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●ゴールデンに上がるより週2本を希望

注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて"テレビ屋"と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。

今回の"テレビ屋"は、テレビ朝日のバラエティ番組『アメトーーク!』(毎週木曜23:15〜)、『日曜もアメトーーク!』(毎週日曜18:57〜)、『金曜★ロンドンハーツ』(毎週金曜21:00〜)で演出とゼネラルプロデューサー(GP)務める加地倫三氏。いずれも長寿番組の域に入った昨年、週2回放送と放送枠変更という大きな環境変化があったが、これは現場の加地氏からも志願したことだったという。その狙いとは――。

○一番苦しいのは類似番組が出てくる時

加地倫三1969年生まれ、神奈川県出身。上智大学卒業後、92年に全国朝日放送(現・テレビ朝日)入社。スポーツ局に配属後、96年にバラエティ制作に異動して、『Q99』のAD。その後『ナイナイナ』でディレクターに昇格し、『リングの魂』ではプロデューサーも担当。『ロンドンハーツ』にはスタート時から参加。『アメトーーク!』は03年に自ら立ち上げ、現在は両番組で演出兼ゼネラルプロデューサー。

――当連載に前回登場したMBSの水野雅之さんが、総合演出を担当する『プレバト!!』『林先生が驚く初耳学!』という2つの番組を走らせる中で、今後ぶち当たる壁があれば、『アメトーーク!』と『ロンドンハーツ』が長寿番組の域に入った加地さんに教えてほしいと話していました。

番組を長くやってると、視聴率とか色々と苦しくなってくる時が来ると思うんです。でも意外と、面白がって開き直って作った企画の方が、つらい時に救ってくれるもんなんです。やっぱり、追い詰められて思いつく企画って大したことないんですよ。ポジティブに作ったものの方が中身も結果もついてくる。最後は開き直り。僕なんて追い詰められて、悩んで、開き直って、その繰り返しですよ(笑)

――『ロンハー』が一般の方の恋愛というテーマから変わるタイミングで、「格付けしあう女たち」が生まれた聞きました。

あれも、誰かのちょっとした案から、どんどんポジティブにクリエイティブが積み重なって決まったんです。それまでの9週間くらいずっと数字が悪かったんですけど、考えてる間は「あー面白そうだねー」という感じで、会議中は不思議と追い込まれてるという雰囲気は全くなかったですね。そしたら、ビックリするくらいの高視聴率で(笑)

――『アメトーーク!』もそういう危機はあったんですか?

終わりそうなとこまで行ったことはないですが、いつも飽きとの戦いです。でも、『アメトーーク!』も楽しんでやれてる時の方が圧倒的に中身も反響も良いんで、なるべくノリ良く企画を考えるようにしてます。

――どういう時に良い企画が思いついたりするんですか?

本当に思いつきなんですよね。綾部(祐二)がアメリカに行くって聞いた瞬間に、「さよなら綾部」ってタイトル込みで思いついたりとか。そういう企画の時、会議中ずっと楽しくて、メンバーから否定の意見もあまり出ないんですよ。ノリよくやりすぎて、失敗する時もありますけど(笑)

特に『アメトーーク!』は、スタッフも演者も楽しそうに作ってるっていうのが見えた企画の方が、視聴者にも面白そうに映ると思っているんで、なるべくそういうノリみたいなのは大事にしています。でも、長くやってるとだんだん自分たちも知らないうちに「番組の形(カタ)」が変わってきちゃうんです。野球選手が、自分の悪いスイングに気づいてない時があるように、どこかでチェックしなきゃいけない。だから、『アメトーーク!』の一番良いものって何かなとか、基本って何かなとか時々振り返って、それにハマるような企画を考えたりとかもします。

――『プレバト!!』や『初耳学』にもそんな時が来ると。

細かい計算や小さな発明がたくさんあって成功して今の成功があるはずなんですが、その面白さが視聴者はだんだん当たり前になって、ハードルが上がってきてしまう。面白いものが面白く感じてもらえなくなる。その時、どう軌道修正するのか、全く違う道を選ぶのか、元々の良さを守っていくのか、その判断がとても難しい。

