男の医学を考える時、最も重要な役割を持つのが男性ホルモンと言われる。男性ホルモンにはいくつかの種類に分けられるが、その中で代表的なのものが「テストステロン」だ。
 そもそも、テストステロンとはどういうものか。都内クリニック専門医がこう説明する。
 「男の睾丸(精巣)で作られる男性のホルモンの95%を占めるテストステロンは、役割としては生殖機能の向上、性欲の増進、ヒゲ、体毛の成長、筋肉や骨格の形成などがあり、男性の成長には不可欠かつ、人生そのものにおいても大きな働きをします。他にも造血作用を持ち、血管やコレステロールにも関係し、内臓脂肪を減らす作用をする。テストステロンの血中濃度が低い男性は、メタボリックシンドローム症侯群(内臓脂肪症候群)のリスクが3倍ほど高くなるとの報告もあるのです」

 このテストステロンの元となっているのは、内分泌器の副腎から出る、DHEA-Sという男性ホルモンだ。
 「その血中濃度が高い人ほど、健康寿命が長いことが統計上でも明らかになっています。テストステロンの量は、20代をピークにして年齢とともに低下していき、少なくなると性欲の減退、ED、筋肉量の低下、睡眠障害、集中力や記憶力の低下を起こす。日常生活でも、些細なことでイライラしたり、やる気がなくなるなど、男性更年期の症状が表れる人も少なくないと言われます。また、テストステロン値の低い人は、高い人に比べて死亡リスクが33%も高いことが分かっている。心血管疾患や糖尿病にもなりやすく、寿命が短くなってしまうのです」(同)

 テストステロンは、男性の活動において、精神的な面とも直結している。社会の中で自分を表現する能力に関係があるとされ、テストステロンがあるレベル以上になると言語能力も高くなるという専門家もいる。そのため、画家や役者、音楽家といった芸術分野のみならず、一般人においても非常に大きな働きを果たしているのだ。
 「男性は男性どうしで、相手の男性ホルモンの量を嗅ぎ分ける力を備えているとされ、ホルモン値の高い人を支持する傾向にあるという。不思議な話ではありますが、テストステロンには人を惹きつける効用も備えているということです」(健康ライター)

 脳の中には“報酬系”と呼ばれる神経回路があり、“幸福感”や“やる気”を引き起こす役割を担っている。報酬系が出す幸福感の元は、ドーパミンという神経伝達物質だが、これを出すように仕向けているのが、ほかならぬテストステロンだ。スポーツの試合で勝ったり、自分の努力が評価されたりすると大きな幸福感に浸れるのは、こうした働きによる。
 「男性は、そのような感情が健康長寿にも繋がるとあって、テストステロンは最も重要なホルモンと言えます。テストステロンの値は血液検査で簡単に分かります。健康な男性の場合、血中遊離テストステロン値が、16.2pg/ml以上であれば正常で、8.5pg/ml未満では、ガイドラインで補充治療が必要と判断される。定期的にチェックすることをお勧めします」(前出・専門医)

 東京都健康長寿医療センターの関係者は、テストステロンの増やし方について次のように語る。
 「増やすにはいくつかの方法がありますが、まず食べ物で言えば玉ネギ、ネギ、ニンニク、ニラ、ラッキョウなどのユリ科ネギ属の植物に含まれる『含硫アミノ酸』に、テストステロンを増やす効果があることが科学的に検証されています。ただし、玉ネギは切ってから時間が経つと含硫アミノ酸を分解してしまう酵素も含まれていることから、切る前に丸ごと電子レンジで加熱して酵素を分解してから調理するか、生で食べるのがいいでしょう。また、変性したテストステロン(ディハイドロテストステロン)が多くなると前立腺がんのリスクになるため、増やしたテストステロンを変性させないためにも、亜鉛や豆腐などの大豆食品を摂取しましょう」