いよいよ「夏の甲子園」が始まりますが、各都道府県の代表校が決まる地方大会、あなたの地元のテレビではどのように放送されましたか?

ネットで話題になったのが、三重県の地上波民放・三重テレビの編成です。

・7月16日(土)8:50〜18:00「高校野球 三重大会」1回戦3試合
・7月17日(日)8:50〜18:00「高校野球 三重大会」1回戦3試合
・7月18日(祝)9:50〜17:30「高校野球 三重大会」1回戦2試合

3連休中、朝から晩まで高校野球中継のみ。しかも、開会式と開幕試合は録画でゴールデンタイムに放送し、その後は全日程を生中継しました。

「高校野球熱が高いだけでしょ?」「そんなの、地方のテレビ局ならどこでもやっているんじゃないの?」と思ったあなたは都市圏の人。

テレビ局の方にお話を伺ったところ、「地上波の民放にはこれが『やろうと思えばできる局』と『やろうと思ってもできない局』の2種類ある」というのです。どういうことでしょうか。

背景にあるのは編成の決定権


高校野球の地方大会は、基本的に準決勝からNHKが放送します。民放では、同じ東海地方であっても、愛知大会は決勝しか放送されない一方で、三重大会は1回戦から放送されるなど、それぞれ全く状況が異なります。

この背景には、高校野球熱やスポンサーの確保ももちろん関係しますが、大前提として、「テレビ局が、自らの編成を自分たちの意思だけで決定できるか?」という問題があります。



独立局だから朝から晩まで高校野球を放送できる


わが国には現在、127の民放地上波テレビ局があります。そのうち114局はキー局の系列に所属している「系列局」、残る13局が「独立局」です。

「系列局と独立局では、ビジネスモデルが全く違います。同じ民放地上波といっても、収益源が違い、商売として別物と言っても過言ではないと思います」(テレビ局関係者)

系列局の放送枠には「ネットゾーン」と「ローカルゾーン」があります。このうちネットゾーンは、キー局からの番組を流すのですが、提供スポンサーが全国共通。キー局によって一括して営業が行なわれているため、系列局はキー局からの番組とCMを流すことで、「ネット保証金」という分け前を受け取ることができます。
ローカルゾーンは、系列局の意思で編成が決まる時間。その代わり、自前で番組とスポンサーを調達する必要があります。自社制作番組を流すほか、たとえキー局の番組でも購入して流しているのです。
系列局ではネットゾーンの番組は原則として必ず放送しなければならず、朝から晩まで連続で高校野球を中継することはできません。

一方で、独立局にはネットゾーンがなく、ほぼすべてを自前で編成しています。だからこそ、いざとなれば、一日中高校野球を放送できるというわけです。

都市圏にしか存在できない独立局


まさに真の地方局といえる独立局ですが、全国どこにでもあるわけではありません。

<関東>東京・神奈川・千葉・埼玉・群馬・栃木
<東海>三重・岐阜
<関西>兵庫・京都・滋賀・奈良・和歌山

このように、三大都市圏の13都府県にとどまります。

「もともと、関東は5つの系列のキー局すべてが全域で見られるので、各県のローカルテレビ局が系列に入ることができなかったという事情があります。一方で東海・関西では、愛知県と大阪府に限っては5つの系列すべてが見られるものの、それ以外の府県では、テレビ東京系列を除いた4系列しか見られないため、各県のローカルテレビ局は、テレビ東京系列に入ろうと画策したところもあったものの、結局入ることはできず、独立局になっています」(同関係者)

独立局が全国47都道府県すべてにあったら、地方民が東京のランチ情報を見るようなことはなくなり、地上波はもっと地元に密着した存在になるのではないか? と思ったのですが……。

「独立局は、都市圏にしか存在できないでしょうね。地方の系列局は、売上をキー局、東京に依存する傾向が強まっています。地方で独立局が成り立つ状況には無いでしょう。福岡周辺でも無理ではないかと」(同関係者)

キラーコンテンツの少ない状況下、地元のスポンサーからの収益のみで、独立局は経営を成り立たせているわけです。

「同じニュースの取材現場でも、系列局が大人数のクルーで来ている横で、軽自動車で1人でやってきて、自分で三脚をセットしてカメラを置いて、その前に立ってレポートを録画したら、三脚を畳んで急いで帰って、自分で編集して、テロップを入れて、そして自らスタジオでニュースを読む……なんてことをやってるのが独立局ですからね。別物ですよ」(同関係者)

独立局がある地域と無い地域では、テレビで地元の情報が流れる量が圧倒的に違います。地元のことばかりやっているチャンネルがある……。それは、選ばれし13都府県のみの特権であり、当たり前では無いのです。
(川合登志和)