今だからこそ読みたい絵本です。

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相模原の障害者施設殺傷事件が世間を賑わせている。本当に悲しく、許しがたい残虐な犯罪である。
だが、これを機に、改めて私たち一人一人が考えなければいけないのは「健常者・障害者」といった境界線の曖昧さと、にもかかわらず世にはびこる、自身の「無知」からくる差別や偏見の多さだと思う。

ここでご紹介したい絵本がある。原書はアメリカで2010年に刊行され、今年6月に日本で翻訳された絵本、パトリシア・ポラッコ氏の自伝的なお話『がらくた学級の奇跡』(入江真佐子訳/小峰書店)だ。

ポラッコ氏は、識字障害を持つ少女・トリシャが担任の先生の助けによって文字が読めるようになるという名作絵本『ありがとう、フォルカーせんせい』(岩崎書店)の著者で、今作はその続編的なもの。
識字障害を克服したトリシャが誰も自分を知らない新しい学校へ転校し、「だれもあたしのことをからかったりしないだろう」と期待していた矢先、「がらくた学級」と呼ばれる特別クラスに振り分けられる。
トリシャは悲しみ、落ち込むが、型破りの担任・ピーターソン先生のもと、「すごく変わっていて個性的」な仲間たちとともに、自分たちの夢を実現すべく奮闘する。

「がらくた学級」は、ときには周囲から心ない言葉を浴びせられたり、意地悪をされたりする。そんなとき、「ぼくたちはくずなんだ、がらくたなんだよ」と言う子に、「がらくた置き場」がどんなところか、先生はこう教えるのだ。

「すばらしい可能性に満ちた場所なのよ! 曲がったりこわれたりして捨てられたように見えていても、ほんとうは何かすばらしい、新しいものに生まれ変わるのを待っているのよ。意外なもの、驚くようなものにね」

一見「がらくた」に見える子どもたちの中に、どれほど素晴らしい才能が眠っているかを先生はしっかりと見抜き、大事に育てていく。

実際、作者のポラッコ氏は14歳まで識字障害に苦しみ、それを隠して暮らしていたが、ある先生との出会いと気づき・援助によって克服。その後、大好きな絵を専門学校や大学で学んで、41歳から絵本を描き始めている。
まず本書から教えられるのは、「角を矯めない」ことの大切さだ。
そして、自分の小さな物差しだけで、他者を、世の中を「優れている・劣っている」などと単純にはかれると思い込んでしまう愚かさ。自分に理解できないものは「価値のないもの」と判断してしまう恐ろしさ。

もしかしたら、くだらなく思えるもの・無駄で意味がなく思えるものは、それを判断する自分の「受信力」の低さが原因かもしれない。
自分も含め、子育て世代にとっても、非常にストレートで厳しいメッセージが、この絵本にはある気がする。
(田幸和歌子)