そして、一番苦しいのは、類似番組が出てくる時。どの業界もそうじゃないですか、どこかが革命的な新商品を出したら他社も同類の商品を出してくる。バラエティの場合、オリジナルをうまくアレンジしてオリジナリティーを出してくるので、後からできた番組は、パクってるという印象より、新鮮な番組に感じられることがあるんですよね。それはオリジナルとしては本当につらい。だから、『プレバト!!』をうまくアレンジした番組が出てくる時は要注意。でも、これだけのヒット番組だから、絶対に出てくる。それは覚悟した方がいいと思います。

○1年やってみて想像以上にしんどい(笑)

――番組が長くなってくると飽きられるという意識がある中で、『アメトーーク!』は、昨年の秋からゴールデンでも放送して週2回なったわけじゃないですか。この体制が決まったときの心境は、いかがでしたか?

あれは自分から言ったんですよ。木曜からゴールデンに上がるより、2本で走らせたいって。

――そうなんですか!?

はい。ゴールデンはタイトルに「日曜も」って付いてる通り、木曜が下町の食堂の本店で、そこが「こっちでも店出さないか」って言われて、渋谷とか恵比寿にも出店したみたいな。同じことをずっとやってると、自分たちの思考がマンネリ化して、凝り固まってきちゃう。だからゴールデンも毎週あるということが刺激になって、また木曜から新しいものが生まれるきっかけになればと思っていて。木曜だけやってた方が楽なんですが、やっぱり楽してるとどんどんダメになっちゃう。これはいいきっかけだなぁと思ってやったんですけど、1年やってみて、想像以上にしんどいです(笑)

――収録はどういうスケジュールで進行してるんですか?

もともとは月に3回撮ってたんですけど、それを4回にしてやってます。それで放送分が足りない時も結構あって、そんな時は収録10日前くらいに必死に企画を考え始めて、無理矢理仕込んで、キャスティングPに演者を押さえてもらって、何とか間に合わせてます(笑)

――それでも、日曜ゴールデンは激戦区と言われる中で、9月17日の2時間スペシャルで14.0%(ビデオリサーチ調べ・関東地区)という高視聴率をマークしました。

レギュラー放送はそんなに獲れてないです(笑)。でも、正直もうちょっといけると思ったんです、最初に引き受けたときは。もう2〜3%くらいは獲れて、楽にできるかなと思ってたんですけど、あれあれ?みたいな感じで(笑)。これまでいろんなパターンをやってみて、最初は日曜の7時ならこういうのが合うんじゃないかとかゴールデンを意識した企画も多かったんですけど、結局何やってもあまり結果は変わらないんです。だからまずは『アメトーーク!』らしさを失わないように、ブランドイメージがあまり傷つかないようにしたいと思って、今は開き直って深夜っぽい企画もやってます(笑)

――木曜用と日曜用で、企画はそれぞれ考えてるんですか?

頭の中が、ごちゃごちゃになっちゃうんで、木曜と日曜の会議は分けてるんで。でも日曜の会議で思いついて、でもこれは木曜の方がいいなとか、その逆もありますし、木曜で仕込んでたけど、キャスティングが良かったんで日曜に変えたりとか、そういうこともありますね。

――さすがに収録本番の時は、どっちの曜日か決まってるんですよね?

今のところは無いですけど、スタジオセットは全く一緒なんで、撮ってみて入れ替えられるようにはしています。ただ、「これ日曜用ね」って演者に言わないと、コバ(ケンドーコバヤシ)あたりがうっかり下ネタ言っちゃったりするんで、きちんと伝えますけど(笑)

○一歩引く雨上がり決死隊

――あらためて、『アメトーーク!』が長くヒットしてる理由というのは、どう分析していますか?

基本は終わらせないっていうモットーでやってるので、ヒットした企画をあまり乱発しない。どうしたら飽きられないかっていうのは、すごく気を遣っています。ヒット企画を続ける方が作るのも楽だし、結果もいいんですけど、数字が下がったり、撮れ高が悪くても、やっぱり「新しいことを考え続ける」ことが大切。これは『ロンハー』でも、常に心がけていますね。

――雨上がり決死隊さんのすごさというのは、どんなところで感じていますか?

