毎日、不規則な生活を送っています。朝起きたと思ったら、次に寝るのは24時間後の朝だったり、起床時間も朝だったはずが段々ズレて夕方になり、それが終いには夜になったりして……。
さらに、睡眠の質まで悪くなっている気がしています。眠りから覚めるとダルいし、疲れが全然とれてないし。体重増加、老化と身に覚えはあるものの、改善方法がまるでわかりません。さて、どうしたものか……。

人為的に「寝落ち」を体験させてくれるお店


そんな時、ある店舗の情報を目にしました。“日本で最初の頭の専門店”を名乗る「悟空のきもち」(本店・京都)が7月に銀座店をオープンし、話題になっているのだそう。


この新店、なんと「ほぼ気絶の寝落ちサービス店」を謳っているんです。なんだ、そりゃ!? これは、是が非でも体験したいぞ。……というわけで、取材を申し込んでみました。

さあ、お店へやって参りました! 今は、深夜の寝苦しさに難儀している8月某日。もどかしさを携えながらお店へ足を踏み入れると、こんな内観でした。


これは“夜の雲の上”をモチーフにしているとのこと。ふわふわとした雲の上で、ぐっすり眠るということかしら?
ちなみに台座は5台あり、確認するとこんなでした。


あらぁ、真っ赤!
「遊園地の絶叫マシーンを意識して椅子を赤にしています。皆様から、眠りに入る“落ち方”でご好評いただいていて『ジェットコースターのような寝落ち』と表現されていたので、本当にジェットコースターみたいにしようと思いました。眠るのなら、本当は赤じゃない方がいいんですけど(笑)」

お答えいただいたのは、「悟空のきもち」銀座店のスタッフであり「ヘッドマイスター」の金田美咲さん。


というか、この「悟空のきもち」という店名はどこから来ているんですか?
「『“悟空の輪っか”を外そう』というのがお店のコンセプトです。頭が締め付けられているのをほぐし、それを外したらどんなに気持ちいいんだろう? という思いから来ています」(金田さん)

兎にも角にも、私を寝かせてみてもらいたい。まだ、本当に寝落ちするのか半信半疑なんで。では早速、お願いします!


まずは、軽く頭を触られました。そして、その0.5秒後に「あっ、むくんでますね(笑)」と言われてしまった記者。そして、首を触られたら「張ってますね」と。そうなんです。ここ1年、生涯で初めて肩こりを経験し、それからは癖になってるんです。っていうか、もうわかったんですか!?

そこからは、頭上部や後頭部を揉んでいただきます。これが、はっきり言って“痛気持ちいい”のレベル。“気持ちいい”だけでなく“痛い”もあるんです。こんなんで、本当に眠れるのだろうか? あっ、でも次第に痛みがなくなってきた気がする。こうなったら、もしかしたら寝ちゃうかもしれな……。
「はい、終わりました」(金田さん)
どうやらスタートから10分後にはいびきをかいてて、計40分ある施術時間の4分の3は夢の国にいたらしいです。まさに、寝落ち!

で、私っていつも寝起きが悪いんです。毎日、目覚めてから動き出すまでベッド内で1時間ほど過ごすのもザラ。でも、今回は大丈夫。というか、生き返った感さえある。寝起きのまま、インタビューに突入します。

普通ではありえない「絶頂睡眠」は、“気持ち良さ”と“睡眠”を両立させる


金田さん 頭がものすごくスッキリする感じを味わってもらおうと、8年前に“日本で最初の頭の専門店”として京都に本店をオープンしました。なぜ頭かと言うと、肉体的な仕事をしている人は体の疲れをとりたくなりますが、現代はパソコンで仕事をする人が多い。「頭が疲れている人が多いのに、取り除いてくれる所がない」と思い立ち、直接的に癒やす“頭だけのほぐし方”を当社で開発しました。頭をふわふわに作り変える技術です。

どうやら、当初は「頭の疲れをとる」のみが目的で、「眠らせる」については想定していなかったそう。
金田さん ただ、施術中に寝てしまうお客様が多かったので、3〜4年くらい前から“眠らせる技術”の研究もスタートしました。さらに、ただ眠るだけでなく「眠りの落ち方に違いがある」ことに気付いたんです。通常は、イメージとしては“安堵型の睡眠”で、安心していって次第に“スーッ”と落ちる状態になりますが、当店が行っているのは「絶頂睡眠」という施術です。ドンドン気持ち良くなって、気持ち良さが頂点になった時に“ガコン!”と落ちるという。

