世間は夏休みに入りましたが、フリーとして活動する記者に休みなどありません。というか、仕事が無いと不安になってしまう。「忙しいのは幸せ」こそが、偽らざる本音です。とは言え、人間なんだから疲れを癒やす時間は絶対に必要。
でも、ワーカホリックって休み方がヘタクソです。貧乏性ゆえ、時間が空くと仕事したくなるし、ぼーっとした時間に罪悪感を覚えてしまう。

これ、絶対に良くないですね。無理してでも心と体を休ませるタイミングを設けないと、いつか無理がたたって大変なことになりかねない。

お金を払って「暇」を買うフェス


というわけで、こんなイベントへ行ってきました。昨日(8月12日)の24時〜朝5時まで開催されたのは、その名も「暇フェス」(前売2,000円/当日2,500円)。


イベントサイトには、こう書いてあります。

年々忙しくなる現代人。今一番不足しているのは、「堂々と暇」できる時間かもしれません。暇フェスは、そんなあなたに、極上の暇を提供するイベントです。
暇ムービー。暇ソング。暇ネタ。新しすぎる暇コンテンツが、あなたを究極的にリラックスさせてくれます。
さぁ、一緒につぶやきませんか? 「暇だなぁ」


なんとも魅力的なイベント趣旨ですが、もっと詳しい部分を知りたい。そこで、「暇フェス」主催メンバーの一人であるプロデューサー・澤田智洋さんに話を伺いました。


澤田さん 僕自身、仕事ですごく忙しいんですが、僕だけじゃなく今の30代ってみんな忙しいんですよね。それどころか「忙しいのは当たり前、暇は悪」みたいな風潮がある。でも、「暇」が明日への英気を養うと思うんです。ところが、「暇していいよ」という空間は案外無いんです。たとえば僕は妻も子どももいるので、家で本を読んでいると「育児、手伝ってよ」となる。
――なるほど。
澤田さん 実は、堂々とお金を払って暇を買える場って無いんです。音楽フェスに行くと忙しいし、帰り道はヘトヘトになります。温泉とかもそうですね。だから、帰り道にヘトヘトにならないイベントを作りたかったんです。

どうやら「暇フェス」は、帰り道にヘトヘトにならないイベントらしい。その証拠に、フロアをご覧ください。


これは、ショップ「GADGETBANK TOKYO」から提供されたエアソファー。お客さんはここに寝ながら、パフォーマーが展開する“暇コンテンツ”を鑑賞していい。それどころか、ガチで眠ってもいいらしいです。まさに、お金を払って暇を買うフェス!
「横になって“無”になり、プランクトンみたいな体勢でご鑑賞いただきたいですね(笑)」(澤田さん)

パーク・マンサーが煽る!「皆さん、暇してますか〜?」


実はこのフェス、主催メンバーにあの三代目パーク・マンサー from 軟式globe。’14が名を連ねているんです。というわけで、フロアでまったりしているお客さんの前にパークが姿を現し、煽ります。


パーク・マンサー 皆さん、暇してますか〜?
お客さん オー!
パーク・マンサー 何しに来たんだ。

さて、このフェスではどんなパフォーマンスが展開されるのだろう? プログラムを確認すると、パフォーマー勢は無駄に一流どころばかりでした。
まず、音楽を流してくれるのはKAZUHIRO ABOさん。年間200本近いギグで無偏見に全国津々浦々の老若男女を踊らせ続け、なおかつ桜木DJアカデミーの代表でもあるトップDJです。


いつもはパーティの内容によってある程度の選曲は想定しているというABOさんですが、今回はどういう雰囲気になるか事前に想定できず、普段に輪をかけて即興性の高いプレイが求められているよう。今日はダラダラしてるお客さんを前に、主にまどろみ系の曲がチョイスされています。
「お客さんに引っ張られてます。この人たちの『暇』を一段高い次元に持っていきたい(笑)」(ABOさん)
アゲアゲなEDMは楽曲構成が2分〜2分半に1度のペースでクライマックスが訪れますが、今回の選曲ではそういうピークは無しです。お客さんを暇なままでいさせるため。

何しろ、見てくださいよ。フロアでトランプし始める集団まで現れ始めたから。


何やってんだ……。っていうか、トランプを持って来てること自体に驚きだから!
「ありがたいですね。イベントの趣旨をご理解いただきまして」(澤田さん)
ありがたいって……。

と思いきや、今日パフォーマンスをしてくれるギタリストの方が出番前に「仮眠する」といきなりフロアに寝転び出したし……。


当日の会場となった「microcosmos」(渋谷区)、普段はアグレッシブなダンスに励む人が当たり前にいる場所なのに、今日だけはバタンキューする人が続出。なんだ、この世界は! あと、パーク・マンサーが料理してるだけの映像がフロア内で延々と流れているのも不可解です。



こんな常軌を逸した雰囲気で、プログラムはドンドンと進んでいきます。『じわじわチャップリン』(テレビ東京系)でおなじみの全力じじぃが漫才を披露してくれたし、


とりたくちゃん from アンコ the KANCREWが一人コントを披露してくれたし、


パーク・マンサーはライブしてくれたし、


どれもムチャムチャ面白くて基本フロアも沸いているのですが、それでも時に「フアーッ!」というあくびの声や「ガーッ」といびき音が聴こえたりするから、一体感はまるで無し。でも、いいんです。お客さんの最大の目的は、「暇」を満喫することなのだから。
「今回は一流のパフォーマーを呼んでるのに大した告知もせず、あえてあんまりお客さんを呼んでません。いっぱい人がいると、おしゃべりしちゃうじゃないですか? ということは、暇じゃなくなっちゃうんです。おしゃべりで忙しくなっちゃう」(澤田さん)

トランプしてる集団を見て「目的は達成した」と、主催者が


さて、そろそろ「暇フェス」終了時刻が近付いてまいりました。フロアを見ると、普通に寝ている人が多数。そこにパーク・マンサーが現れ「朝ですよー!」と絶叫。


朝5時にみんなが寝起き状態のままダルそうにダンスして、今回のイベントの幕は閉じました。



この「暇フェス」、どうやら2回目、3回目の開催も予定されているらしいです。
澤田さん 今回で手応えを感じたので、次回はキャパをもっと広くしたいですね。
――でも、場所を借りるお金もバカにならないでしょう? なのに、あえてお客さんを多く集めていない。かなり、予算的に痛いと思うんですが……。
澤田さん ああ、完全に赤字ですよ! でも、いいんです。目的は、ちゃんと達成しています。(トランプをしている集団を指差し)彼らが満足なら本望です(笑)。

「暇をお金で買う」とは、言い得て妙。まさに、そうとしか表現できないフェスでした。
(寺西ジャジューカ)