フリーとして活動している筆者は、仕事が一人で完結してしまうことが多いです。仕事場は、いわゆる自宅。要するに、外部と接触せずに黙々と原稿を書き、そして仕上げる。他者と触れ合う機会は、他業種と比較してもかなり少ないでしょう。
「孤独は寿命を縮める」とも聞いたことがあるし、これは由々しき問題だぞ……。

"共用スペース"が充実した賃貸マンション


シェアハウスに住むと、きっと楽しいと思うのです。でもその半面、鬱陶しい場面もあるんじゃないか? 二の足を踏みます。

そんな時に見つけたのが、株式会社グローバルエージェンツが展開する「ソーシャルアパートメント」なる物件でした。ワンルームマンションとシェアハウスの長所を両立させた形態をとっているらしいです。
そこで、5月1日にオープンしたばかりのソーシャルアパートメント「NEICHBORS二子玉川」の内覧会へと行ってきました。



「ソーシャルアパートメント」の最大の特徴は、"共用スペース"だそう。空間は、だいたい50〜100平方メートル。カフェやレストランと見間違えるほどの商業デザインと予算をかけて作り込まれ、住人は24時間自由に使うことができます。

●シアタースペース


二子玉川の物件ではここにシアターが下がり、ソファに座りながらの鑑賞会を好きなタイミングで開催することができます。


FacebookやLINEで「上映会やります!」と住人間で告知し、その時間に間に合うようにがんばって帰ってくる人もいるらしい。
ちなみに、床は体育館のものと同じ素材を使っているそうです。



●キッチンスペース


ソーシャルアパートメントには必ず併設されます。必ず対面で会話ができるよう設計されており、"楽しみながら料理できる空間"を意識。ホームパーティでコミュニケーションしやすい造りになっているし、もちろん個人的に使ってもOKです。
二子玉川のキッチンスペースには、デロンギのコーヒーメーカーも設置されていました。初めての人にコーヒーはなかなかハードルが高いけど、ソーシャルアパートメントに住んでハマる人も多いとか。これ以外にも、普通の一人暮らしだとなかなか持てない器具(ル・クルーゼなど)が多く揃っていました。結果、ソーシャルアパートメントに住み始めて料理に目覚める人もいるのだとか。
「二子玉川の物件は1Kタイプなので各部屋にキッチンは付いていますが、1Kだとやはりキッチンは狭いです。『若者は料理をしない』と言われていますが、そういうわけではなく、料理できる環境・設備が整っていないだけなんですね。共用スペースには『ここに来れば何でも料理することができる』くらいの充実したキッチンを設け、部屋から降りてきて料理できる環境を用意しています」(グローバルエージェンツ・山崎剛代表)
なんと、バレンタイン時期には"オーブン渋滞"ができることもあるそうです。


ちなみに、キッチンスペースの冷蔵庫に自分だけのものを入れるのは厳禁。ここの冷蔵庫に入っていたら"みんなのもの"と認識されてしまいます。逆に言えば「良かったら食べて」という意味合いで何かを入れておくのも良い。中にあるものは1カ月ごとに廃棄され、清潔さをキープしています。

●プレイラウンジ



二子玉川物件のプレイラウンジには、ビリヤード台が"ドン!"と置いてありました。「プレイラウンジ」は、ソーシャルアパートメントのメインコンテンツです。利用頻度はやはり高く、ハマっちゃう人は「帰宅したら必ず」という状態になるのだそう。他物件では、卓球台やダーツが設置されていたりします。

●ワーキングラウンジ


全館Wi-Fiが通っているので、ネット作業は問題なしです。カウンターで個別で仕事してもいいし、ソファ席でみんなで会話してもいい。カウンターは8席でソファは2席(4台)。動線設計にもこだわっており、「1人でも数人でも作業できる」を意識して造っているそうです。




ワーキングラウンジが満席になることは、ほぼないらしい。この空間があることで外のカフェへ行かずとも空いてる場所で作業できるし、一方で外のカフェへ行きたくなる時も当然出てくるでしょう。要するに、「"場所"が増える」という考え方です。


室内の壁の文字・イラストは、チョークで描かれているとのこと。スゴい!