これは出川(哲朗)さんがよく言ってるんですけど、雨上がり(決死隊)が一歩引いたことだと思うんです。自分たちが目立つんじゃなくて、ゲストが目立つよう、ホスト役に徹する。だから、あまりしゃべってなくて、笑ってばかりの時もあるんです。例えば、大御所がMCだと、ゲストはそのMCがさばくリズムとかに合わせてしゃべったりするんです。でも、『アメトーーク!』の場合は、雨上がりに気を遣わなくていいから、それがすごくやりやすいみたいです。それでいて、周りをよく見ているので、しゃべってない演者に振ってあげたり、いじったりしてくれています。

●金曜への移動はギャンブルだった

―― 一方で、『ロンハー』の方も、昨年春に長年親しんだ火曜から金曜に枠移動するという大きな変化がありましたよね。

そうでしたね。これもギャンブルでした。

――これは編成の判断だったんですか?

僕も希望しましたね。むしろ、ぜひ金曜に行かせてほしいって。たぶんあのまま火曜にいても、僕の感覚ですけど、あと半年くらいで終わってたと思うんで。普通、曜日を変えたほうが、視聴習慣が無くなって視聴率は下がるんです。それは店の場所が変わって、お客さんが変わるようなものなんで。だから、甘いもんじゃなくて大変でしたけど、やっぱり環境を変えた方が、みんな必死に知恵を出し合って頑張るんで。

――先ほどおっしゃっていた『アメトーーク!』を日曜にも増やしたことと同じですね。

そうですね。だから僕だけじゃなくて、全スタッフ、演者も含め、気持ちやスイッチが入って、チームとしての力が付きましたね。

――火曜から金曜に移って、意識していることはありますか?

やっぱり、金曜は前に放送されてるのが『ドラえもん』『しんちゃん』『Mステ』なんで、子供が見てるんです。だから、そこは少し意識してます。でも、子供だけに見せようとすると大人が見なくなる。でも、長年のファンだけを大切にしていても、 新しいお客さんが入って来なければ、番組って終わっていくんで、そこのバランスをすごく大切にしています。

○成長する淳、見守る亮

――『ロンハー』の長寿の理由は何でしょう?

『アメトーーク!』と同じで、やっぱり人気の企画を続けないことが一番です。それと『ロンハー』は、何回も終わりかけてるから、みんな"粘り腰"で土俵際の戦い方を知ってるんですよ(笑)。番組って、月に1回でも覚えて見てくれているうちは大丈夫なんですよ。でも絶対につけなくなったら終わりなんです。そうすると、面白いことをやってることが視聴者に伝わらないんで、結果もついてこない。

あとは、『アメトーーク!』も同じですけど、出たいって言ってくれる演者さんがいるのが大きいです。有吉(弘行)や(千原)ジュニアや後藤(輝基)なんて、他の番組でMCをやっていて、別にこっちに出る必要もないんで、ホントにありがたいです。さっきの視聴習慣の話と同じで、演者も、もう出なくていい番組ってなると、そこのスケジュールに他のレギュラーを入れられちゃったりするので。それと、最近はみやぞんとか、新しく出て来た芸人とがうまく融合して、代謝としてうまくできてるのかなと思います。

――あらためて、ロンドンブーツ1号2号さんのすごいところは、どんなところでしょうか?

やっぱり(田村)淳の成長じゃないですかね。最初は『ぷらちなロンドンブーツ』の"ガサ入れ"で、一般女性との距離の詰め方とか、他の人にできないことをやって、その武器を持って『ロンドンハーツ』が始まってしばらくして、今度はタレントさんを相手にするときに、たぶんいろんな先輩の司会を勉強して、一生懸命努力したと思うんですよ。「格付け」で女性は行けるってなって、そこから後輩芸人、そして、先輩芸人も回せるというように成長してきたんだと思います。(田村)亮は、それを見守って、とやかく言わない(笑)。亮がいるから、淳が好きにできたっていうのもあると思うんですよ。それがやりやすいんでしょうね。

●23時台でもう1本やりたい

――『アメトーーク!』『ロンハー』という2つの番組で、意識して変えている部分というのはありますか?

