「漢字」、一文字一文字には、先人たちのどんな想いが込められているのか。時空を超えて、その成り立ちを探るTOKYO FMの「感じて、漢字の世界」。今回の漢字は「環境」「循環」の「環(カン)」。「たま・たまき」とも読む漢字です。今回は「環」に込められた物語を紹介します。



「環」という字の向かって右側の部分は死者の姿を表し、上には、生命の象徴としての「目」が横にして描かれています。

左の「王」はもと「玉(タマ・ギョク)」。

死者の霊に力を添えるものとして襟元に置きました。

古代中国の死生観のひとつに、生も死も、自然の状態の変化に過ぎないという考え方があります。

どこからかやってきた魂は、死んだ肉体を離れ、いずれまたどこかの新しい肉体に宿る。

旅立とうとする魂に力を、邪悪を見分ける開かれた目を。

「環」という漢字は、死者を見送る人たちのそんな想いを反映したもの。

死者が生きかえることを願う儀礼を表しているといいます。

この儀礼のときに玉を使うことから「たま、たまき」の意味となり、円くめぐっている形から「かえる」という意味ももつようになりました。

今からおよそ三千年前の春の日のこと。

永遠の眠りについた母の横で涙をぬぐう少年に、父は静かに語りかけます。

母の魂は今、新たな力とよく見える目をたずさえて、旅に出る。

美しくさえずる小鳥、やさしい瞳をもつ野うさぎ、しなやかに泳ぐ川魚。

これからお前が出会うものたちの中に、母のいのちが宿るはず。

だから、生きているものすべてと語り合う術をもちなさい。

そうすればきっとまた、母の魂とめぐり会えるのだ、と。

ではここで、もう一度「環」という字を感じてみてください。

私たちをとりまく自然のすべてにいのちは宿り、たえずめぐり続けている。

だから、いのちあるものはみな等しく、尊重されるべきものなのだ。

この漢字には、いにしえの人たちのそんな死生観が反映されています。

他のいのちを軽んじることは、自分たちのいのちを危うくすることになる。

たまたま人間である自分に与えられたいのちを、自分たちのためだけに使うおろかさ。

悠久の時に育まれてきた地球の自然を、都合よく使い、変えてしまう傲慢さ。

「環」という字からは、そんな人間たちへの警告も聞こえてきます。

四月二十二日は、地球環境について考える日、アース・デー。

今一度、「環」という漢字のなりたちを、肝に銘じておきたい一日です。

漢字は、三千年以上前の人々からのメッセージ。

その想いを受けとって、感じてみたら……、

ほら、今日一日が違って見えるはず。

*参考文献

『常用字解(第二版)』(白川静/平凡社)

『絵で読む漢字のなりたち 白川静文字学への扉』(金子都美絵/太郎次郎社エディタス)

4月23日の放送では「遊」に込められた物語を紹介します。お楽しみに。

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<番組概要>

番組名:「感じて、漢字の世界」

放送エリア:TOKYO FMをはじめとする、JFN全国38局ネット

放送日時 :TOKYO FMは毎週土曜7:20〜7:30(JFN各局の放送時間は番組Webサイトでご確認ください)

パーソナリティ:山根基世

番組Webサイト:http://www.tfm.co.jp/kanji/