共用スペースの本棚には、住人が好きな本を自由に置いてOKです。「これ、読んで!」と住人間でシェアする使い方も可能。もちろん、住む人によって本の傾向は変わってくるでしょう。

●ヒーリングルーム


日常的にリラックスしたい人が利用する空間。ここで女性同士が座って会話を楽しんだり。お気に入りの音楽をここに持ち込み、曲を流しながらくつろぐ人も多いようです。


奥にはちゃんと浸かれるバスタブ(ファミリータイプ)が用意されており、ここでお風呂を楽しむことも可。「自室よりゆったり入りたい」と、毎日この浴室を使う人もいるし、ゆっくり休日の昼間に入る人も多いです。ちなみに石鹸・シャンプーは、各々による持ち込みです。

「シェアハウス」と「ソーシャルアパートメント」の違い


「ソーシャルアパートメント」に入居する住人は、例外なく共用スペースに魅力を感じ、他者との交流を楽しみたいと考えています。
一方、部屋に関してはそれぞれニーズが異なる。「水回り全部、部屋に欲しい」と1Kタイプを望む人がいれば、「風呂トイレは一日1〜2回しか使わないし、毎日掃除に入ってくれるなら共用のみの方がいい」という人だっているでしょう。「いやいや、1LDK欲しいでしょ」という人もいるはずです。それぞれの部屋のニーズに合わせ、いろんな間取りを用意しているのがソーシャルアパートメントの大きな特徴であり、そこがシェアハウスとの大きな違いです。

もう一つ、大事なポイントがある。3LDKや一軒家を一部屋ごとに割ってそれぞれで貸していくという"割り算の概念"がシェアハウスの考え方。ソーシャルアパートメントは、一部屋をそのまま一契約として使っていき、そこに新たにラウンジ空間を加える"足し算の概念"で運営しています。
というわけで、各々のプライバシーを確保する部屋を見てきました。






二子玉川の物件は、2年のプランで7万円。付近の相場としては、決して高くない家賃です。
「もともと20〜30万で貸していた3LDKの一部屋を6〜7万で貸すことで家賃が安くなる……というのがシェアハウスの考え方です。ソーシャルアパートメントの場合は、例えば元は5万のワンルームに付加価値の共用スペースが付き、6〜7万円になるという形です」(山崎代表)
貸主としては共用スペースを設けることで一般的な賃貸マンションよりレンタル比率は下がるが、一部屋あたりの賃料を普通のワンルームマンションより20%ほど上乗せしてまかないます。逆に住人側からすると、「こんなに広い共用スペースがあるなんて!」と魅力に映るでしょう。
「普通の一人暮らしでこれほどのスペースを専有しようとしたら300万ほどの賃料が必要になってきますが、一般ワンルームマンションの相場プラス20%ほどでこの空間を全部自由に使うことができるなら『むしろ、それいいよね』という訴求になっています」(山崎代表)

共用スペースに関しても、シェアハウスとソーシャルアパートメントでは違いがあります。シェアハウスの場合、共用スペースは「みんなのもの」という考え方。なので、ルールは住人で決めたものになりがちです。一方、ソーシャルアパートメントの共用スペースは、あくまで「貸主が提供する空間」。要するに「建物のルールに則って利用していただきます」という形です。
「"自分たちの空間"だと、住人の独断でカスタマイズされていきます。元からいる住人さんにとっては良いですが、新しく入ってくる人にとってはよくわからない空間となり、品質を維持できません。ソーシャルアパートメントに関しては、共用スペースに私物を置くことは一切できません。駐禁のように、置いたら撤去されてしまいます。行政的な視点で管理されるので、長期的に品質が維持されます」(山崎代表)
掃除・ゴミ出しに関しては、シェアハウスでよくある当番制とは異なり、全てスタッフが行うらしい。「私はやってるのにあなたはやってない」とトラブルの元になりやすいゴミ出しですが、トラブルの元自体をつくりません。

また、分譲マンションにも共用スペースはありますが、使用の際は予約が不可欠です。そして、自分だけ(自分のグループだけ)でそのスペースを使います。
ソーシャルアパートメントに関しては予約不要だし、24時間いつでも使用可能。かつ、他の住人と共同して利用する。分譲マンションのそれとは解釈が180度異なります。

