相手がどのように情報をとらえるのかを知ることで、それに応じたコミュニケーションを取ることが可能になる(写真:KEN226/iStock)

「職場で求められるのはコミュニケーションスキル」「コミュニケーションでチームを活性化」。もう耳にタコができるほど聞かされ続けたフレーズにもかかわらず、コミュニケーションにまつわる悩みは尽きることがありません。私たちは原因を「言葉づかい」や「論理性」などに求めがちですが、実は解決策は「視線」にあるかもしれません──。
米国NLP協会認定トレーナー&認定コーチであり、『マンガでわかる! すぐに使えるNLP』の著書もある藤川とも子氏に、コミュニケーションに役立つNLPのスキルの一部を解説していただきました。

「わかる」は視線に表れる

私たちは視覚・聴覚・身体感覚・嗅覚・味覚という五感を通して情報をキャッチします。いつもとは違う声のトーンやほんの少しの表情の変化から、相手のうそに気づく経験をしたことがある人もいるでしょう。

といっても、人によって優位な感覚は異なります。視覚優位の人もいれば、聴覚、あるいは嗅覚と味覚を含む身体感覚が優位な人もいます。

たとえば海辺にいることを想像するとしたとき、視覚優位の人は、青い空や白いさざ波をイメージします。聴覚優位の人は、波の音やカモメの鳴き声を、身体感覚優位の人は、吹き付ける潮風や砂浜の感触を思い浮かべます。

こうしてみると、同じ場面を設定したはずなのに、それぞれの感じ方がまったく違うことがわかります。相手がどのように情報をとらえるのかを知ることで、それに応じたコミュニケーションを取ることが可能になります。

では、どのようにしてこのタイプの違いを見分ければいいのでしょうか? 実は、「視線」から、相手の優位感覚を推測することができます。

たとえば、職場の会議で、リーダーが「このプロジェクトがうまくいったときのことを考えてみましょう」と言ったとします。「うまくいったとき」というのは漠然とした表現です。だからこそ、メンバーはそれぞれの優位感覚に沿ってイメージします。

視覚優位の人であれば、具体的にうまくいっている映像を思い起こそうとして、視線が「上に向き」ます。賞賛の声をイメージする聴覚優位者であれば、視線が左右に「水平」に動きます。視線が「下向きに動く」人は、ワクワクした感情や身体感覚を追体験していると考えられます。視線が定まらない人は、上の空で会議に参加していないのかもしれません。

一般的に、視線が上に行く視覚優位の人は、思い浮かんだ映像をそのまま伝えようとするので、早いテンポで話す人が多いです。これとは逆に、視線が下に行く身体感覚優位の人は、口が重く、じっくり考えてから結論を出す傾向があります。

会議で、一部の人に発言が集中するときは、視覚優位の人が議論をリードしている場合が多いといえます。身体感覚優位の人は「何を考えているのかわからない」「意見がない」とみなされがちですが、けっして考えていないわけではありません。

もしリーダーが、メンバーの優位感覚に気づいていれば、間合いを見て聴覚優位の人や身体感覚優位の人にも発言を促すことができます。結果として、いろんな視点から意見を吸収できますし、スムーズな合意形成にもつながるのです。

相手の感覚に合わせた言葉を使う

このように相手の「視線」から優位感覚を知ることで、プレゼンや商談、接客時のコミュニケーションも円滑化できます。

視覚優位の人は、色や形など写真や動画のイメージで情報をとらえます。「木々の緑が太陽に照らされてキラキラ光っている」などと、目に浮かんだ情景を描写するのが得意です。こういった視覚優位の人には、視覚的にイメージしやすい次のような言葉が有効です。

