「漢字」、一文字一文字には、先人たちのどんな想いが込められているのか。時空を超えて、その成り立ちを探るTOKYO FMの「感じて、漢字の世界」。今回の漢字は「伸びる」、「追伸」「伸縮」の「伸」。五月五日のこどもの日、兄弟と背比べをした人もいるかもしれません。少しでも高くみせたくて、柱の前で背伸びをした日が懐かしく思い出されます。



「伸」という字は、にんべんに「申」と書きます。

「申」は、稲妻の形を描いた象形文字。

縦線を軸にして右や左に光が屈折して伸びる様子を表しています。

そこに、人の動作や様子を表す部首であるにんべんをあわせ、人が「のびる・のばす」という意味をもつ漢字となりました。

三月の上旬、春の始まりを告げるように鳴る「春雷」。

「虫出し」とも呼ばれるこの雷は、冬ごもりしている虫を起こします。

その雷は、本格的な農作業を始める合図となり、人々は土の塊を砕いて田起こしをし、水を引いて苗を植えるのです。

春から夏に向かって雷の日が増えるこの季節は、ちょうど、稲が伸びてゆく時期と重なっています。

万葉の時代から、夫婦や恋人は男女を問わず「つま」と呼びました。

稲妻の語源は稲の「夫(つま)」。

いにしえの人々は、雷の光が夫として稲に子を宿らせると信じていたのです。

恵みの雷に続いて、しとしとと降り注ぐ春の雨。

神の愛を一心に受け、稲がすくすくと伸びてゆきます。

ではここで、もう一度「伸」という字を感じてみてください。

植物の根が最も伸びるのは、水も養分も乏しいときだといわれます。

決してあきらめることなく、見えないところで四方八方へ伸びてゆく根っこ。

「雑草学」でおなじみの植物学者、稲垣栄洋氏は、その生態から得た教訓を私たちにこう、伝えます。

「干されたときこそが成長のチャンスである。土の下に伸びた根っこは、目に見えないがその植物の実力そのものである。」

これを裏付けるように、毎日水を与えられる庭の草花が日照りでしおれても、誰も水をやらない道ばたの雑草はいつだって青々と茂っています。

悪条件のもとでも腐ることなく気持ちを切り替え、根っこを伸ばし続けようとしたものだけが、真の力を手に入れる。

子どもも大人も植物も、苦しいときこそ、伸びどきなのです。

漢字は、三千年以上前の人々からのメッセージ。

その想いを受けとって、感じてみたら……、

ほら、今日一日が違って見えるはず。

*参考文献

『常用字解 第二版』(白川静/著 平凡社)

『雑草に学ぶ「ルデラル」な生き方』(稲垣栄洋/著 亜紀書房)

5月13日の放送では「手」に込められた物語を紹介します。お楽しみに。

<番組概要>

番組名:「感じて、漢字の世界」

放送エリア:TOKYO FMをはじめとする、JFN全国38局ネット

放送日時 :TOKYO FMは毎週土曜7:20〜7:30(JFN各局の放送時間は番組Webサイトでご確認ください)

パーソナリティ:山根基世

番組Webサイト:http://www.tfm.co.jp/kanji/



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聴取期限 2017年5月14日 AM 4:59 まで

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