これは誰か芸人さんに言われたんですけど、それぞれの現場の時で、顔が違うらしいんです。『アメトーーク!』は穏やかに楽しそうにやってるけど、『ロンハー』の時は悪い顔してるって(笑)。『ロンハー』は、ヤンチャというか毒というか、どこかそういう精神を持ってやってるんで、いたずらっ子の顔になってるのかもしれませんね。でも、年を取ってだんだん優しくなって、角が取れてきたんで、イタズラ心の精神はなくなっちゃいけないなとも思います。

あと、『アメトーーク!』の木曜は23時台なんで、ゴールデンの『ロンハー』と料理の仕方を変えてるというのはあるかもしれませんね。『アメトーーク!』はキャンプのカレーみたいに、粗さを残して、しっかり作り込まない感じ。『ロンハー』は、実は隠し味を仕込んでよく煮込んであったりとか、細かく作ってます。

――今後、こんな番組を企画してみたいという構想はありますか?

何個か企画書は出してるんですけど、いろんな会社の事情もあってなかなかやれなくて(笑)。でも、ネオバラ(23時台)で、もう1本やりたいですね。もうちょっと笑いに特化した、ふざけた番組。ある芸人さんでそれをやりたいなと思ってます。本当は、月曜から木曜まで、ネオバラ全部やりたいんですけどね(笑)

――ぜひ見たいです! やっぱり23時台はやりやすいですか?

僕の性に合ってるんだと思います。

――最近、テレビの規制が厳しくなってきたとよく言われますが、それに対してはどのように感じていますか?

それは、テレビに限らずですよね。学校の先生も大変だし、政治家も医者もメーカーも大変。もう時代だからしょうがないとは思ってます。ただ、視聴者も含めて自主規制みたいなことがあるじゃないですか。ハメを外して面白いことやったときに、視聴者が面白い面白くないの前にまず「これ大丈夫?」って思っちゃう。そんな時代に、誰がしたのか僕らがしたのか分かんないですけど、それだけは正直ちょっと邪魔かなっていうのはあります。でも、そう思わせないテクニックがあって、それができてない自分が悪いのかもしれないので、立ち向かって戦っていかないとと思ってます。

○バラエティの終了はスポーツ選手の引退のよう

――これまでに加地さんが影響を受けたテレビ番組を1本挙げるとすると、何ですか?

やっぱり片岡飛鳥さんに影響を受けているので、『めちゃ×2イケてるッ!』(フジテレビ)ですね。飛鳥さんの編集の仕方は革命だと思うんです。ツッコミテロップの入れ方や、そのテロップにSEがつくとか。音効の笠松(広司)さんが、僕と一緒にやってる栗田(勇児)の師匠なんですけど、演者の動きに分かるか分からないかくらいのナチュラルな感じで効果音を付けたり、ボケの声をエコーで飛ばしたのもあのチームが最初にやったこと。僕も無意識に飛鳥さんの真似をしてる部分があって、若い頃に似てると言われて『めちゃイケ』を見ないようにした時代もありました(笑)。僕がAD時代に、飛鳥さんに飲みの場でお会いして、基本を教わりもしました。

――そんな『めちゃイケ』ですが、来春での終了が発表されました。

自分は終了の理由など、詳しいことはわかりませんが、バラエティの歴史を作ったこと、僕のような多くのテレビマンに影響を与えたこと、そして、何と言っても多くの視聴者が『めちゃイケ』を見て元気をもらったり、ストレスを発散してきた。その事実だけは変わらないと思います。バラエティが終わる時はドラマなどと違って、番組が弱った時に終わるので、スポーツ選手の引退のように本当につらくて寂しいものなんです。

――いろいろお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後に、気になっている"テレビ屋"をお伺いしたいのですが…

うち(テレビ朝日)なんですけど、『人生の楽園』。僕らバラエティの制作者は、間を詰めてしまいがちなので、あのゆっくりとした間の取り方とか、どういうノウハウがあるのか、単純に聞いてみたいです。僕も歳をとって、ゆっくりした番組が視聴者としては合うようになってきて、『人生の楽園』って気持ちいいんですよ。今、ゆっくりした企画をケンコバと(博多)華丸くんとやりたくて、自分がお笑いでやってるノウハウと融合させて、お昼とかで流したいんです(笑)。あと、どこがテッパンなのかも聞いてみたい。例えば『アナザースカイ』だったらハワイがテッパンだと思ってるんですよ(笑)。他の旅番組は箱根が強かったり、5月は房総に行ったりするけど、『人生の楽園』は実は信州が強かったりとかあるのかな…(笑)。土曜の夕方に今でも14%獲るなんて、すご過ぎます。