名探偵といえば、華麗な推理力が欠かせません。理論的かつ鮮やかに事件を解決するその姿に、一度は憧れを覚えた人も多いでしょう。

それでは、現実の探偵に推理力は必要なのか?

フィクションの世界とは違う本物の探偵について、元探偵の筆者がご紹介させて頂きます。

探偵にはどうやったらなれる?



探偵とは「特定個人からの依頼を受け、尾行や張り込み、聞き込みなどの調査を行い、調査結果を報告する」ことを仕事にしている人々を指す言葉です。

探偵が受ける依頼内容はバリエーションに富んでいます。浮気調査や所在調査や行方調査をメインに、ストーカー調査や、盗聴器関連、企業信用、個人信用、さらには各種犯罪調査など様々です。

フィクションの世界の名探偵は殺人事件を専門にしています。
しかし、実際の探偵はそこまで犯罪調査は行いません。むしろ、家庭内や近隣、もしくは警察では対処しきれない問題の調査がメインとなります。

日本では、探偵になるための国家資格はありません。
学歴、経歴に関係なく、誰もがその気になれば探偵になれるのです。

・自ら開業する

探偵になるための一番の近道は自ら開業することです。
日本では、探偵業の届けを出すことで簡単に探偵になれます。しかし、ノウハウも無く開業しても失敗することが多いです。

ただ、会社を成長させていくと、年収1億を超える探偵社もゴロゴロと出てきます。探偵は不況に強いとも言われ、経営が軌道に乗ると、案外安定しやすい職業とも言われています。

・探偵社に入社する

現在、日本にいる探偵の半数近くが、探偵社に入社して働いているサラリーマン探偵です。
彼らは業界では主に「調査員」と呼ばれ、調査だけを専門的に行うプロフェッショナルです。個人事業主の探偵とは違い、経理や営業活動などは殆ど行わず、日々調査に明け暮れています。

入社をするためには、最低限、自動車免許か二輪自動車免許が必要になります。
給与は月給制度+インセンティブとなっている会社が多く、調査員の平均年収は600万円程と言われています。

ミステリ好きは探偵に向かない?


さて、探偵になりたいと思う人の中にはミステリ好きの方も多いです。フィクションの世界の探偵物語にあこがれて「自分も探偵になりたい!」と思い、探偵社の門を叩くのです。

実は筆者もミステリに憧れて探偵になりました。しかし残念ながら、探偵業界ではミステリ好きだからこそ、この業界に向かない部分が多いのです。

ミステリ好きが探偵として失敗した例といえば、日本の推理小説家、江戸川乱歩の逸話が有名です。

乱歩はかつて本物探偵に憧れ、探偵事務所に面接に行ったことがありました。
弟子入りを志願したのは、政権を揺るがす巨大贈賄事件(シーメンス事件)を解決に導いたことで知られる本物の名探偵・岩井三郎の探偵事務所です。

乱歩は面接の際に「ぜひ私を探偵にしてほしい、推理小説を書いているので、推理力には自信がある」と岩井三郎に言ったそうです。

ところが、所長の岩井三郎はこの申し出を断りました。
岩井三郎が入社を拒否した理由は明らかではありませんが、一説によれば乱歩が探偵の仕事を「推理力に頼ったもの」と考えたからだと言われます。実際の調査では、推理力に頼る人間ほどミスを犯しやすいのです。

リアル名探偵の特徴とは?


現実世界で目にする名探偵とは、推理ではなく、「証拠」を見つけることに重きを置いています。このポイントが、フィクションの世界の名探偵とは明らかに違う部分でしょう。

・証拠を追う能力に優れている

証拠を追う能力とは、尾行、張り込み、聞き込みなど、様々な調査技術を駆使して証拠を追い求める能力です。

特に重要なのが尾行です。徒歩、自転車、二輪車、四輪車など、あらゆる方法で対象者を追いかけ、なおかつ発覚を防がなければなりません。探偵業界では、尾行が一人前になるまで、最低でも3年は掛かると言われています。

・証拠を取る能力に優れている

証拠を取る能力とは、一眼レフや特殊カメラ、そしてレコーダーなどを用いて、証拠となる決定的瞬間を抑える能力です。特に撮影能力は重要です。尾行をしつつ、ラブホテルへの出入りなど、一瞬のチャンスをモノにできなければ、全ての調査が泡と消えます。

・証拠を固める能力に優れている

証拠を固める能力は、探偵業では最も重要かもしれません。得られた情報は確かなのか、証拠として使えるのか、常に裏を取る必要があります。とても地味な仕事ですが、事実を伝えるために、決して欠かすことが出来ません。

本物の名探偵の条件は「リアリズム」と「好奇心」


現実の名探偵は、推理にそれほど価値を見出していません。プロフェッショナルな探偵であればあるほど、推理に頼るのではなく、地道な調査を武器にする徹底的なリアリズムを持ち合わせているのです。

また、探偵社の提出する報告書は裁判での利用を前提としています。不確かな証拠が命取りになる世界で自分たちが作った報告書が戦うことになるからこそ、推理などに頼ることはまずありえないのです。

さらに、探偵には好奇心が強いことも重要です。
幅広い知識だけではなく、調査において「知りたい」という強い衝動は、難しい調査を続ける原動力になります。それが無くては、探偵という仕事は務まりはしません。

ミステリ好きは探偵業界では優遇されはしません。
しかし、もしあなたが好奇心旺盛な現実主義者であれば、もしかしたら、フィクションの世界に登場するような、優れた探偵になれるかもしれませんね。

ただ、探偵になるための面接を受けるなら、ミステリ好きを全面に出さない方が身のためです。あの乱歩ですら、丁重にお断りされてしまったのですから。

(サナダテツヤ)