インフルエンザ予防接種の効果は赤ちゃんにも伝わる

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妊娠中にインフルエンザの予防接種をすべきかどうか迷う女性が少なくない。妊婦がインフルエンザにかかると重篤になるおそれがあるため、厚生労働省や日本産科婦人科学会は接種を推奨しているが、ワクチンの副作用などを心配しているためだ。

そんななか、妊娠中にインフルエンザの予防接種を受けておくと、生まれた赤ちゃんにも予防効果が波及することがわかった。米ユタ大学のチームが米小児科医学誌「Pediatrics」(電子版)の5月3日号に発表した。

インフルエンザの死者は年間1万人、乳児に多い

厚生労働省によると、インフルエンザによる死者は、平均で年間数千人から1万人前後と「推計」されている。「推計」というあいまいな表現なのは、インフルエンザの発症が直接、間接の原因となり「肺炎」などの疾患で死亡しても、死亡証明書の「死因」欄に「インフルエンザ」が明記される場合が年間数十〜数百件しかないからだ。

このため、世界保健機関(WHO)では「超過死亡概念」という統計手法で、世界のインフルエンザ死者の概数の把握に努めている。インフルエンザの流行には波があるため、流行年に総死亡数が上昇した場合、死因を問わず増加分をすべてインフルエンザ感染症による死者とみなす考えだ。

いずれにしろ、数千〜1万人の死者のうち、かなりの割合で妊婦、乳児、高齢者がいるとみられる。しかし、インフルエンザワクチンによるアレルギーショック(ワクチンは卵白で作られる)や副作用による流産を心配したり、また有効性に疑問を持ったりして接種しない人が多い。医療機関などの推計によると、予防接種を受ける妊婦は約60%ほどだ。

生後半年を過ぎないと予防接種受けられない

米ユタ大学のチームは、2005年に健康診断を受けた妊婦24万5386人と、生まれた子どものデータから、インフルエンザの予防接種による影響を分析した。その結果、次のことがわかった。

(1)妊娠中にインフルエンザの予防接種を受けた母親は、全体の約9.5%(2万3383人)にとどまった。

(2)調査期間中、生後6か月以内にインフルエンザを発症した乳児は658人いたが、そのうち638人が予防接種を受けていない母親の子で、20人が予防接種を受けていた母親の子だった。

(3)658人のうち、入院する重体に陥った子は151人で、うち148人は予防接種を受けていない母親の子、3人が受けていた母親の子だった。

(4)以上のことから、母親が妊娠中に予防接種を受けていると、生まれてきた子が半年以内にインフルエンザにかかるリスクは、受けていない母親の子より、約70%以上も減ることがわかった。これは、予防接種による免疫が母体をつうじて赤ちゃんにも伝わるからとみられる。

米国でも日本でも、赤ちゃんは、生後半年を過ぎないとインフルエンザの予防接種は受けられないので、新生児には朗報だ。今回の結果について、ユタ大学のキャリー・ビングトン博士は「お母さんは、妊娠中にインフルエンザに感染すると重症になりがちです。また、生後半年以内の赤ちゃんは予防接種が受けられないため、他の手段で守ってあげることができません。ぜひ、多くの妊婦さんに予防接種を受けてもらいたいです」とコメントしている。