ライター・編集者の飯田一史さんとSF・文芸評論家の藤田直哉さんが、YouTuberの人気を分析するシリーズ。今回はPDRさんを取り上げます。

3人兄弟でふたりがYouTuber



飯田 PDRさんはブラックジョークが好きな毒舌イギリス人YouTuber。英語チャンネルもあるけど日本語のほうが人気。あと彼女(妻)のMIMEIもYouTuber。 UK感ある。J・G・バラードに通じる性格の悪さとナチュラルな差別意識。動画はカット割りして自分と対話するスタイル。



PDRさんもシバターと同じく(?)YouTuber評論家的なこともしている。UUUMに所属していないのでUUUM所属のYouTuberをいじり放題、YouTubeJapanのこともディスり放題。でもときどき絡んでる。弟のPDS株式会社もYouTuberで、こっちはUUUM所属。3人兄弟でふたりYouTuber、ひとりはよしもとに(一時期?)所属のお笑い芸人だと。

藤田 次男はアメトーークのハーフ芸人の回に出たペイン・ミカエル・森之介さん。三男は元ジャニーズのペイン・ダンテ・将之介さんですね。たまに動画に出てますね。芸能エリート兄弟じゃん! ってのと、イケメンってので、ぼくはもうやる気なくしていますが。

飯田 www

藤田 イケメンですねぇ……。英語がうまいですねぇ……。弟さんのYouTuberをよくいじっていますねぇ……。UUUM批判をしていますねぇ……。そこまでしか、ぼくにはわかりませんw



あとは、「家がリアル」ぐらい。

飯田 家がリアルwww意味がわからないwwwww
YouTuberにハマっているキッズにとって、シバターと並んで最初の批評家的存在になっているんじゃないかと。没入して観る、ファンになって観る以外にも物事の見方があることを教えていると思う。ミもフタもなくYouTuberの実態をおもしろおかしく暴いている。PDRさんとシバターがほかのYouTuberについてしゃべっている動画をいくつか観れば、観ればYouTuberのマッピングとかだいたい批評的な地図が手に入る。
PDRさんによる他のYouTuberいじり(論評)動画は20万回再生とかしているわけで、この界隈に対する評論の需要もあるはずなんだよ。紙媒体の編集者はもっと反応したほうがいいですよ。ムリだけど。

藤田 そうですね、他のYouTuberについて言及している動画が多くて、人気ですよね。絡みそのものも多い。はじめしゃちょーとか、マホトとか。



YouTuber界のはてブ民


飯田 PDRさんは自分の部屋で撮ってるんだけど本棚がアメコミだらけ、フィギュアだらけで、本人はブラックフラッグとかスミスのTシャツ着てる。オタクっちゅうか、古きよき(?)サブカルノリですね。
モンティパイソンとか『サウスパーク』に近いと思う。グロいのとか、バカをいじるとか、マウンティングしたいというきもちを満たしている。表現が強い。血とかゲロとか液体が噴き出すのが多い。デスソースも。対話形式にしてブラックなのもやわらげてはいるけど。



あとMADっぽい。勝手に画像あちこちから持ってきたり、唐突な画面切り替えとか、強引にわらかすところとか。
日本のネット界で言うと、はてブ民とノリが似てる。基本、上からのツッコミ目線なんだけどボケるのも好きという。動画界の村民的ポジションだと思えばわかりやすいのでは。
イケメン外国人という時点で日本においてはある種「外」からの意見として処理される点をうまく使っていると思う。日本人が言ってたらもうちょっとカドが立っていたかもしれないことも「キャラ」で許されてガンガン言えるw

藤田 イケメンがメタ視点に立っても、嫌味なんだよ! シバターさんみたいに、身体を張って、自身を掘り崩すメタをやらないと!

飯田 言ってることも、わりとファンが許容できる程度の悪口ですね。ドン引きしない程度の毒舌。マツコデラックスや有吉弘行人気と近いと思う。もちろん、ネットのほうが毒の許容度はそもそもが広いけど。PDRさんは孤独じゃないから観られる。ちゃんと友達いそうだから。これでぼっち臭がしてたら相当痛いやつに見えたと思う。

藤田 しかし、彼も、複数の「視点」(YouTuber以外の、芸能界。あるいは、海外)を手に入れているからこそ、YouTuberの特異性を批評できているのかもしれませんね。

飯田 そうかも。

藤田 YouTuber批評をするYouTuberを批評している私たちは、どういうポジションなんでしょうか。神?

飯田 さあ……。YouTuberって閉じてるんですよ。そのなかで生態系が完成されていて、外からの視線が全然ない(気がする)。でもこんだけ盛り上がってるんだから覗いてみよう、という野次馬根性ですかね。
PDRさんは嫁さん(MIMEI)がニュージーランドで弁護士になるために留学してYouTubeお休み状態なんだけど、弁護士になる理由が「お金が大事だから」と言っていたりするので、PDRさん本人の職業観も一般的なYouTuber像とはけっこう違うでしょうね。



ただPDRさんにしてもシバターにしても、一般社会に対する論評はあまりない。基本、YouTube界の狭い人間関係ネタが多い。そういう意味では社会性が高い動画ではない。毒舌だけど身内いじりだから無害。

この世は不公平で理不尽


藤田 「嫁さん(MIMEI)がニュージーランドで弁護士になるために留学してYouTubeお休み状態」って、しかも美女とイケメンのカップルで、しかも弁護士みたいなちゃんとした仕事について、家族もちゃんとうまくいってそうで、実に腹立たしい連中ですね。
死ね!

飯田 お、おう……。

藤田 ……話を戻すと、同じメタ視点を導入し、YouTuber批評をしている人でも、シバターさんとは違いますよね。余裕があって、自分自身はそんなに巻き込まれず、高みにいる。まるで批評家のようではないか! 何様なんだ! 人様が一生懸命作ったものを、上から目線で安全圏から論評して! この野郎、イケメンなのと嫁がいるのが、許せない。もっと、友達も一人もいない非正規雇用が夜中にボソボソとUUUMの悪口を言ってりゃいいのに! 畜生!! この世は、不公平で理不尽だ! 神よ! 救いたまえ!!
 おわりです。

飯田 完