「若手は叱って育てる」ばかりでは、若手社員が逃げ出してしまいます (写真:xiangtao / PIXTA)

10月31日配信の「『入社3年以内に会社を辞める人』の4大特徴」では、自分を変えずに「環境」だけを変えようとして短期離職する、第二新卒者の特徴と改善策を取り上げました。

その一方で、新入社員の短期離職は、「企業」側に原因があるケースも多く存在するとも思っています。

エン・ジャパンが今年5月に「エン転職」の利用者を対象にした退職理由のアンケートによると、理由(複数回答可)のトップ3は、「給与が低かった」(46%)、「評価や人事制度に不満があった」(37%)、「残業や休日出勤が多くて辛かった」(28%)という順。「他にやってみたい仕事ができた」(18%)、「結婚・子育て・介護などの家庭の事情」(10%)など、自己の都合を理由にするケースは、少数派となっています。

新入社員と年配社員にある“価値観ギャップ”


今回は、これまでにキャリアカウンセリングでヒアリングした第二新卒(社会人としての就業経験が3年以内)の退職理由から、新入社員が3年以内に辞めてしまう会社の特徴と、その見分け方を説明していきます。

サービス残業、求人票とは異なる待遇提示といった、明らかにルール違反を犯している企業は論外ですが、それ以外の理由でも、新入社員の短期離職につながる意外な落とし穴が存在するのです。

それは、新入社員と年配社員の間にある、仕事に対する、「価値観(当たり前だと思うこと)」のギャップ。自分の会社はちゃんとしていると思っていても、この価値観のギャップを認識していないと、知らず知らずのうちに、新入社員にとって働きづらい環境を作り出してしまっていることもあります。

日本能率協会が2013年に調査した「ビジネスパーソン1000人調査」(第1回)によると、「仕事内容と職場環境どちらを重視するか」という問いに対して、20代などの若手社員は職場環境を重視する割合が高いのに対し、年齢を経るごとに仕事内容を重視する割合が増えています。また、「個人裁量の職場かチームワーク重視の職場のどちらの職場で働きたいか」という問いに対しても、若者世代(20代)のほうが「チームで仕事」をすることを好む比率が高くなっています。

このように、仕事に対する考え方や重視していることが全く異なる状況では、制度や待遇といった「ハード面」だけではなく、現代の若者の特徴に合わせた「ソフト面」を整備することが企業には求められています。

空前の売り手市場で採用難となっている企業にとって、せっかく採用した新入社員を定着させることは、採用以上に重要なことではないでしょうか。

新入社員が辞める会社にある共通点

長年、短期離職した第二新卒のキャリアカウンセリングを行っていると、3年以内で新入社員が辞めてしまう会社には、いくつかの共通点があることがわかってきました。今回はそのような企業の特徴をタイプ別に挙げていきます。

これから就職、転職をしようと考えている求職者の方には、会社選びの参考にもなると思います。現在受けている会社、自分が働いている会社がこれらの特徴に合てはまっていないか、一度チェックしてみてはいかがでしょうか。

また、新入社員がすぐ辞めてしまい、その理由がわからないとお悩みの人事担当者や経営者の方は、自社の状況と照らし合わせていただけたらと思います。

1.「見て覚えろ!」「とにかくやれ!」スタイルの会社

■特徴
・そもそも教育の優先順位が低く、そのための時間や工数をかけていない
・昭和気質な「見て覚えろ!」という教育スタイルのため、仕事を覚えられない新人が続出
・目的を説明せず「とにかくやれ!」と指示するため、モチベーションが保てない

このタイプは、中小規模の会社や、平均年齢が高い会社に多く見られます。教育の優先順位が低いため、教育工数をあまりかけていません。とにかく先輩の仕事を「見て」「やれば」、新人は仕事ができるようになると、会社や教育担当者は考えています。

このような会社では、教育担当の社員が自分の業務を優先し、新人への教育にあまり時間を割かないため、仕事を教えているというよりも、「ただ横にいて仕事を見せている」という状況になりがちです。

その新人が優秀であれば、横でやっている仕事を自分なりに解釈して、習得できます。しかし、それができない新人は、仕事ができるようにはなりません。

またこのような会社では、時間がないからといって、「その仕事をやる目的」を説明しないで指示する傾向もあります。新人は教育担当者から「とにかくやれ!」と言われて仕事をやっているだけなので、「何のためにその仕事をやっているのか?」を把握していません。従って、その仕事をやる意義もわかりませんし、重要度もわかりません。

このような状況が続くと、仕事が覚えられないことから自信を失くしてしまうだけでなく、周囲からも”覚えが悪い新人”というレッテルを貼られます。目的もわからないためモチベーションも下がり続け、最終的に転職を考えるようになってしまいます。

ITの効率化より、長く働くことを優先

2.「質より量ハラスメント」が蔓延している会社

特徴
・長時間労働を美学として捉える、「質より量ハラスメント」を行う上司がいる
・何かと「俺が若い頃は……」といった武勇伝ばかりを話している
・生産性を上げるための改善策を「仕事でラクをしてはダメだ」と一蹴する

ハラスメントには、わかりやすい例だと、「パワハラ」や「セクハラ」があります。しかし、わかりづらいからこそ根深いハラスメントが、「質より量ハラスメント」です。

このハラスメントは、長時間働くことが”美学”であり、残業している人が偉い、という考えを押し付けることを指します。上司は「俺が若いころはもっと働いていた」「俺のようになりたければ、今の仕事量では足りない」と、質ではなく量の話を中心に指導します。

