「頭金ゼロでサラリーマン大家」を借金漬けにする地方銀行のウラの顔

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■簡単に自己破産しない“おいしい融資先”

東京の都心部でサラリーマンや公務員向けの一部セミナーについて指摘した前回記事(「要注意!『頭金ゼロで大家さん』のカラクリ」http://president.jp/articles/-/17882)については、筆者の元にも問い合わせが寄せられた。今年1月の日本銀行のマイナス金利政策導入以降、特に一部地銀において、こうした無理やり融資先を作ろうとする動きは加速している。

そうした手法にも、2つのタイプが存在する。まず1つ目は、セミナーで公務員や大手企業のサラリーマンなどのみを対象にしているタイプだ。この場合、購入されるのはおおよそ1〜2億円程度の地方の一棟マンションが多い。購入後、見せかけの短期賃借人は半年後にいなくなり、以後、賃料収入は想定よりずっと少額だ。さらに維持コストが馬鹿にならない。投資の失敗に気づき、大赤字の末に物件を泣く泣く売却する羽目に陥る。

さすがに価値ゼロとはならず、おおよそ半額程度で売却するケースが多い。損害は1〜2億の半額程度、おおよそ5000万円から1億円程度となる。

この際、購入者は前回記事通り30年ローンなど長期のローンを組んでいるため、毎月の返済額は小さい。公務員や大手企業のサラリーマンの場合は、ボーナス払いも入れて頑張れば払えない金額ではなくなる。

ここからが公務員・大手企業サラリーマンならではなのだが、自己破産の道を選択してしまうと、他に資産を持っていれば差し押さえられるし、かつ債権者である銀行から給与の差し押さえなどがかけられるため、勤務先に自己破産の事実を知られてしまう。結果、実質的に仕事を辞めざるを得ない。人生を棒に振るよりは、厳しくとも延々借金を返していくほうがマシだと考える人が大半なのだ。一方の地銀は、高金利による長期の大きな利益を得られるというわけだ。“安定していていおいしい融資先”たるゆえんである。

■マイナス金利で始まった地銀担当者の暴走

もっとも、現状ではこうした確信犯とは違うタイプの融資が見受けられる。融資の実績を積んでボーナスを得たい地銀の担当者や、一部の融資部門等が暴走し、自己破産等の破たんリスクを冷静に考えず、目先の案件に無理な融資を行っているケースだ。

この場合、カモは公務員やサラリーマンとは限らない。もっと広い範囲で投資を勧めることになる。そのため自己破産などで破たんして“美味しい融資先”などではなかったと気づく事になる。

しかし、こうした暴走が、マイナス金利政策のあおりで融資先を無理やりに探さねばならない一部地銀で進行しているのだ。現場に詳しい人物が、匿名を理由に取材に応じた。

「地銀の融資担当者は、銀行の利益なんてどうでもいいんですよ。そもそも地銀だって将来どうなるかわからないし、いつまで勤めるかもわからないのですから。担当者は自分のボーナスを増やすことにしか興味がないんです」

「融資担当者は、銀行からは毎日上司から融資先を見つけろと強烈な圧力がかけられており、融資先さえ見つければボーナスは増えるのです。その上司も同じです。逆に、危ない融資によって銀行の抱えるリスクが増大する事についても、そもそも自分個人とは関係のない事と捉えていますから、リスクの感覚じたいがありません」

不動産業者は次のように語った。

「今は一部地銀が、こうしたスキームに使うための地方の物件を紹介してくれと、不動産業者に広く声をかけているんです。高収益を装える物件は多くはないですから、銀行の必死さに比例して力を入れています」

「ちょうどよい田舎の物件を紹介されると、銀行は“瑕疵担保業者(※)”と呼ばれる、まさにセミナーなどをやっている業者にそれを紹介するんです。都心のセミナーで素人相手に商売するのはこの業者たちで、地銀はあくまで物件に『融資しただけ』であって、こちらに一切責任はない…とするスタンスで融資をしていきます。」

こうして、一部の地銀が裏で糸を引く形で、このような商売が蔓延しているというわけだ。先の不動産業者は語る。

「世界的な経済の混乱が収束する様子もないため、黒田日銀は今後、マイナス金利枠を拡大するとも見込まれています。すると、より多くの金融機関がこのスキームに、より低利で出てくるという危機感を抱いてる一部地銀は、今のうちに実績を多数積み上げようと、今年9月までを決戦の時として該当物件を探しているのです」

(※)瑕疵担保業者……不動産業界内での通称。正式な呼び名ではない。一部地銀に代わって不動産の売主となり、買い手に対する不動産の瑕疵担保責任や6カ月程度の収益保証を行う。実際には資力がそもそもなく、何か瑕疵があっても、その瑕疵担保責任など負えず、その際には破産させるだけの法人格である事がほ とんどだが、買い手の顧客には「瑕疵担保責任を負うから安心」として営業をしている事から、業界内ではからかって、不動産業界内では、このような通称で呼 ばれている事が多い。他に、「中間省略屋」や、もしくは一部地銀の銀行名の一部を冠したあだ名などがある。

■「過払い」CMが「不動産の債務整理」へ

無論、ここまで無理筋のセミナーを後押ししている地銀はごく一部であり、地域密着型の金融機関の大半は地道に業務を遂行している。信用金庫は今回取材した限りでは一件も見当たらなかった。複数の地銀が手を染め始めているのが現状とみている。

当たり前だが、地域の金融機関の役割は、地域に貢献する投資のため適切な規模の資金を融資し、その支援を行う事にある。そこから地域への貢献と投資家の利益、金融機関の適切な水準の利益が享受される。これが目指すべき姿のはずである。

しかしながらマイナス金利まで導入され、金融機関が無理やり融資をするように仕向けられた結果、投資の素人である公務員やサラリーマンを借金漬けにし、そこから高い金利だけを金融機関が得るというスキームが広がっているのでは、中央銀行の金融政策とは、一体何のためのものかと疑問になる。

先の不動産業者が、さらに付け加えた。

「今、テレビをつけると、よく過払い金の返金訴訟を請け負う法律事務所や行政書士のテレビCMがあるでしょう? 詳しい不動産屋の間では、あと1〜2年もしたら、あの過払い金のCMが、田舎の不動産を買って失敗した人に債務整理を勧めるCMに代わるんじゃないか、なんて話もよく聞きます。それぐらい蔓延しているんです」

筆者は海外の不動産投資をするための調査や情報提供サービスを行っているが、そのリサーチャーの志願者に、このようなセミナーに出向かせて内容を報告させたことがある。セミナーの本当の目的や各金融機関の構図をどこまで見抜けたかでその力量が簡単にわかるからだ。この程度の実態も見抜けないうちは、結果を出す事は難しい。投資とはそういう世界である。しかも、金融機関がカモを必死で探している状況下であればなおのこと、一般の人が投資を行うには、より細心の注意が必須なのだ。

(アジア インベストメント サポート マネージング・ディレクター 福留憲治=文)