――普通、気持ちいいと眠れないですよね。
金田さん “気持ち良さ”と“睡眠”を両立させます。だから正直、昔より眠っていただくまでに時間がかかっています。気持良くなっていただいてから、一気に“ガコン!”と眠りに入るので。昔は8分くらいで眠る方が多かったですが、今は10分くらいを要します。

また、お店側からしても寝てもらうことによるメリットがあるそうです。
金田さん 眠っていただいたら、実はそこからが本番なんです。寝てもらうと、私たちに頭を預けてもらえるんですね。その状態でほぐしたりコリをとったり、むくみをとったりしながら、均等な状態へと治していきます。眠っていただいている方が、遥かに頭の状態が作りやすくなるんです。

「睡眠」の絶頂とは何か? それは「寝落ち」だ


ところで、どうしても「絶頂睡眠」というワードが気になります。これは、人間の三大欲求で喩えるとわかりやすい。まず、「食欲」について。とてつもなく美味しいものを食べた時、絶頂しそうなほどの快楽が訪れませんか? もちろん、「性欲」にも絶頂はあります。
金田さん 睡眠の絶頂がどこか考えると、たぶん“寝落ち”だろうと(笑)。なので、“最高の寝落ちの瞬間”を色々と研究しています。

――私は施術していただきながらいつの間にか寝ていたんですが、一体どうやって私を眠らせたんですか?
金田さん どちらかと言うと、リズムです。普通にほぐすのではなく、どのリズムで“トントントン”と触ると気持ちいいか。そして、脳幹からはドーパミンという快楽物質が分泌されます。脳幹にできるだけアプローチするような触り方をすると、少なくとも絶頂状態には近くなります。「寝る」ための最高に気持ち良くなるテクニックを駆使しています。

ここ一番直前に「絶頂睡眠」でリセットさせるサラリーマン


「悟空のきもち」を利用する人は、やはりビジネスパーソンが多いそう。会議前のサラリーマンがここ一番のプレゼン前に予約を入れ、万全の状態で本番を迎える。もしくは試験前に受験生が利用して、本番での“冴え”を引き出す。
金田さん 女性で睡眠系の悩みを抱えている人が多いので、キャリアウーマンの方によるご来店も多いです。頭皮の状態のバランスが良くなったら睡眠の質が改善するので、施術日の夜はかなりグッスリ眠れると思いますよ。

――一時的なものではないんですね。
金田さん はい。頭皮がやわらかくなると、一週間くらいは睡眠に“ストン”と入れるようになります。
――眠りの入り方もそうだし、深さも変わってくるし。
金田さん あと、男性にはなかなかわからないと思いますが「目がちょっと大きくなる」「目が前より開く」というお声も多いです。外に出たら、いつもよりまぶしく感じると思いますよ。

揉まれながら「ライターっぽい頭」だと思われていた


――それにしても、今喋ってても首に張りがないのがわかります。普段、張りがすごいので。
金田さん 仕事柄でしょうね。セラピストは、触るとだいたいお客様がどんな生活をしているかとか、職業などを言い当てちゃいます。
――「パソコンをずっと見てるんだろうな」とか?
金田さん 「公務員っぽい頭」「政治家っぽい頭」っていうのもあります(笑)。頭に出るみたいです。
――「政治家っぽい頭」っていうのがあるんですか(笑)。じゃあ、私も触られながら「ライターっぽい頭」って思われたんでしょうか?
金田さん はい(笑)。

ちなみに、この「悟空のきもち」は海外への出店も考えているらしいです。
金田さん 来年辺りには、ニューヨーク出店を考えています。
――日本人とアメリカ人では、体の作りが違いそうですが……。
金田さん いえ、頭に関してはほとんど変わらないんです。と言うのも、頭は数ミリの世界なので。事実、施術中のセラピストは手にほとんど力を入れていないんです。薄いので、強い力に感じるだけなんですね。頭をストレッチさせている状態で、綺麗に一番動く状態を作っていきます。
――だから、私も次第に痛みを感じなくなっていたんですね。
金田さん そうですね。動かし始めは痛みがあったと思いますが、動いてきたらもう大丈夫だと思います。あの、寝てたから大丈夫だと思います(笑)。
――痛かったら眠れないですからね(笑)。

お店を出て、外を歩き始めると、自分の中で妙な達成感があることに気付きました。ジェットコースターを降りた後の「終わったぁ〜!」という晴れやかさというか。何せ、絶頂状態から“ガコン!”と寝落ちしたばかりなので。
この気持ち良さに惹かれ、同店のキャンセル待ちは4万人を超えているそうですよ!
(寺西ジャジューカ)