「聞き流すだけで英語が話せるようになる」なんて英語教材が盛んに宣伝されているが、「聞き流すだけでヒコーキマニアになれる」という乗り物好き必見のスポットがあることをご存知だろうか。



ボーイング747の機首が出迎えてくれる「航空科学博物館」


その場所とは、千葉県・芝山町にある「航空科学博物館」。道をひとつ挟んで成田空港と隣接するこの博物館は、空港の展望デッキとは異なる角度から滑走路を一望できるスポットとしても人気。展望室からはJAL・ANAをはじめ、エアライン各社の格納庫が近くに見え、たくさんの航空機が駐機する様子を眺められることもある。



“伝説のヒコーキ”に触れられる屋外展示!


円形をしたガラス張りの塔が中央に立つ外観は、何だか特撮ヒーローの秘密基地を思わせる印象。さっそく館内に入ろうと思ったが、その前に気になってしまったのが、屋外に展示された航空機やヘリコプターの数々。かつて現役だった機体が静態展示されていて、中には機内に入れる機体もある。なかでも注目は、約50年前に開発された「YS-11」という機体だ。



昨年、三菱飛行機の開発した国産旅客機・MRJが初飛行を成功させて話題を呼んだが、このYS-11はMRJが開発されるまで、日本唯一の国産旅客機だった“伝説のヒコーキ”。昭和37年(1962)に開発され、昭和48年(1973)までに182機が生産された。ここにあるのはその試作1号機で、晴天時は内部に入ってコックピットの様子などを見ることもできる。


そんな伝説の機体を興奮気味に写真に収めている間にも、「ゴォ〜!!」と風を切り裂く轟音を上げながら滑走路に着陸していく旅客機が、近くの上空を何度も通過していく。

館内にも巨大スケールの実物展示が!


空港の金属探知機を模したゲートをくぐり、左手に進むとある西棟1階にはジェット機に関する展示がある。ここには“ジャンボジェット”として知られている2階建て旅客機、ボーイング747の機体の一部が主に展示されている。巨大なエンジン付きの主翼のほか、奥には輪切りになった747の機体もある。



思わず口を開けて見上げてしまう機体の中には、なぜかホンダの大型バイクがすっぽりと収められている。解説によれば機内の広さを感じられるように置いているとのこと。ほかにも、パイロット気分が体感できる操縦シミュレータがあったりと楽しそうな展示が盛りだくさん。





マニアじゃなくても面白い“滑走路実況”




さてさて、そんな展示もさることながら、今回の一番の目的は博物館5階の展望室にある。こちらでは土・日曜と祝日を中心に、空港を離着陸する飛行機の解説が行なわれている。

博物館の解説というとゆったりした様子を想像するが、1日に600回以上の離着陸がある滑走路の解説はそんなイメージとは異なる疾走感で進む。双眼鏡片手に解説員が次々と話していく姿はいわば“空港ライブ実況”と呼べるようなハイテンション。

例えば、たった2分少々の解説でも次のような感じである。

《以下、実際の解説より抜粋》

滑走路では今、ボーイングのB777型機“トリプルセブン”と呼ばれる機体がスタンバイしています。こちらはユナイテッド航空の飛行機で、3時間ほど前にアメリカのニューヨークから飛んできましたが、ニューヨークには戻らずに、これからヒューストンに向けて離陸します。この尻尾のデザインは、以前はアメリカのコンチネンタル航空という会社が使っていたマークですが、今ではユナイテッド航空に使われています。数年前にユナイテッドとコンチネンタル航空が合併して、会社名はユナイテッド航空に統一され、尻尾のマークはコンチネンタル航空のものが継承されているんですね。

これからヒューストンに飛ぶこの機体は、もともとコンチネンタル航空のもので、合併に伴って会社の名前のところだけコンチネンタルからユナイテッドに書き換えたものなんですね。ヒューストンはもともとコンチネンタル航空の本社があった場所ですが、今はユナイテッド航空のハブ空港になっています。13時間半かけてニューヨークから飛んできた飛行機がたった3時間ほど休んだだけで、ヒューストンに向けて12時間半飛ばなければいけないんですね。





昔はエンジンが3つ以上ある飛行機でないと、なかなかニューヨークやヒューストンまでノンストップでは飛べなかったんですが、最近はエンジンが滅多なことで故障しないので、アメリカでもヨーロッパまででもエンジン2つの飛行機で飛べちゃいますね。
あっ、今すれ違った飛行機も長距離便で、全日空のニューヨーク行きの飛行機ですね。

昔はジェットエンジンが故障することが多かったんですね。エンジンが2つだけだと片方が故障してしまうとエンジン1個だけになってしまいますから、昔は2つでは不安だという考えだったんですね。特に長い距離を飛ぶ時は、安心・安全のためにエンジンは3つ以上なければという考えだったんです。最近では滅多なことでエンジンが故障しなくなりましたから、エンジン2つの飛行機でもアメリカでもヨーロッパでもどこでも飛べてしまいます。エンジン2つの飛行機と4つの飛行機を比べると、やっぱりエンジン2つの方が燃費が良いですし、整備にかかるコストも小さく済みますね。ちなみに今だと、こうした大型機のエンジンはひとつ20億円くらいします。

《抜粋終わり》

航空会社や航空業界の歴史、航空機の仕組み、さらには空港のウラ話など、次々に繰り出される詳細な情報量。こうした解説が昼過ぎから閉館まで4時間以上にわたって行われるのである。
このほかにも、既存エアラインとLCCの料金比較の話や、貨物便の多い成田航空ならではの航空貨物の話など、内容の濃い話が続々。まさしく「聞き流すだけでヒコーキマニアになれる」スポットというわけだ。

冬は滑走路の夜景もキレイ!





学芸員の金田彦太郎さんに伺うと、この解説が始められたのは約10年前のこと。空港や飛行機への理解を深めてもらうため、数名のボランティアと協働で始めたという。
「機体の値段のような“おカネの話”を交えたり、今ならタックスヘイブンで話題になっているパナマの話のような時事ネタを交えたり、身近に感じられる話題を結びつけながら、誰にも楽しく、興味を持ってもらえる解説を心がけています」と話す金田さん。
「夏は15〜16時頃に“飛ぶホテル”と言われるエアバス380が見られますし、冬は閉館前に日が落ちるので滑走路の夜景が見られます。双眼鏡を持って来ていただくと、解説がさらに楽しめますよ」とオススメポイントも教えてくれた。
博物館までは、成田空港やJR成田駅から博物館行きの路線バスが出ているほか、JR東京駅八重洲口から博物館直通の高速バスも運行しているので、都内からのちょっとしたお出かけを考えている人は次の選択肢に入れてみてはいかがだろう。

航空科学博物館
千葉県山武郡芝山町岩山111-3
開館時間/10:00〜17:00(最終入場16:30)
休館日/月曜(祝日の場合は翌日)
入場料/大人500円、中高生300円、子供200円

(鈴木 翔)