「自転車と暮らす」がコンセプト


ソーシャルアパートメントでは、各物件に"ソフトコンセプト"を設けられています。二子玉川のコンセプトは「自転車と暮らす」でした。


二子玉川のソーシャルアパートメントは駅から徒歩20分の場所にある物件ですが、多摩川沿いの河川敷へ行くとサイクルロードがすごく気持ちいいです。要するに、自転車とは相性の良い立地。また、昨今は自転車通勤者が増えているし、駐輪スペースを用意しているオフィスも多い。サイクリスト人口は増加しており、自転車自体が世の中的にホットトピックスになっている現状があります。

コンセプト「自転車」が、視覚的に最も表現されているのは入り口付近ではないでしょうか。



エントランスで自転車をカスタマイズしたり、メンテナンスしたり。掛かっている工具は自由に使うことが可能です。


帰宅してラウンジで話している間、一時的に自分の自転車をここに掛けるのも許されています。自転車は自分の部屋まで持ち込んでもいいし、屋内の駐輪場へ持って行ってもいい。通り抜けは自由です。

また、物件内のあちこちには自転車をテーマにしたグラフィック・デザインが見受けられました。




他のソーシャルアパートメントでは「音楽」「アウトドア」等がコンセプトとして標榜されており、各物件のコンセプトに沿ったグラフィックが物件内に施されているそうです。


実は今回、実際にこの二子玉川の物件で生活している長井圭太さんにもお話を伺ってきています。
「『自転車』というコンセプトに惹かれたところはすごくあります。自転車がすごく詳しいわけではないのですが、好きなので、そういう人たちが集まっているのなら似た感覚の人が多いかな? と思い、ここに住むことを決心しました」(長井さん)

「ソーシャルアパートメント」で出会い、結婚することのメリット


護国寺にあるソーシャルアパートメントで生活し、マンション内で出会って結婚した伊集院大樹&恵夫妻も、今回の内覧会にお越しいただいています。


では伊集院ご夫婦に、「ソーシャルアパートメントで出会い、結婚することのメリット」を伺いましょう。

――お互いがソーシャルアパートメントに住んでいると、結婚前に知れて良かったことも多いのではないでしょうか?
大樹さん はい。まずは、生活習慣ですね。本来であれば交際を始め、ある程度時間が経って相手の家へ行くようになり、そこで初めてそれぞれの生活リズム・レベルがわかるようになると思うのですが、もっと前の段階でそれを知れたのは相当大きいです。"よそ行きの顔"ではなく"プライベートの顔"を見て、交際が始まりました。今、護国寺には5〜6組のカップルがいるのですが、結婚をしてマンションをすでに出て行ったカップルもいます。決して、テラスハウスではないのですが(笑)。
恵さん 好意がある相手にいい顔をするのは当たり前だと思いますが、他の人への態度も短期間で見ることができました。
――初めて2人が会話したのはどのスペースで、どんなことをしている時でしたか?
大樹さん 護国寺の物件へ入居した時期に交際していた女性にフラれ、その日にエレベーターで一緒になり「今日、フラれたから飲もうよ」と飲んだのがきっかけでした。
――住民同士の間では"苦手な人"もいると思います。そういう人と交流しなければならないという問題は出ませんか?
大樹さん 護国寺には180部屋あるので、相性の問題は当然出てきます。ただ共用空間のスペースはうまく分かれているので、必ずしも同じ空間にいなければならないという造りにはなっていません。なので、"大人な対応"として避けることができます。入居者同士の衝突はないです。
――どうしても一人になりたい時もあると思うのですが?
恵さん 私は看護師をしているので、夜勤で疲れたまま帰宅し、誰とも会いたくない日もあります。そういう時は一人で帰ってきてそのまま部屋へ向かうことができるので、助かっています。

ソーシャルアパートメントの各物件で統計を取ると、なぜかどのマンションも男女比は半々くらいになるそうです。入居者属性は、主に社会人の1〜13年目。平均年齢は、およそ29歳。22〜30代前半までをコアターゲットにしているらしいです。
「将来的には、誰もが引っ越しの時に『ソーシャルアパートメント』を選択肢として考える域に持っていきたいと思っています。"文化"として社会全体に広めていきたいですね」(山崎代表)

同社は、2020年までにソーシャルアパートメント5000室の普及を目標にしているそうです。あくまで首都圏が中心ですが、一方で地方や海外都市への積極展開も計画しているとのことでした。
(寺西ジャジューカ)