漫画・アニメ好きは犯罪者予備軍なのか!? (C)孫向文/大洋図書

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 こんにちは、中国人漫画家の孫向文です。2016年3月31日、埼玉県朝霞市内で当時13才だった女子中学生を誘拐し、約2年間にわたり拉致・監禁した罪で東京都中野区に住む23才の大学生が逮捕されました。

 現役大学生が幼い少女を監禁するという内容から、日本中に衝撃を与えたこの事件ですが、僕はテレビ、新聞など主要メディアによる容疑者に関する報道内容に大きな疑問を感じました。

■報道番組では容疑者のある気質を強調

 各メディアでは容疑者がカバンにアニメキャラのキーホルダーをつけていたなど、「女子高生アニメに夢中だった」ということが大々的に報道されました。他にもあるテレビ局の報道番組では、「航空機マニア」、「秋葉原にひんぱんに出かけていた」など、容疑者がいわゆる「オタク」気質の人物であることを強調して報道されていたのです。報道内容をそのまま受け取ると、「オタク的な趣味は犯罪を誘発する」とすら感じられますが、容疑者は特に性的、残虐描写の強い作品を好んでいたという事実は存在しません。

 また、一般的に日本の漫画・アニメ作品は10代の少女が登場する確率が非常に高く、「女子高生アニメ」という聞きなれない言葉からは、「容疑者は変質的な作品を見ていた」というメディア側の印象操作を感じます。

 多くのメディアが偏向的なイメージにもとづいて報道を行っていることは、他の事件からもうかがい知れます。例えば15年に神奈川県川崎市で13才の男子中学生が3人の少年たちに殺害された事件では、少年たちのリーダー格のメンバーの趣味がアニメ鑑賞で、被害者の中学生と「ラブライブ!」というゲームについて話していたと報道されました。

「ラブライブ!」は架空のアイドルグループをテーマにしたゲームで、確かに作中には数多くの美少女が登場しますが、出演声優によるユニットが紅白歌合戦に出場するほど一般的に認知された作品であり、この作品を愛好することは決して変質的な趣味ではありません。

 今回の記事を執筆する上で、日本に「犯罪者はオタク気質の人物が多い」という偏見が根付いたのは、過去に発生した事件の影響であると日本の知人から伺いました。1980年代末期に東京・埼玉で4人の幼女が誘拐・殺害された事件において、容疑者が美少女アニメやホラー作品のビデオを所持していたことが反響を呼び、事件直後は各方面で性的、残虐描写に対する規制が行われたそうです。

 しかし、容疑者は同時に様々なジャンルの映画作品やアニメを大量に所持しており、変質的な作品はコレクションの中のごく一部にすぎないというのが真相だったようです。当時のメディアが容疑者の異常性を際立たせるために、容疑者が美少女アニメやホラー作品愛好家であることを強調して報道した結果、上述のような偏見が生まれたようです。

 美少女をテーマとした日本のメディア作品は、「萌え系」などと呼ばれ世界中でヒットしています。中国でも日本の美少女アニメは人気を博しており、90年代には「美少女戦士セーラームーン」や「カードキャプターさくら」、2000年代には「涼宮ハルヒの憂鬱」、数年前には「けいおん!」や「魔法少女まどかマギカ」、最近では「ご注文はうさぎですか?」、「咲saki」といった作品が、日本とほぼ同時期に大ブームとなり、今でも根強い人気を保っています。さらにアニメから発生した「μ’s」「プチミレディ」などといった声優ユニットの歌は、中国で大きな話題になっています。

 中国の女子高生は、ジャージです。日本の女子高生は多様な制服をオシャレに、かわいらしく着こなしており、そこが中国人にとって憧れの要因となっているのです。

 また、海外のクリエイターが日本の漫画やアニメをモチーフとした作品を発表する機会も多く、キアヌ・リーブスやレオナルド・ディカプリオといったハリウッド俳優たちが、「攻殻機動隊」など日本のアニメをお気に入りの作品にあげたり、女優の山本美月が「鋼の錬金術師」など重度のアニメマニアであることを公言するなど、今やオタク文化は、日本が誇る新時代のコンテンツとして国内外で認知されています。従来の日本に存在した、「暗い」、「内向的」といったオタク文化に対するイメージは完全に時代錯誤なものといえるでしょう。

 テレビ、新聞によるオタク文化に対する偏向的な報道姿勢は、新しいものを認めようとしないメディア上層部の古い気質、そして自国の文化を素直に賞賛できない日本のメディアの左派・リベラル的な風潮が関係しているかもしれません。

 日本の各メディアはオタク作品に対する「負のイメージ」を捨て、海外で大ヒットしているといった「正のイメージ」を強調して報道するべきだと思います。

著者プロフィール


漫画家

孫向文

中華人民共和国浙江省杭州出身、漢族の31歳。20代半ばで中国の漫画賞を受賞し、プロ漫画家に。その傍ら、独学で日本語を学び、日本の某漫画誌の新人賞も受賞する。近著に『中国のもっとヤバい正体』(大洋図書)

(構成/亀谷哲弘)