「プロになることは夢であり責任」…U−16マリ代表との対戦で日本が気付かされたこととは

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 U−16マリ代表戦後、U−16日本代表を率いる森山佳郎監督の声のトーンは、いつもと違った。

「やっぱりU−17W杯で準優勝するだけの国だなと感じました。正直、僕らも自信を持ってやっていたつもりでしたが、それは全く薄い自信でした。完全にやられた。アジア最終予選に向けて、今年は負けていなかったので、ここでバキッと鼻をへし折られましたね。このままでは、世界に出ても話にならないと痛感させられました」

 とりぎんバードスタジアムで6月22日から26日に開催されたインターナショナルドリームカップ。初戦のハンガリー戦は4−1、第三戦のメキシコ戦は6−0の勝利を収めた。

 だが、第二戦のマリ戦では、相手の圧倒的な身体能力とスピード、連動したプレスからの個人技を生かした攻撃に苦しんだ。前半こそ1−0で折り返すが、後半は風下の影響もあり、圧倒的に押し込まれ、中央を2回こじ開けられての逆転負け。スピード、フィジカル、そして組織としての連動性。さらには気迫でも上回られての、まさに完敗だった。

 森山監督はこのチームの根源として、技術はもちろんのこと、「ファイティングスピリット」「球際の激しさ」など、相手と「闘う」上で避けては通れない重要な要素をずっと強調して来た。そして、このアプローチが実を結び、選手たちの考え方も大きく変わった。

 MF平川怜、福岡慎平、FW中村敬斗らが「『闘わない選手』は選ばないと思います」と話すように、森山監督の選考基準をよく理解している。自分たちが生き残っていくためにも、サッカー選手として成長していくためにも、フィジカルコンタクトや球際の激しさは、避けて通れない道として受け入れ、所属チームでも伸ばそうと意識的にプレーをしているのが分かった。

 代表活動も1年を越えたことで、チームとして浸透して来たはずだった。だが、それはマリによって、まだ本物ではなかったことが証明されてしまった。

「球際を激しく行こうと思ったのですが、相手のパワーが強くて取れないことが多かった。それ以上にマリは球際にどんどん激しく来て、日本には負けたくないという気迫が物凄かった。そういうところでも向こうが上だった。勝った時、向こうは全員がベンチから出て来たことが、それだけチームが勝ちたいという気持ちを持っていた証拠だと思った」

 日本戦のタイムアップの瞬間、マリの選手たちはベンチの選手もピッチになだれ込んで、全員が全身で喜びを爆発させた。ロッカールームに引き上げるときも大きな声で雄叫びを挙げて、勝利を喜び、讃え合っていた。その姿はまさに国を背負って戦っているからこその喜びであり、この戦いにどれだけの意欲と気迫を持って挑んでいたかの現れでもあった。

 3戦全勝で優勝を飾ったマリのヨナスコク・コムラ監督は、「サッカー選手としての最優先は代表として戦う誇りを持つこと。このチームは3カ月前に立ち上がったが、代表への誇りは全員が持っている。トレーニングの前後には必ず全員で国歌を歌う。そうすることで、代表選手としての意識をより高めている。そして全員のサッカーに対する思いは強い。マリの選手はプロサッカー選手になることが夢であり、大きな責任だ。サッカーは自分だけでなく、家族を養う大きな手段なんだ」と、誇り高き精神と選手の責任の大きさを語った。

 広大な国土の3分の1がサハラ砂漠で覆われているマリは、アフリカの中でも貧しい国で、2012年には紛争が起きるなど、国内情勢は不安定な状況にある。その中で代表としてサッカーに打ち込める環境は、自分の手で掴みとった大切な環境であった。そして、彼らは初めて母国を離れ、海を渡り、遠く日本までやってきた。