このような環境下では、残業時間も正確に申請できず、サービス残業や休日出勤も蔓延してしまいます。

残業時間を減らすべく、生産性を高めるための提案(主にITシステムの活用)をしても、ITリテラシーが低い上司の場合、「よくわからないから」と受け入れてもらえません。また、生産性を上げることを「ラクをすること」だと勘違いされてしまい、「仕事でラクをしようとは何事か!」と叱責までされてしまうことすらあります。

3.減点方式のコミュニケーションが多い会社

特徴
・「褒める」や「称賛する」よりも、「非難」や「叱責」が多い
・議論の目的が「もっとよくするため」ではなく「否定するため」
・「長所(できること)」でなく「短所(できないこと)」ばかりを見てしまう

このタイプの会社は「褒める」「称賛する」という文化がなく、「非難」や「叱責」といったコミュニケーションが中心となっています。提案に対しても、「もっとよくするための議論」ではなく、その提案のアラを探す「否定寄りの議論」となることが多く、新人は萎縮してしまいます。

特に年配の社員は、若い頃からしかられることによって自身が成長したと考えているため、よかれと思って新人をしかって伸ばそうとします。そのため、新人の「長所(できること)」ではなく、「短所(できないこと)」を指摘して、改善を求めるのです。

そうすると、幼少期からしかられたり、競争にさらされたりといった経験が少ない現代の新入社員は、逆に仕事へのモチベーションが下がり続けてしまいます。

このようなネガティブな言葉が多い環境下では、新人はリスクが伴うチャレンジを避けるようになります。すると、仕事は「楽しいこと」ではなく「辛いこと」「我慢しながらやること」と考えてしまい、「明るい未来が見えない」と、会社を辞めてしまいます。

優秀な若手社員が一斉に辞めてしまった

4.社長やマネジャーが平気で約束を破る会社

特徴
・社長やマネジャーが社員との信頼関係を軽く考えている
・約束を守れなかった際に真摯な謝罪・説明がない

新人は会社に入ったばかりということもあり、会社への帰属意識も高くなく、「この会社は自分の人生を託してもよいのか?」と値踏みをしながら働いています。社長やマネジャーが新人から信頼されるうえで重要なことは、「約束を守ること」です。しかし、この「約束を守ること」を、軽く考えてしまう会社が存在します。

以前にキャリアカウンセリングで聞いた話なのですが、社員のモチベーションを上げるために、「通期での売り上げ目標を達成したら業績賞与を出す!」と約束した会社がありました。しかし、期末にその目標を達成したにもかかわらず、この会社は約束を破り業績賞与を出しませんでした。

このとき、その会社の社長は理由を直接社員に説明しようとはせず、人事担当者に責任を押し付けてしまったそうです。代わりに説明することになった人事担当者は、「会社では色々と費用がかかります。たとえ売り上げが目標額を超えていたとしても、業績賞与を払えないこともあるんですよ!」と、社員がまったく納得できない伝え方をしてしまったそうです。

その後、このことが引き金となり、優秀な若手社員が会社から一斉に転職してしまった、と聞いています。

現在、就職活動や転職活動を行っている求職者にとって、このような会社はぜひとも避けたいところでしょう。しかし、そういった会社を入社する前に見分けることは、非常に難しいのが実情です。

そこで、これだけで完全に見分けられるわけではありませんが、見分けるうえでのコツをいくつか教えたいと思います。

見分けるコツ1 内定後に採用と関係がない社員との面談を組んでもらう

選考を受けていると、採用担当者やマネジャー、経営層との接触はありますが、それ以外の社員との接点はほとんどありません。会社のネガティブな情報を知りたくても、採用に関わる社員からは聞くことができません。

そこで、内定後、実際にいっしょに働く社員との面談を組んでもらうよう交渉します。この面談を実施できれば、いっしょに働く社員を知ることもできますし、会社のネガティブな側面も聞けるかもしれません。

もし、採用に関わっていない社員との面談を断られた場合には、もしかすると内定者には知られたくない情報があるのかもしれません。あくまでも1つのアプローチですが、実施してみることをおすすめします。

社員を見て「疲れている」「暗い」場合は要注意

見分けるコツ2 口コミサイトや就活情報誌から、残業時間や離職率を調べる

残業時間や離職率を調べるために、口コミサイトや就職情報サイトから情報を集めることは、みなさんもやっていると思います。これはとても重要です。ただ、この際に注意してもらいたいことは、「口コミは基本的に悪いことが書き込まれている」ということ。特に社員数が多い会社だと、悪い口コミも多くなるので、口コミの内容を参考にする程度にしましょう。

私も仕事でたまに参考にしているのですが、東洋経済新報社が出版している『就職四季報』には「月別残業時間」や「3年後離職率」というデータが記載されています。この数値は業界ごとにかなりバラツキがあるために、業界平均値と比較して、どれくらい数値が違うのかを確認することができます。

見分けるコツ3 受付や社内ですれ違う社員の顔や雰囲気を確認

これは、私たちが人材を紹介する企業を訪問した際にもチェックしているのですが、受付の様子や社内で会う社員の顔が、「疲れている」「暗い」場合は要注意です。

1人の社員だけでなく、複数名以上の社員を見て判断する必要がありますが、疲れていたり、暗い表情をしていたりすれば、「労働時間が長い」、「ネガティブ寄りのコミュニケーションが常態化している」可能性が高いと考えられます。

これらのポイントは、求人票やネットの情報だけでは判断が難しいと思いますので、選考の際に自分の目で見て感じた印象も考慮してみてください。また、企業のOBやOGから直接話を聞くことは難しいので、就職エージェントをうまく活用することで、企業の情報を少しでも多く収集しましょう。

以上、これらの見分け方を参考にして、後悔のない就活・転職活動を行ってもらえればと思います。