「明るくてきれいな色ですよね」

「ご覧いただければ違いがわかると思います」

「パッと見の印象がすてきですよ」

また、プレゼンするなら、イラストや図解を多用した資料を提示すると効果的です。

これに対して、聴覚優位の人は音や言葉のリズムに強く反応します。電車内でずっとヘッドホンで音楽を聴いている人、語学が得意な人は聴覚優位な人かもしれません。

こうした人たちは、ブランド名や数値に敏感という特徴もあり、次のような言葉が響きます。

「2017年度、経済産業大臣賞を獲得した商品です」

「ここの露天風呂に入っていると、サーッという波の音とか鳥の鳴き声が聞こえてきて、なんとも言えない最高の気分になるんですよ」

また、相手の会話のリズムや声のトーンをよく観察して、それに合わせていくのも効果的です。

そして、身体感覚優位の人は、ゆったりしたペースで呼吸したり言葉を口にしたりする傾向があります。お店で洋服を選ぶようなときも、真っ先に生地を触って肌触りなどを確認します。身体感覚優位の人と会話するときには、

「実際に触ってみませんか?」

「熱い感情がわいてきますよね」

「お互いに温度差を埋めていきましょう」

というように、感触や感情を伝えていくとよいでしょう。

なお、不特定多数の人を相手に話をするときには、特定の感覚に頼らないというのも大切なポイントです。

私はセミナーをするときに、「おはようございます。(ひと呼吸)今日はよくいらっしゃいました。(ひと呼吸)皆さんとご一緒できるのが……」という具合に、ゆったりしたペースで話し始めます。冒頭から早口で飛ばすと、身体感覚優位の人はついていけないという壁を作ってしまうことになります。

最初はゆったり話し始め、徐々にペースを上げていけば、身体感覚優位の人も無理なくついていくことができます。視覚的情報と聴覚的情報の両方を意識しながら伝えていけば、どの聞き手にもマッチした話ができます。

視線の動きを観察しよう

さらに、視線の動きは、もっと細かく見分けることができます。

視線が「左上に動く」ときは、視覚的な記憶を思い出しているとき。「楽しかった旅行先を思い浮かべてください」と質問すると、多くの人は左上を見ながら記憶をたどります。

視線が「右上に動く」ときは、視覚的に創造しているときです。「象とトラとライオンが一緒になった動物をイメージしてください」と質問されると、視線は一瞬左上を向いて、その後、右上に向くことが多くあります。今までに見たことが動物を映像化しようとするとき、この視線の動きが見られるのです。

たとえば、子どもに「どうして宿題をしなかったの?」と問いただすとき、視線の動きに注目してみましょう。「お腹が痛かったんだよ」などと答えるときに、視線が一瞬左下に来て、その後、右上に行くのは、話を創造しているからと考えられます。

視線が「左横に動く」ときは、すでに知っている音を思い出しているときです。「初めて買ったCDはどんな音楽でしたか?」と質問された人の多くは、視線を左横に動かします。

視線が「右横に動く」ときは、聞いたことのない音を創造しています。「10人の人の声を同時に聞いたとしたら、どんなふうに聞こえると思いますか?」と聞かれたら、視線は右横に動くと思います。


自分自身と内的対話をしている人は、視線が「左下に動く」ことが多いとされます。「あなたが好きな3人の映画監督の特徴を教えてください」と聞かれて考えているとき、視線は左下に動きます。

そして、身体感覚にアクセスしているときには視線が「右下に動き」ます。「砂浜を裸足で歩くとどんな感触ですか?」と聞かれたときや「無重力で食事をするとき、どんな感じ?」など未体験の感覚をイメージするときも同様です。

必ずこの視線の動きが見られるというわけではなく、視線の左右が反転する人もいます。一般的に視覚優位の人は、まず視覚でイメージして(視線は上)、それから音をイメージ(視線は横)したり、身体感覚にアクセス(視線は下)したりします。

実は、このように視線の動きを観察することを、NLPという心理学・言語学の手法で「視線解析」「アイアクセシング・キュー」といいます。相手の視線を見るのは、相手が考えていることを知るという以上に、自分の伝え方を工夫するのに役立つのです。

同じ情報に触れても、受け取り方は人それぞれです。自分が話した内容が100%伝わるわけではありません。だからこそ、相手に合わせて、相手が受け取りやすい情報を伝えていくことが大切なのです。