はたして防衛予算は適正に使用されているのだろうか(写真:akiyoko / PIXTA)

8月31日、防衛省は来年度予算の概算要求で、過去最大となる5兆2551億円の計上を決定した。昨今は概算要求から漏れた装備を当年度の補正予算で購入することが慣例化しており、昨年度の補正予算は約2000億円であった。本年度補正予算を含めると来年度の実質的な防衛予算は5兆5000億円近くなる可能性がある。

では、膨らみ続ける防衛予算は適正に使われているのだろうか。  

課題は多い。たとえば自衛隊では米軍と同じ機関銃(ベルギーのFN社のMINIMIをライセンス生産したもの)を採用している。これは型式が古いうえに、品質的にもオリジナルより劣っているのだが、米軍の10倍の単価約400万円を支払って調達している。防衛予算を増やす前に不要な支出を抑える努力をすべきだろう。

調達計画のコスト意識が低い

本連載で繰り返し記していることだが、防衛省・自衛隊の装備が高額になっている要因を突き詰めると、調達計画のコスト意識が低いことにある。

諸外国ではどのような装備をいつまでに、いくつ調達を完了し戦力化し、その予算はいくらになるという計画を立てる。議会の承認も必要だ。だが防衛省・自衛隊の調達ではほとんどそれがない。装備にしてもどれだけの数をいつまでに調達・戦力化し、総予算はいくらになるかを明記した計画がなく、国会議員もそれを知らない。各幕僚監部内部では見積もりを出してはいるが内輪での話であり、議会が承認しているわけではない。

国会はその装備がいつまでに、いくつ必要で、総額がいくらかかるかも知らずに、開発や生産に許可を与えているのだ。このため調達自体が目的化して、いたずらに長期化する。

89式5.56mm小銃(写真:SWAT / PIXTA)

具体例として89式小銃を見てみよう。1989年に調達が開始された89式小銃は28年経った2017年現在まで調達が完了していない。それでも調達計画がたとえば30年と決まっているならまだしも、それすらも決まっていない。諸外国では小銃の更新は6〜8年程度、長くても10年ほどである。この少量調達をダラダラ続けているために89式小銃の調達単価は40万円と、同時代の他国の小銃の7〜8倍にもなる。

ドイツでは入札情報が明快に公表されている

ドイツの状況をみると、日本との差が明確に浮かび上がる。ドイツ連邦軍は現用のG36小銃の更新を計画しているが、12万丁の新型小銃を2019年4月から2026年3月までの7年間で調達する予定で、予算は2億4500万ユーロ(約300億円)と見積もっている。候補はこれから絞られるが、光学照準器や各種装備を装着するためのレールマウントを装備し、同じモデルで5.56ミリおよび7.62ミリNATO弾を使用する2種類の小銃を調達すことになっている。

フレームの寿命は最低3万発、銃身寿命は1万5000発(徹甲弾は7500発)以上が求められている。調達予算には光学サイト&ナイトサイト、メカニカルサイト、銃剣、クリーニングキット、サプレッサー、通常型弾倉とドラム型弾倉、二脚、フォアグリップ、ダンプポーチ、輸送用バッグが含まれており、オプションとして射撃弾数カウンターと2連装弾倉ポーチが挙げられている。こういう情報が、入札が行われるはるか前に公開されているのだ。

それに対して日本はどうか。防衛省・自衛隊は国会にこの程度の情報すら公開していない。89式に関して国会議員は何丁が、いつまでに、総額いくらで調達されるかも知らない。このような過剰な秘密主義は民主主義国家の「軍隊」ではありえない。防衛省や自衛隊の情報に対する考え方はむしろ中国や北朝鮮に近い。

ドイツ連邦軍は、日本の89式調達単価の6割の予算、4分の1以下の期間で、最新式の小銃と豊富なアクセサリーをそろえることができる。かつてドイツ連邦軍が旧式のG3小銃がG36に更新したときもおおむね7年程度で終了している。これが「普通の国」の調達なのである。残念ながら防衛省・自衛隊にはこのような「計画」が存在しない。

なぜ「計画」が存在しないのだろうか。原因は防衛省・自衛隊の装備調達人員が諸外国に比べて圧倒的に少なく、業務の質も高くないことにある。このために当事者能力が欠如し、調達のあり方が「無計画」にならざるをえないのだ。

たとえば主要装備などの仕様書をメーカーに丸投げしているのは公然の秘密である。競争入札で特定の企業が仕様書を書けば、当然自社に有利な仕様書になる。これでは競争入札の意味がない。また調達されている装備が適正かどうかをチェックする人員もいない。

防衛装備庁の人員は総兵力24万7000人に対して約2000人だ。他国の国防省や軍隊と単純比較はできないが、予算規模や人員の規模が近い英独仏などの主要国の国防省と比べると、人員が1ケタ少ない。

総兵力15万5000人の英軍を擁する英国防省の国防装備支援庁の人員は約2万1000人(対外輸出関連部門はUKTI、通商投資庁に分離統合されたので、実態はさらに大きい)。兵力がわずか2万2000人のスウェーデン軍の国防装備庁ですら3266人を擁している。自衛隊の調達人員がいかに少ないかがわかるだろう。

効率も悪い

人数が少ないだけではない。そのうえ効率も悪い。これは先述のように自衛隊の装備調達が長期にわたって少量ずつ行われるためだ。諸外国が5年ほどで完了する調達を20年かけて行っていたりする。

仮に調達ペースが諸外国の1万人に対して1000人、調達期間が4倍だとしよう。装備調達というものは1個調達しようが1000個調達しようが、同じ人員が拘束される。そのため防衛省の調達人員の生産性は諸外国の4分の1程度になる。つまり1000人の人員は250人しかいないのと同じである。これは10倍の人員の差が実に40倍になってしまう計算だ。

効率が悪いために、東京・市ヶ谷の防衛省、防衛装備庁、内局、自衛隊の各幕僚監部の調達担当者は極めて忙しく仕事をしている。帰宅は恒常的に遅く、防衛省に寝泊まりすることも少なくない。各部隊など地方調達の担当者も同様だ。長時間の過重労働が恒常化している。調達システムに問題があり、生産効率が低いためだ。システムの構造的な欠陥を現場のガンバリズムで支えているのが現状であり、調達システムを見直すような余裕はない。

効率的な調達システムを採用し、調達期間を短縮するだけで、人員を増やすことなく、現在の調達人員を数倍に増やすのと同じ効果を得ることが可能なのである。調達改革を早急に行うべきだろう。