わかりやすいのが大好きだ「コール・オブ・ヒーローズ/武勇伝」ベッタベタの悪役に正義の心で立ち向え

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やっぱりこういう娯楽作はいいなあ、こういうわかりやすいのが好きだなあ……と呻くように漏らしてしまう、そんな映画が『コール・オブ・ヒーローズ/武勇伝』である。


「村、大ピンチ!」な中国版マグニフィセント・セブン


舞台は1914年の中国。当時の中国国内は各地で軍閥が暴れまわる内戦状態で、難民が溢れていた。北洋軍閥の将軍チョウ・インに襲われた石頭村で教師をしていたパク・レンも、子供達を連れていとこの住む普城に逃げる難民。が、道中に寄った食堂で強盗に遭遇。危ういところで流れ者のマー・フンに命を救われる。

パクと子供達は田舎の村である普城にたどり着く。そこはヨン・ハックナンが団長を務める自警団が守る平和な村だったが、各地からの難民や両替商が雇ったゴロツキまがいの用心棒らが押し寄せ混乱の様相。なんとかいとこのティッガウと再会を果たすパク。そんなところに、先日パク一行を助けたマーも現れる。パクに子供達を助けてほしいと頼まれるマー。しかし彼は「興味がない」と断る。

そんなある日の早朝、馬に乗った一人の男が現れる。その男こそチョウ・イン将軍の息子、チョウ・シウロンだった。偵察に現れただけのシウロンだったが、勢いでパクといとこのティッガウ、それに教え子の一人を射殺。シウロンを逮捕するヨンたち自警団。だが、そこに軍閥の将校チョン・イックが現れ、もし明日の朝までにシウロンを釈放しなければ村に対して総攻撃をかけると宣告。軍閥のボスの息子であるシウロンの処遇を巡って村は割れる。正義を信じるヨンと、無頼を気取りつつ義侠心を秘めたマー、そして自警団のメンバーが選んだ行動とは……!

こんなストーリーなので、要は『七人の侍』というか『荒野の七人』というか、中国版『マグニフィセント・セブン』みたいな映画である(公式Webサイトにも「黒澤明とセルジオ・レオーネに捧ぐ」と書いてある)。これはどう見てもヒロインでしょ……という美人教師パクをすごいタイミングで殺すのでビックリするけど、村人のピンチを流れ者の快男児が助けるというストーリー自体は至って王道だ。

ただ、それにしてはヨン団長以外の自警団メンバーのキャラがちょっと薄い。正直誰が誰だったかわからない。サモハンの息子のサミー・ハンだけ見せ場が多かったけど、そりゃあ親父がこの映画のアクション監督だもんな、見せ場も増えるよな……と思ったくらい。ではこの映画がつまらないのかと言うとそんなことはない。実のところ、『コール・オブ・ヒーローズ』で圧倒的に面白いのは、ルイス・クー演じる悪役のチョウ・シウロンなのである。

圧倒的にベタな悪役描写が冴え渡る!


シウロンの役所は最高だ。なんせ北洋軍閥のボスの息子で、もうけっこういい歳なのに「お父さんは殺したかったらどんどんぶっ殺していいって言ってたんだもん!」と父親を盾に罪のない村人をバンバン射殺。おまけに武器は悪趣味な金ピカのピストルだ。そして射撃は下手なので弾をバカスカ外し、常に半笑いでヘラヘラしている。自分が死んだら父の軍閥によって村が焼かれるのを知った上で首を吊り、慌てて自分を助ける村人たちを見て爆笑。今時こんなにベッタベタの悪役が見られるなんて……。普段は刑事役とかが多いルイス・クーも、なんだか楽しそうである。

さらに北洋軍閥の一般兵は西洋風の制服にライフル銃を携えており、武器も装備も近代的かつ強力。そんな兵隊の集団が、平和に暮らしていた村人たちを虐殺するのである! 悪い! 悪いぞ北洋軍閥!! ゆ、ゆ、許せん!!!

つまるところ『コール・オブ・ヒーローズ』は活劇なので、見た後にスカッとしなければならない。そしてそのためには、「こいつら悪いな〜。バシッとやっつけられないかな〜」と観客が自然に考えるような悪役が必要なのだ。そういう意味で、シウロン率いる北洋軍閥の一隊はもう100点満点の出来栄えである。弱いものをいじめて村を焼くために生まれてきたような集団だ。

ここまで誰がどう見ても素朴に悪い集団というのは、最近の映画ではあまり見られなくなってしまった。ハイテクを駆使した組織犯罪とか実は隠された動機があったとかそういうのも悪くないけど、原始的な「いきなり集団で馬に乗って現れて村を焼く」というスタイルの悪役も、久しぶりに見ると「こういうのでいいんだよ!」と膝を打ちたくなる。

というわけで、この映画最大の見所は「悪」の描写の素朴さと力強さにあると思う。もちろん技術の限りを尽くしてハイスピードで繰り広げられるアクションや、圧倒的戦力差を昔ながらの武器で跳ね返す自警団メンバーのド根性も楽しい。だが、やはりそれらも悪役あってこそである。「昔ながらの素朴な正義漢と悪役が見たい!」という願望を叶えてくれる、そんな直球の娯楽映画が『コール・オブ・ヒーローズ』なのだ。
(しげる)