秋山英宏 全米レポート(10)記者を諭すように敗者の弁を述べたフェデラー

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四大大会では全豪以来となるラファエル・ナダルとロジャー・フェデラーの対戦は実現しなかった。フェデラーの、そして数多くのテニスファンの夢を砕いたのは、準々決勝でフェデラーと対戦したフアン マルティン・デル ポトロだった。

ナダルとフェデラーは、不思議なことに全米では一度も対戦したことがない。近年はともに故障に悩まされ、ピークを過ぎたとも言われた両者の初対戦が今、この舞台で実現すれば、それだけで夢物語と言える。しかし、今回も両者の勝ち上がりが交わることはなかった。ウィンブルドン5連覇を達成したビヨン・ボルグは、全米では一度も勝てなかったが、ナダルとフェデラーのすれ違いも、それと並ぶ全米七不思議と言えそうだ。

ファンの落胆を救ったのは、敗者となったフェデラーのすがすがしさだ。試合後の記者会見でこんなやりとりがあった。

--余計に悔しかったのでは? おそらくあなたは準決勝のことを考えて......、

質問者の言葉をさえぎるように、フェデラーが口を開いた。

「僕は考えていない。考えたのはあなただ。余計に悔しいとは思っていない。ずっとタフな大会だった。正直に言うが、僕は今夜の試合のことだけ考えていた。この大会はずっと苦しんできたので、先々のことは考えられなかった。ある点では、準々決勝に残れてうれしかったし、がっかりもしていない。今季はいい結果が得られているしね。残念ながら今日は自分より優れた相手に当たってしまったということだ」

デル ポトロこそ勝者にふさわしいと、フェデラーは繰り返した。

「僕が準決勝に食い込む余地はなかった。彼(デル ポトロ)のほうがラファに対して大きなチャンスがある。ここまで、そして今日も、僕は優勝できるだけのプレーができていたとは思わない」

フェデラーは潔かった。敗者の言葉には人間性があらわれる。頂上決戦を勝手に夢見て勝手に失望している報道陣を戒めるように、あるいは諭すように、彼は敗者の弁を述べるのだ。

付け加えるなら、その準決勝進出を阻んだのが好漢デル ポトロであったこともよかった。テレビのインタビュアーが「会場はロジャーのホームのようだったが」と水を向けると、「僕にとってもホームのようだったよ」と笑顔で切り返し、これが喝采を誘った。09年にトロフィーを掲げた彼もまた、全米とは相思相愛の関係にある。いい選手が準決勝に勝ち残った。

(秋山英宏)

※写真は「全米オープン」準々決勝で激闘の末、デル ポトロに敗れたフェデラー
2017 US Open Tennis Championships - Day 10
NEW YORK, NY - SEPTEMBER 06: Roger Federer of Switzerland wipes his face during a break in play against Juan Martin del Potro of Argentina in their Men's Singles Quarterfinal match on Day Ten of the 2017 US Open at the USTA Billie Jean King National Tennis Center on September 6, 2017 in the Flushing neighborhood of the Queens borough of New York City. (Photo by Clive Brunskill/Getty Images)