーをこっちが与えているなかで、さあ、どうしますかって話。単純にホームランを40本打てば、全部を越えられるんだし、そういう勝負ができる準備は終わってるよ」

―― もうひとりの甲子園のヒーロー、斎藤佑樹投手についてはどう考えていますか。

「そこも何とかしないとね。どこが佑樹にとって一番の居場所なのかなということはずっと考えてるんだけど……佑樹のトレーニングを見ていても、ようやく方向性が一定してきたかなとは思ってる。これをやろう、これもやってみようと新しいものを採り入れるのはいいんだけど、地道に続けてみないと変わらないこともあるし、年齢的に我慢して地道に続けることが難しくなってることもわかる。

 でも何かを信じて、とことんまでひとつのことをやり切ってみることが今の佑樹には必要だと思うんだ。彼の持っている勝負強さ、バッターを打ち取る感覚は今も変わらないと思うし、それを安心して発揮させられるところが先発なのか、リリーフなのか。その答えはもう一回、探してみるよ」

―― 甲子園のストーリーが持つ力と、プロ野球選手としての結果というものを、監督はどんなふうに両立させようと考えているんですか。

「甲子園のストーリーが、その選手の成長の妨げになっちゃいけないということ。プロ野球って、見たいと思ってもらえる選手がいないと成り立たないわけで、そのドラマも見たいと思わせる力のひとつだよね。佑樹の場合は甲子園のストーリーが成長の妨げになっているわけじゃない。だから、こっちも何とかしなきゃ、と必死になるんだよ」

―― 50歳のときに監督に就任して、今年で8年目になります。20代は選手として、30代は取材者として、40代は教育者としても生きてきた監督にとって、この50代の過ごし方、どんなふうに感じていますか。

「こんなに時の流れを早く感じたことはないし、こんなに必死になってる自分がいたこともない。こんなに充実していて、50代のこの10年が一番、幸せなのかもしれないなと思ってるよ」

―― 監督業というものの欠片、何か見えましたか。

「長くやらせてもらえばもらうほど、監督という仕事の難しさがわかってしまう。その難しさに打ち勝つということではなく、いつも原点に立ち返ることを忘れちゃいけないと思っているんだ。それこそ、佑樹のためにオレがしてあげられることは何なのか、としか思ってない。矛盾しているけど、それをすべての選手に対して思っているわけ。その選手にとって何が一番いいことなのかということを今の時点で、全力で考える。それが監督という仕事の根っこだとオレは思っているし、選手のためになると思えば、冷たいと思われようが、厳しいと思われようが、容赦なく行くからね。

 去年の反省はもう終わっているし、頭のなかは今年のことしか考えてない。生きものとして、戦いの場に放り込まれたとき、生き抜くための直感が浮かぶように蓄えるべきものを蓄えておく。そういう準備をしておかないと、試合中、野球の神様の声が聞こえないんだ。その準備をするには、この雪のなかに閉じ込められた環境は最高なんだよね。ウサギとフクロウが一緒にいてくれるから、ちっとも寂しくないしね(笑)」