森が今季リーグ戦初スタメン。巧みなビルドアップでチームを落ち着かせ、鋭いボール奪取も見せたが……。 写真:川本 学

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[J1第11節]C大阪5-2広島/5月14日/金鳥スタ  広島にとって、C大阪戦は大きな意味を持つゲームだった。  慢性疲労症候群の再発から復帰した森粼和幸が、今季リーグ戦初スタメン。青山敏弘との“黄金ボランチコンビ”が公式戦16試合目にしてようやくゲームのスタートから揃い、現時点で考えられるベストメンバーで臨んだからだ。  ビルドアップと中盤でのボール奪取――。降格圏に低迷するチームが抱える課題に対し、少なからず改善は見られた。攻撃では、森粼が最終ラインに落ちてバランスをとることで青山が中央でチャレンジでき、これまでほとんどなかった前線への長い縦パスが入るようになった。守っては、鋭いタックルでボールを狩るなど、広島が球際でボールを奪うシーンでは、必ずと言っていいほど背番号8の姿があった。  ピッチ内の選手たちは、「(カズさんは)守備でも攻撃でも、激しさを持って行くべきなのか、冷静に仕掛けるべきなのか、常に判断良くコントロールしてくれる。ゲームを操る能力は本当に凄い」(林卓人)、「ビルドアップは上手く出し入れできていたと思う」(千葉和彦)と“森粼効果”を口にし、森保一監督も「チームに落ち着きと、やろうとしていることへの自信をもたらしてくれた」と称賛の言葉を送る。  しかし、今の広島が迷い込んでいるトンネルは、森粼を持ってしても出口まで簡単にたどり着けないほど深い。本来であれば、アンデルソン・ロペスの先制ゴールで有利に試合を進められるはずが、安易なボールロストからカウンターを食らい、セットプレーではマークを振り切られてあっさり失点。かつて「鉄壁」と言われた千葉和彦、水本裕貴、塩谷司の3バックが脆くも崩れ去り、2014年8月の鹿島戦以来となるリーグ戦5失点を喫した。  試合後、森粼は開口一番「完敗です」と唇を噛んだ。 「正直、(チームの状況は)悪すぎますね。僕も含めて1対1で負けているんで、もうその時点で負けかなと。球際で戦えていない? うーん……、表現は難しいですけど、球際とかそういう問題じゃない。球際で負けたとしてもファウルさえできていないわけで。結果が出てないからなのか、自信がないからなのか、単純に力が衰えてきているからなのか、はっきりした要因は分からない。いずれにしても、力がないなと感じました」

 復帰したばかりの森粼に過度の期待は禁物とはいえ、3度のリーグ優勝と2度のJ2降格を経験している唯一無二の精神的支柱に頼らざるを得ないのもまた事実だ。そんな自信を失いかけているチームに、森粼は「諦めたら終わり」とメッセージを送る。 「自分たちが置かれている状況は、本当に厳しいと思う。でも、諦めたらそこで終わり。今日の試合で言うと、自分とチームの力量が分かったことが収穫だった。一人ひとり思うところはあるはずだから、残留を懸けて、まずは個人として戦えるように、そして組織としてしっかり戦えるようにしていきたい」  “ドクトル・カズ”は苦境に立たされたチームを救うことができるのか。今がまさに生き残りを懸けた正念場だ。 取材・文:小田智史(サッカーダイジェスト編集部)