デング熱やマラリアにも有効? 世界初の食中毒予防と “光触媒蚊取り器”は どうやって誕生したのか?

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1967年に酸化チタン光触媒を発見した、東京理科大学学長の藤嶋昭氏。毎年、ノーベル化学賞候補にノミネートされている日本を代表する化学者だ。
その藤嶋氏が、2017年度「文化勲章」を受章した。
「光触媒」は今年で発見50周年を迎える。その記念すべき年に『第一人者が明かす光触媒のすべて』が11月23日に発売。「文化勲章」受章まもないタイミング、「発見50周年の永久保存版」「わが人生の集大成」ということで注目が高まっている。
東海道・山陽新幹線「のぞみ号」の光触媒式空気清浄機、成田国際空港の光触媒テント、パナホームの一戸建て、日光東照宮の「漆プロジェクト」から、ルーブル美術館、クフ王の大ピラミッド、国際宇宙ステーションまで、光触媒の用途はとどまることを知らない。日本だけでなく世界へ宇宙へと広がっているのだ。
2020年東京五輪で「環境立国」をうたう日本にとって、光触媒は日本発の世界をリードするクリーン技術の生命線。酸化チタンに光が当たるだけで、抗菌・抗ウイルス、防汚、防曇、脱臭、大気浄化、水浄化など「6大機能」が生まれるので世界中で重宝されている。
これからの時代、文系、理系を問わず、光触媒の知識が少しあるだけで、あなたは羨望の眼差しを受けるかもしれない。
知られざる光触媒の最前線を、第一人者の藤嶋氏に語っていただこう(構成:寺田庸二)。

「光触媒蚊取り器」の仕組み

 食中毒の原因となる細菌の中には、煮沸や消毒でも死滅しない強い耐性を持つものがあります。

 これは、細菌が飢餓状態になると、菌の一番外側に芽胞という厚いたんぱく質の殻を作るためであることがわかっています。

 最近、東京理科大学の中田一弥准教授らの研究成果として、芽胞を形成した細菌を光触媒によって不活化する(感染できない状態にする)ことに世界で初めて成功しました。

 また、光触媒を利用した“光触媒蚊取り器”の試作も進めています。
光触媒で発生させた二酸化炭素で蚊をおびき寄せ、ファンを回して集まった蚊を捕獲するシンプルな仕組みです。

 今後は国内での活用の他に、蚊の媒介するマラリアなどの感染症に苦しんでいるアフリカや東南アジアの国々に設置できればと考えています。

デング熱やマラリアにも有効?

 近年、日本でもデング熱に感染した蚊が問題になりました。

 デング熱やマラリアなどの蚊感染症を媒介するのは、吸血する蚊(雌)です。

 この吸血する蚊をおびき寄せるおもな誘引源として、1.炭酸ガス、2.ニオイ(乳酸などの誘引物質)、3.温かさ、4.色などが知られています。

 酸化チタンと紫外線を用いた蚊取り器としては、酸化チタンに付着した汚れ等を光触媒効果(酸化分解力)により炭酸ガスに分解し、紫外線との相乗効果で蚊を集めて吸い取る吸引方式の蚊取り器がすでに市販されています。

 しかしながら、発生する炭酸ガスの量が少ないため、思うような効果が得られないという問題がありました。

 また、炭酸ガスボンベを用いた蚊取り器も市販されていますが、ボンベの交換に手間がかかる、ボンベが重くて移動が困難という問題もありました。

 そこで私たちの研究グループでは、有機ガスの高い分解効率を有する酸化チタン光触媒シートを応用し、上記の4つの誘引源を効果的に活用した蚊取り器を開発しました。

 新たに開発した酸化チタン光触媒シートを蚊取り器に適用することで、有機ガスの分解効率、すなわち炭酸ガスの発生効率を上げて、市販品に比べ蚊の捕集効率の向上に成功したのです。

 光触媒を発見して今年で50周年。いまや東海道・山陽新幹線の光触媒式空気清浄機、成田国際空港の光触媒テント、パナホームの一戸建てからクフ王の大ピラミッド、ルーブル美術館、国際宇宙ステーションまで、その活躍の場は多岐に及んでいます。

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